タキ

2012年……

タキ

じゃあ、まだスマホは普及したてだな。
慣れてなくて当然か。

ミヤ

ええ。最初見たときは驚いたわ。
ずいぶん高機能なものが身近になるのね。

タキ

そうだよ。お前の年にだってもう
ラジカセやMDプレーヤーは見なくなったろ?
技術は日々進歩してるんだ。

ミヤ

……そうね。元々
縁のあるものではなかったけれど。

タキ

はは。お前、喋り方からして
箱入り娘、って感じだもんな。

ミヤ

もう。
……話を戻しましょう。

ミヤ

ここがループ空間でなく
並行世界らしい、ということは理解したわ。
あとは確認したいことってある?

タキ

ああ。まずは
この時間の仕組みがどうなってるか
把握する必要がある。
ネットに繋がってれば色々わかったんだが、
オフラインだしな……

ミヤ

外界……と言っていいのかしら、
学校より外からは完全に隔離されているわ。
出ることも入ることも出来ない。

ミヤ

私たちに夜は存在しないの。
18時で意識が途切れて、気がついたら
朝の8時。そして6月10日が始まる。

タキ

……それさあ、時間きっかり
寝て起きてるだけじゃねえの?

ミヤ

それはないわ。
必ずその時間で意識が落ちて
戻って、それも毎回なんてこと
あるはずないわよ。

タキ

そうやって決めつけっからお前は
カタブツだってんだよ。
何でも超常現象のせいにしてたら
キリがねえっての。

タキ

いいか?
18時と朝8時に必ず聴こえるもの。
それも学校で。なんだ?

ミヤ

……あっ、チャイム!

タキ

そう!
たとえばお前の意識に、チャイムの音が
鳴るごとに入眠と覚醒を繰り返させる
洗脳をかけるとする。
そうすれば絶対意識は落ちるし、また
チャイムが鳴るまで絶対に起きない。

ミヤ

な、なるほど……

タキ

たぶん、今さっきあたしらが
見つけた謎はお前の意識がない夜の時に
仕掛けられてんだろうな。

タキ

となると、あたしらが眠ってる隙に
誰かが来るか……あたしだけ夜に
起きれるか、だ。

ミヤ

あなたが?

タキ

前の昼で脱出の鍵を掴んで、
夜にそれっぽい謎を残すことで
記憶がリセットされて始まる次の昼に
託す……とか。

ミヤ

……じゃ、じゃあこの謎は
タキちゃ……ま、前のあなたからの
メッセージだというの?

タキ

……かもな、って話だ。

ミヤ

そう……

タキ

……ふっ、あははは!

ミヤ

え、な、なに?

タキ

お前さあ、ほんと人のこと
信じやすいよな。
今の話だって確証なんかどこにも
ないのに、もっともらしく語っただけで
ホッとした顔しちゃってさ。

ミヤ

……からかってるのね。

タキ

そんなんじゃねえよ。話は百パーマジだ。
けどさ、お前がそんなんじゃあきっと
辿り着けないと思うぜ?

ミヤ

どうして?

タキ

お前がずっと聞き手だからだよ。
おおかたループ説もどっかのあたしが
立てたんだろ?

ミヤ

まあ……そうね。
そうだったかしら……

タキ

だからだよ。
たぶんさ……これも確証ねえけどよ、
あたしが夜頑張って、お前が昼頑張らねえと
終わらねえんじゃねえのかな。

タキ

そういう意味での、
一回全部おさらいしようぜってこった。
お前の考えを聞かせてくれよ、高宮 雅。

ミヤ

……いいこと言うわね。
さすが滝沢 多岐、というところかしら。

タキ

なんだそりゃ。
わかりにくい褒め方だな。

ミヤ

ふふ。
じゃあ、今までのことを話しましょう――……

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