夏休み前の授業ほど気だるいもの以外の何物でもない。

……はぁ


 国語の授業、帰ってきたテストは想像通りに64点。
 毎度のことながら苦手科目のせいで平均点を落としてしまう。
 赤点じゃないだけマシか。
 友人たちの中には赤点で補習組決定で泣きを見てるのも何人かいるし。
 チャイムが鳴り響き、4時間目の授業が終わる。

修斗、ご飯行くわよ

はいはい。準備するから待ってくれ


 俺の席まで呼びに来た優雨。
 クラスメイトからは

相変わらず、仲が良いねー

とからかわれる。
 そんな甘い関係ではないのだが、まぁいい。

仲は良いわよ、幼馴染として適当にね

幼馴染でも高校まで続けば、本物だよね

んー。ただの腐れ縁なんだけど


 優雨は関係事自体は否定するわけでもなく、そうつぶやくと俺を急かす。

早く準備して。混雑するんだから

分かってる。すぐに行くよ


 俺は財布を確認してから席を立つ。
 昼食は基本的に学食を利用することが多い。
 そしてこの時間は混むので優雨も俺を急がせる。
 すぐに食堂に行くと大勢の生徒で混んでた。

いつも通り、私が場所を取るから。今日は……カレーでいいわ

了解。席を取るのは任せた


 ここからは連係プレイ。
 俺が昼食の注文をして受け取る間に優雨は席を取る。
 食券の自販機の前で俺は今日のメニューを選ぶ。

ん。今日のB定食はカレーコロッケか


 優雨がカレーと言う事でかぶるのは避けたいが、カレーと言う言葉に惹かれる。
なんとなくカレーを食べたい日もある。

これにするか。あとは、優雨のお金でカレーの食券を買えばいいだけ


 優雨からはお金を預かっているので、それで食券を購入する。
 そのまま、食堂のおばちゃんからB定食とカレーを受け取る。
 あとは優雨の居場所を探すだけだが……。
 辺りを見渡すと軽く手をあげる優雨がいた。
 今日はガラス張りの窓際の方の席らしい。

お待たせ、いい場所が取れたな

夏場は熱いから近付きたくないだけじゃない?

それもあるか。カレーでいいんだな

OK。ありがとう……って、スプーンがない!修斗、これは何のいやがらせ?


 げっ、間違えて箸を二つ持ってきてしまった。
 さすがにこれでカレーを食えと言うのは酷だろう。

早くスプーンを持ってきなさい、箸でカレーが食べられるか

上から目線が相変わらずだが……今回は俺の失態だ、仕方あるまい


 渋々、俺は再び席をたってスプーンを取りに行く。
 しかし、優雨の態度はどうにかならないのか。
 もう少し、女の子っぽいと言うか、こうなんて言うのか、ときめく仕草がない。
 いわゆる、異性としてのドキドキ感をアイツと一緒にいると感じないのが恋愛対象に思えない理由なのかもしれない。
 俺はスプーンを取ってくると、優雨に渡す。

……ほらよ、スプーンだ

遅い。すぐに持ってきなさいよ

悪かったな。……いただきます


 今日のB定食はカレーコロッケにサラダ、そしてご飯に豚汁、メロン風味ゼリー。
 B定食には毎回デザートがついてくる。

それ、カレーコロッケ?

おぅ。何だか俺もカレーの気分だったんだよ

素直に私と同じカレーにしておけばいいのに。アンタも天の邪鬼よね


 お前と一緒のメニューにしたくなかっただけだ。
 ただでさえ、変な風に誤解を受けやすい関係だと言うのに。
 幼馴染と言う関係を恋人関係に誤解する人は少なくない。
 別にこいつとどうこう噂されようがかまわない。
 だが、もしも、俺をこっそりと思う女の子がいて、優雨の存在が邪魔していたら困る。
 ……なんて言うのは都合のいい妄想か。

このコロッケ、サクッとしていて、美味しい

うちの学校は食堂が美味しい料理でよかったわ。友達の学校は味が最悪なんだって

高校選びに食堂は選択肢に入るものじゃないからな。俺たちは運が良い


 さすがに食堂の味で学校を選ぶ人間もいない。
 食事が美味しくない食堂の学校の人は残念でしたと諦めるしかない。
 適当に会話を続けながら食事をする。

ふぅ、ごちそうさま

もう食べ終わったのか

そうよ。というわけで、デザートタイム♪


 カレーを食べ終わると、優雨は俺の定食についてたゼリーに手を伸ばす。
 俺がB定食を頼むと大抵、ついてくるデザートは優雨のモノになる。
 俺の許可など取らないのもいつものことなので、もはや何も言うまい。
 別にデザートはそれほどこだわりがないのでいいけどさ。

今日はメロンゼリー?この着色料たっぷりの安っぽいゼリーの感じは好きよ

……安っぽいっていうな

だって果肉ゼロだし。着色料まみれで身体に悪そうなこの色。でも、嫌いじゃないわ


 優雨の考えることはよく分からない。
 俺は彼女を呆れてみてると、その視線に気づかれる。

……何よ、欲しいの?


 元は俺のだけどな。

欲しいのなら一口だけあげるわ。ほら、口を開けなさい


 優雨はゼリー用のスプーンで一口分をすくうと俺の方に差し出す。

あーん

やめい。お前と間接キスはしたくない

まったく、中学生じゃあるまいし。間接キス程度を気にするなんて


 高校生にもなって、という意味に気付いてくれ。

いいから口を開けなさい。あーん

……ん


 そんな俺の口にゼリーを入れる優雨。
 水っぽいゼリー、お世辞にも美味いとは言えない普通の味だ。

美味しい?

安っぽいゼリーの味がする

あははっ。自分でも言ってるし。それがいいんじゃない


 優雨は笑うとそのスプーンで躊躇することなくゼリーを食べ始める。
 たまに、こういう行為はあるが優雨は気にしていないようだ。
 そんな細かい事を気にするほど子供でもないってことなのかもな。

んぅ、この味よ。自分のお金じゃ絶対に買わない安物の味

そういう言い方はやめなさい


 優雨との付き合いは長い分、俺達の関係は幼馴染と言う特別な物だ。
 友達でもなく、兄妹でもなく、幼馴染っていうのは不思議なものだ。

……居心地がいいのは認めざるをえないな


 何だかんだで心を許せる相手と言うべきか。
 異性なのに、特別な意識をしない相手、それが俺にとっての優雨だった。

第1章:間接キスと意識

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