第五話 神楽坂最終決戦
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あの事件から二日。藍里は未だにこちらの呼びかけに応じない。
しかし、人格が交代した形跡はあった。昨日今日と、僕は流矢の自宅前で意識を取り戻したのだ。
やはり藍里は、夜ヶ峰先輩を排除した後に流矢の人格を抹殺するつもりだったのだ。
なぜ流矢の自宅前で人格が交代してしまうのか、僕には見当がついていた。
その時、玄関のドアが開かれ、流矢が姿を現す。
第五話 神楽坂最終決戦
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あの事件から二日。藍里は未だにこちらの呼びかけに応じない。
しかし、人格が交代した形跡はあった。昨日今日と、僕は流矢の自宅前で意識を取り戻したのだ。
やはり藍里は、夜ヶ峰先輩を排除した後に流矢の人格を抹殺するつもりだったのだ。
なぜ流矢の自宅前で人格が交代してしまうのか、僕には見当がついていた。
その時、玄関のドアが開かれ、流矢が姿を現す。
……栄町、だよな?
ああ、やはり僕の考えは正しかったようだ
自分の予想が当たっていたことを確信した僕は、この二日間を思い返す。
あの時……夜ヶ峰先輩が刺されているのを見た流矢は、すぐさま先輩に駆け寄った。
先輩! 夜ヶ峰先輩! なんで、なんでこんなことに! いやだ! 先輩が死ぬなんていやだ!
落ち着け流矢! 止血はしたし、救急車も呼んだ! 下手に動かしたら危険だ!
だが流矢はすぐさま僕に掴みかかってきた。
お前、いや神楽坂だな!? 神楽坂が先輩をこんな目に!
それは……
お前のせいだぞ栄町! お前が神楽坂をうまくコントロールしていないから先輩が!
……そうだ、僕のせいだ。藍里にここまでの行動をさせた原因は僕にある
……ふざけんな! ちくしょう、今すぐ神楽坂を出せ! 俺が殺してやる!
それは出来ない! そんな方法は知らないし、藍里に危害を加えることは許さない!
ちくしょう、ちくしょう! お前は……お前はなんなんだよ! 俺はお前をどうすればいいのかわかんねえよ!
確かに、流矢の気持ちもわかる。
懸想する先輩を傷つけた存在と、その人を助けた存在が一つの肉体に同居しているのだ。彼でなくとも混乱してしまうだろう。
しばらくして救急車が学校に到着し、夜ヶ峰先輩は病院に運ばれていった。
僕たちも救急車に同乗し、病院に向かう。
治療室に運ばれた先輩を見送り、僕たちは待合室で話し合っていた。
俺はお前を見張っているぞ。いつ神楽坂に交代するかわからないからな
そうしてくれ。僕も藍里にこれ以上罪を重ねて欲しくはない
しばらく無言の時間が続いたが、流矢が突然口を開いた。
……今回のことは、神楽坂が起こしたんだな?
そうだ……。おそらく、『能力』を持つ夜ヶ峰先輩を警戒して排除しようとしたんだろう
自分で言った言葉にショックを受けてしまう。そうだ、先輩は藍里によって傷つけられた。
中倉さんの時もショックだったが、親しい人が藍里に傷つけられたという事実はそれ以上の衝撃だ。
僕が、僕がもっとしっかりしていれば……
思わずつぶやいた言葉に、流矢が反応した。
栄町、はっきり言っていいか?
珍しく流矢が歯切れの悪い発言をする。
なんだ?
俺は、俺は正直言って、このまま神楽坂がいなくなればいいと思っている
なに!?
その言葉を聞いて、思わず流矢に掴みかかってしまう。
ふざけるな! 冗談にしても質が悪いぞ!
冗談じゃねえよ。俺は本気だ
なぜ、なぜそんなことを言う!?
なぜだって!? 俺は大好きな先輩をあいつに傷つけられたんだぞ!
今度は流矢が僕に喰ってかかる。
考えてもみろ! 神楽坂は先輩を傷つけ、その罪を他人に背負わせてんだぞ!
中倉のことだってあいつがやったんだろ! 俺にとってあいつはそんな最低な人間なんだ! なんでそんな奴の無事を祈らないといけねえんだ!?
流矢はさらに感情を爆発させる。
それだけじゃねえ! あいつさえいなければ、お前だってその身体から出ていかずに済むんだ!
そして、僕の目をまっすぐに見据える。
俺は先輩を助けてくれたお前には感謝している。だからお前には消えて欲しくねえ。
俺はわからねえんだ。神楽坂はお前が自分の存在を消してまで救う価値のある存在なのか?
そうか……
流矢からすれば、藍里はあこがれの人を傷つけた張本人。
それを必死に守ろうとするのは、気にくわないかもしれない。
でも、それでも。
そうだとしても、僕は藍里を守りたい。彼女が道を外したとしても、そこから彼女を救いたい
僕の意志は変わらない。
……俺がなんで、お前のその考えが気にくわないのかがわかったぜ
え?
お前等はお互いのために生きている。なのに、お互いの意志はまるで尊重していない。お前が必死に神楽坂を救おうとしているのに神楽坂は道を外し続けているし、お前はお前で神楽坂の意志に反して自分を蔑ろにしている。お前と神楽坂に、大した違いはないように見えるぜ
……
そうかもしれない。僕は自分を蔑ろにしている。
でも、僕は藍里の幸せを心から……
そこまで考えて、違和感を感じた。
僕はここまで藍里のことばかりを考える人間だったか? ここまで自分を蔑ろにする人間だったか?
流矢は僕と藍里が似ていると言った。そうだろうか? 僕はそこまで藍里に似ていただろうか?
不自然だ。僕は、僕はもっと自分と他人を分けて考える人間じゃなかったか?
……ぐうっ!?
その時、強烈な頭痛が僕を襲った。
く、うう……?
なんだ? なぜこのタイミングで頭痛が?
まるで、まるでこれでは……
失礼します
頭痛に苦しむ僕と流矢の前に、先輩の治療を担当した医師が現れる。
先生、先輩は!? 先輩は大丈夫ですか!?
一命はとりとめました。ですが、意識はまだ戻っていません。面会は難しいと考えて下さい
よ、よかった……
先輩の無事を知った流矢はその場にへたり込み、安堵の涙を流した。
よかった……先輩は生きていてくれた。
それでも、面会は出来ないとのことだったので、僕は流矢に送られる形で藍里の自宅に戻った。
刃物の取り扱いに慣れてそうな御医者さま……!
は置いといて、意外と冷静な流矢くんの好感度が上昇中です。流矢くんの目に、大護くんは「相手の為に生きる」と言うエゴを押し付けているように映っているように思いました。第五話に突入して今後も期待です!