血露戦争。
 いつからかそう呼ばれることになった魔族と人間族との僅か二年による領地争奪戦にはとにかく謎が多い。
 多くのものたちがその謎に惹かれ、戦争の真実を追い求める者は今でも多い。

 かくいう私も、そのうちの一人だ。

 血露戦争終結から三年、複数の有志により戦争の資料が庶民にも公開された。
 多くの探求者がその資料に心を揺さぶられただろう。
 だが私はそれと同時に、多くの衝撃と予感を感じ取った。

──戦争は、終わってはいないと。

 いいや、むしろ全てあの日からはじまっていたのだ。
 血露戦争終結の日、唯一勇者として処刑されたあの日から、既に。

 ……私は、血露戦争の歴史をかの勇者を通して追いかけようと思う。
 あの流星のように現れ、多くを照らし、闇へ消えていった【勇者】。
 彼がなぜあの日、あのような結末に陥ったのか。
 彼の残した足跡を辿り続ければ、彼が残した呪いと災厄の意図と意味を、解明できるかもしれないと踏んだからである。

 私には戦う力はない。
 だが、それでも足掻いてみたいのだ。

──この【災厄】に、真っ向から。

Claus

……今日も晴れる様子はなしか


 慣れない馬車に揺られながら、はぁ、とため息をつく。

 あの日から続く雨。
 絶え間なく続く雨のせいで水害なども急増、中には雨の音によって気の触れた者も増え、一年前には既に王都はその機能を失っていた。
 私としては憂鬱な雨にはもう慣れたものの、こう外出する時は流石に煩わしい。

Line

こんな日にどちらまで?

 馬車に同乗している女性が問う。
 自宅などに引きこもるものが多いこの時代、外に出ようとするものは極めて稀だった。それでも外に出るのは、そういう人、つまり女性からしてみれば珍しい似た者同士だったのだろう。

Claus

東のブリテンまで

Line

まぁ、奇遇ですね。私もブリテンまで向かうところなのです

Claus

このご時世にお一人でですか

Line

えぇと……訳ありでして

 女性が困ったように吃るのを見て、私から別の話を切り出すことにした。

Claus

私は、ある人に会いに行くところなんです

Claus

ブリテンに

Claus

連絡を取ったところ、話を聞かせてくれることになったので

Line

……?

Line

お話を集めているのですか?

Claus

えぇ、まぁ。

Claus

これでも記者なんです

Claus

とはいっても、無所属ですが

 雨の影響で発生した新種の魔物が、新聞社を含めた王都の施設を襲ったのは随分と昔の話だ。

Claus

今は、血露戦争を追っています

Line

あの戦争を?

Claus

はい

 奇妙でしょうと自嘲ぎみに笑う。
 だが、女性は私の予想よりも大きく外れた反応を見せた。

Line

その話、詳しくお聞かせ願えませんか

 声色よりも真っ直ぐと射抜いた、真剣な瞳。
 ただの興味本位というわけでもないらしい。

Claus

……ブリテンにつくまででよければ、喜んで

 私は、随分としおしおになってしまった、今までの取材内容を纏めた手帳のページをぱらりを開いた。

pagetop