午後の授業が終わった後、僕は姉ちゃんにスマホで電話をかけた。

 それはもちろん、親父の話をするためだ。

 席に座ったまま、姉ちゃんが電話に出るのを待つ。

ケンスケ

 ……もしもし? 姉ちゃんか?

 どうかしました?

ケンスケ

 親父の話なんだけどさ……親父って、もう、死んでるのか?

 あれ? 言ってませんでした?

ケンスケ

 聞いてねえよ!
 いつだよ!
 親父はいつ死んだんだ!?

 いつって……六年前ですよ

ケンスケ

 ……マジかよ

 また、六年前だ。

 つまり、親父は、水晶を購入した直後に……死んだ?

ケンスケ

 ……姉ちゃんが親父と、最後に合ったのは……いつなんだ?

 んー……だから、六年前の……お正月だったかな?
 ほら、家族が最後に揃ってたお正月ですよ。
 お父さんが家に居たのも、それが最後です

 香田家が揃って過ごせた、最後のお正月。

 僕はもうあまり記憶にないが、あの頃はまだ、母さんが元気だったことだけは覚えている。

ケンスケ

 そして、そのすぐ後にグレート製薬が倒産。
 しばらくして親父が水晶を購入……

ケンスケ

 あれ?
 じゃあ玄関の水晶は、親父が運んで来たわけじゃないってことか?

 なぜなら、親父はその正月以降、自宅に姿を現していないからだ。

 あの水晶は宅配便で送られてきたんですよ。
 玄関に飾っておけ、って手紙がついてたので、その通りにしただけです

 親父の遺言というわけか……?

ケンスケ

 ……親父は、どうして死んだんだ?

 死因は焼死ってことになってますね。
 ほら、ケン君は知らないですか?
 グレート製薬の研究施設が爆発した事件

ケンスケ

 はぁ? なんだそれ

 それに巻き込まれたんです。
 グレート製薬も、その爆発事故が原因で倒産しちゃったんですけどね

ケンスケ

 そうだったのか……

 親父とグレート製薬……否、むしろケープという人物か……二人の関係は、単純なものではなさそうだ。

 グレート製薬の爆発事故。

 それに巻き込まれた親父。

 そして水晶……。

ケンスケ

 わかった、姉ちゃんありがとう。
 とりあえず電話切るよ

 あ、ケン君。
 私今日は株主総会行ってるので、帰り遅くなりますから

ケンスケ

 あぁ、そうなんだ

 姉ちゃんが唯一外出する時。

 それが株主総会である。

 なんか色々な会社の株主である姉ちゃんは、月に何度かそういう理由でお出かけするのだ。

ケンスケ

 わかったよ。
 じゃあ今日は縫姫ちゃんお留守番ってことか

 そうですよー。
 寂しいと思うので早く帰ってあげてくださいねー

ケンスケ

 よしおっけーい!

 言って、僕は電話を切った。

 ……と、その直後に一つの疑問が浮かび上がった。

 親父が死んだ理由が、グレート製薬の爆発事故だと、姉ちゃんは言った。

 そして、グレート製薬が倒産原因が、その爆発事故だ。

 つまり、倒産が決定したのは、爆発事故の後、ということである。

 ならば、時系列がおかしくならないか?

 親父が水晶を購入したのは、グレート製薬が倒産した後の話だ。

 ならば、


 親父は、死んだあとに水晶の購入をした


 ということになる。

 どういう、ことだ……?

玻璃

 香田君

ケンスケ


 だいすきぞいどかにかにぃ!!!!
 

 机の影からヌッと出現した玻璃さんに僕は叫び声をあげる。

ケンスケ

 び、びっくりさせないでくれよ玻璃さん

玻璃

 ……いや、香田君が、驚きすぎ

玻璃

 今日、香田君の家、行く約束

ケンスケ

 あ、あぁ、忘れてなんてなかったよ!

 完全に忘れてた。

 いや、というか僕にとって、親父が死んでいるという事実が衝撃的すぎたのだ。

 事実。

 真実。

 ハッキリすると、スッキリする。

玻璃

 行こ

ケンスケ

 よし、行くかぁ

 だが。

 真実が必ずしも幸せに繋がるとは限らない。

 それを僕はこの後、思い知ることになるのだ。

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