玻璃さんが腕を振り上げ――ダーツを放った、その時である
玻璃さんが腕を振り上げ――ダーツを放った、その時である
ちょーっとまったー!
み、美香!?
!?
!?
どこからともなく、ギャリギャリギャリと地面の砂利を吹き飛ばしながら滑りつつ美香が現れた。
そのエキサイティングな登場の仕方とタイミングはともかく、僕が目を引いたのは、美香の周囲を取り囲む白い粒子……
そう、まるで、白い……白い、女!
助けに来たよケン君ー!
言いながら、美香は僕と玻璃さんの間に滑り込んできて――そのまま滑って通り過ぎて行った。
あれ!? 勢いつけすぎちゃったー!
お前何しに来たんだー!
そして、
玻璃さんが放ったダーツは、
そのまま、
玻璃ちゃんの、
脳天に
と、突き刺さった。
え? 幸せになる水晶のことについて、私がどれだけ知っているか……ですか?
うーん、どれだけって言われても……
まぁ、全部知っていますからね
何故……って、『あなた』から聞いたことを種にして、あとはちょっと調べて要素を組み合わせれば、自ずと真相は浮かび上がってきますよ
え? それはアナタくらいだ……って?
そんなことないですって
えーっと……そうですね……まずは、水晶の正体からでしょうか
あの頃……つまり六年前、お父さんはよく外出していましたね
気になっていたので、お父さんがいない間、私はお父さんのノートパソコンをこっそり覗いていたのです
え? パスワード?
そんなの当然知っていますよ。
もちろん、ケンには教えませんでしたけど
どうして教えないか……って、それは当たり前じゃないですか。
面白くないから、ですよ。
だって、私がでしゃばったら、全部あっさり終わっちゃいますよ
私自身に火の粉が降りかかってくるなら、全力で潰しますけどね。
でも、そうじゃない限り、私は傍観を決め込みますよ。
ほら、ゲームだって、プレイするのが好きな人と、プレイするのを見るのが好きな人っているでしょう?
私は後者ってわけですね
あー、えっと、何の話でしたっけ。
そうそう、お父さんのパソコンですね。
えぇ、パソコンを覗いていたので、当時起こっていることは全部知っていました
水晶。
幸せになる水晶。
それは、まぁ、未知の力を秘めた結晶……とでも言うんですかね
そこまで詳しく見てませんが、まぁ、水晶っていうのは、古来から信仰の対象であったりしたわけです。
だから不思議パワーを秘めやすい……とか。
グレート製薬は、その力を研究していたんです。
で、北にある鉱山で、水晶の発掘作業をしていたんですが……その途中で、ある洞窟を見つけたらしいんです。
その洞窟の中には神社というか、お社みたいなものがあって、そこに祭られていたのが、いわゆる、『幸せになる水晶』ですね。
ただしそれは、『人の形』をしていたらしいです。
えぇ、もちろん言葉も交わせます。
そして何より、その『彼女』は、水晶の不思議パワーを自在に操る力があった。
それが、『白い彼女』ですね。
お父さんのメールにもあった、白い彼女。
メールのやりとりをしていたケープさんの伝手で、お父さんも白い彼女と交流していたそうです
その三人は仲が良かったそうですけど……グレート製薬は、そんな仲良しごっこのために白い彼女を連れてきたわけじゃなかったんです
そう、白い彼女の研究ですね。
だから、白い彼女をバラバラにした。
水晶の力を研究、利用するために、手足を千切って、精神と肉体をも分離させた
バラバラになった部位は、それぞれが特殊な力を保有していました。
例えば……その右腕は、鋭い針を生成して、目標物を正確に打ち抜けたり……左足は、目標の運動能力を制限させたり……
そして、肉体は何をされても死なない、不死身の肉体。
……まぁ、言ってしまうと、お父さんはその不死身の力が欲しかったんですね
えぇ?
お父さんは白い彼女の味方では無かったのか……って?
お父さんがそんな善人なわけないじゃないですか。
あの人は、ポーズだけ、ですよ
外面は良いから、騙される人って多いんですよね。
あ、『あなた』もその一人でしたっけ
あの人が他人を救うのは、自分の利益になるから、ですからね。
まぁそれが、結果的に幸せに繋がることもあるとは思いますけど
んで、さっきも言ったように、お父さんは不死身の力が欲しかったんです。
だから、『自分の意にそぐわない形で彼女を分解した』のが許せなかったんですね
だから、なんか怒ってグレート製薬爆破させたんですよ。
アグレッシブすぎますよね
ま、それでお父さんの身体も粉微塵になっちゃったわけですけどね
爆発事故の後、私もその現場に行ってみたんです
水晶の残骸とか、白い彼女とか、お父さんの死体とか、気になるものがいっぱいありましたからね
そこで、一つ拾い物をしました。
えぇ、そうです、水晶の欠片……白い彼女の、バラバラになったうちの一つ、ですね。
ほとんどはいつの間にか回収されていたようですけど、その一つだけは、瓦礫に埋もれて残っていたようです
当然、特殊な力を持ってましたよ。
だから、プレゼントしたんです。
はい、ケンの幼馴染……美香ちゃんです
え? どうして自分で使わなかったのかって?
だから、私は人にプレイさせて楽しむタイプだからですよ。
ケンにあげても良かったですけど……ほら、あの子に扱えるとは思えないですからね
美香ちゃんならポテンシャルが高いので、色々面白いことに使ってくれると思いましたが……でも結局、ケンを助けるくらいにしか使ってないようですね
えぇ、まぁ小さな欠片だったので、身体能力を大きく向上させる、程度の力しか出せなかったようですけどね
まぁそれでも、例えばトラックを凹ませたりとか、水中で一時間くらい息を止められたりとか、それくらいなら可能ですよ
もっとも、美香ちゃんは自分がそんなことしてるってのを、ケンには黙っていたようですけどね
なぜって言われても……私は知らないですよ。
でもまぁ、私と同じような理由だと思いますよ。
異能に憧れる! とか普段からアホなこと言ってる人が、本当に不思議な力を手に入れたら、調子に乗って痛い目見ることは明らかですからね
……で、話は戻るんですけど、
美香ちゃんに欠片を渡した数日後に、例の幸せになる水晶が持ち込まれたんですね
えぇ、驚きましたよ。
なんといっても、爆発事故で死んだはずのお父さんが購入したことになってたんですから
水晶……白い彼女関係だというのは直感で分かったので、何かが起こるんだろうなぁとは思っていましたが、でもそれが起こったのは、ほんと最近でしたね
いやまさか、女の子が出てくるとは思いませんでしたね。
ケンには咄嗟に妹だとかテキトウに言いましたけど、普通に信じたみたいで面白かったです
でもまぁ、水晶が届けられたことで、ハッキリと分かりましたよね。
お父さんは死んでいない、ってことが
あぁいや、さっき言った通り、お父さんの身体は粉々にはなりました。
つまり、お父さんの肉体は死んだわけですね
でも、精神はそうじゃなかった。
……えぇ、その通りです
お父さんは、
バラバラに分解されて、
肉体と精神が離された、
白い彼女の身体を、
乗っ取ったわけです
あぁ~いってぇな~
脳天に突き刺さったダーツを引き抜いて、玻璃ちゃんは言った。
え……お、おい、玻璃ちゃん……大丈夫なのか?
くあぁ~……
玻璃ちゃんは僕の言葉を無視して大きなあくびをしてから、すとん、と僕の腕から飛び降りた。
僕の身体はまだ動かない……玻璃さんの力で動きが止められているが、その能力を無かったことのように、玻璃ちゃんは地面に立ち、腕を大きく伸ばす。
そして、
縫姫ちゃんは、
ボーっとしながら僕の顔を見て、小さく微笑む。
よう、ケンスケ、久しぶりやな
それは、どことなく、僕の嫌いな……大嫌いな、親父を彷彿とさせる笑みであった。