エルフの里は、この島国から遠い所にある。




いや、もしかしたら遠い所にあったのかもしれない。



















































あらゆるものに神の存在が認められていた時代。


エルフの里のあった、とある国で多くのエルフが異端者とみなされ始めた。






人間より遥かに長い時を生き、



理では解せない魔法を使い、



男女問わず魔性と言える美しさを備える。







人間の恐怖、妬み、嫉み、怒り、下卑た欲望などが、多くのエルフを過酷な状況へと追いやった。






"エルフの涙は万病を治す"



"生血を飲めば不老長寿"



"生贄にすれば国は災厄を逃れる事が出来る"







































多くのエルフは、そこで里を離れ、散り散りになった。













思い思い胸に抱きながら






長い長い旅の果て








それぞれの場所にエルフは居を構えた。









































そして、思いもよらぬどうでもいいタイミングで出会ったりもする。












……

……








二人のエルフは、スーパーの前に設けられたちょっとした休憩用のテーブルに落ち着いていた。




さすがに(黒髪のエルフが)騒ぎを起こした本屋で会話を続けるには既に(黒髪のエルフのせいで)視線が痛く、金髪のエルフの提案で場所を移動してきたのだ。












いやー、久々のエルフだわ

その久々に飲んだお酒みたいな表現やめてくれる?

……そういえば、

……あなた、前に見たことあるわ

……そう?

そう……あれは……確か……

……

こんな娘と会っていたかしら

いや、あの組織では見ない……じゃあまさかあの忌まわしい戦争の時なんてことは……確か相当数のエルフがあの時戦場にいたはず

東側で出会っていたならいいけど、

昨日、テレビで見た水の特番かなんかに出てたコラムニストだわ

そのレベルならもっとすんなり思い出して





金髪エルフは長いため息をついた。


特に肯定もしなかったが、その態度を見て間違ってはいないと確信した黒髪のエルフーーその、黒井と名乗っていたエルフはいきなり目を輝かせだす。




テレビに出てた人と会うのなんて久しぶり!!わっしょい!!

エルフよりテレビに出てる人の方が希少価値高そうなリアクションもどうなのよ

ねっ!一応サインして!サインして!あー、紙がないわ。あ、もうこのテーブルでいいわ。未明にちゃんと盗りに来るから

落ち着きなさい

はい

『ちょっと話しましょ』って言い出したのはあなたの方でしょ。それで、何を話したいの?

えっ

だってほら、レアなエルフ同士の直接対話じゃない

私、前にエルフと会ったのもういつ頃かよく覚えてないもの。何故かよくテレビに出てたりするんでそれを見たりとかはあったけど、直接はなかなか会わなくない?

やっぱり東京都エルフ会に加入してないの?





















……

渾身のギャグ?

都下のエルフは全員入ってると思ったけど……成程やっぱり見ないエルフなわけだわ

何よそれ!どっからそういう通知くるのよ!

……エルフってテレビで良く見るわよね?

え?

エルフは長く生き、知恵を蓄え、また自然の代理人として多くの活動を行う……

だから、政界の要人だったり、大学教授だったり、活動家になったりと、とにかく表舞台に出るエルフがほとんどなのよ

先に言った組織の他、そういうパーティとかでもよく会うわね

うっわ何そのヒルズくらい高いハードル。実際ヒルズとかでやるんでしょうけど

そりゃ私知らないわよ

って言うか何。今そんなにエルフって頻繁に会えるものだったの。何?私、ハブ?

……

……ねえ、あなたは何の職に就いてるの?知り合いのエルフもロクにいないとしたら職に就くのにも制限があるでしょうけど……










エルフはその寿命と、それにそぐわない外見故、当たり前のことだが出自や戸籍にどうしても"違和感"が生じる。



その違和感を、実際には国の要人ポストに入り込んだエルフたちが色々"操作"し、便宜をはかっている状況だ。



そんな組織があるならもっと早く知っておくべきだったわ……

……答えなさいよ

……しかし、

互助を受けず、魔法の力があるエルフは犯罪に走ったという話も聞く……

もしくは、その容姿を活かして夜伽を生業にする下賤なエルフもいるとか……

……

何の職に、就いてるの?









繰り返す。





抗いがたい猜疑心を宿して、棘のある口調で。






黒井は、周りをちらっと確認した後、小声で言った。











ノウ・ジョブ……

……

……生活費はどこから?

大分前に、宝くじがね

……

それを元手に一世一代の全額大勝負してみたら

万馬券がカモンしてね

……

私、その時思ったの

ああ。ここまでの幸運はきっと神様がくれたものに違いない

だから私は神の意にしたがって、

美しく、

エルフらしく、

食いつぶしながらしばらく生きて行こうって!!!!!!



































多くのエルフは、昔、里を離れ、散り散りになった。













思い思い胸に抱きながら






長い長い旅の果て








それぞれの場所にエルフは居を構えたが、












その中には黒井のようなエルフも、いた。

知り得たものは、孤独と仲間

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