……いやだ

 はっ、とロジャーは笑う。

なんだよ、俺、おまえに嫌われたんだと思ってたよ。

なんのこたないな、おまえ、俺のこと大好きなんだな

ふざけないでよ、ロジャー

ふざけてねえよ。ますます死ねなくなったな

じゃあ、行かないで

難しい相談だ。

俺、おまえと戦うときに、こいつが強かったら、負けはせずとも、いい勝負だったら俺の気持ちも変わるかなって少しだけ、考えたんだよ。

怖じ気づいたりするかなってさ。

でもな、変わんなかった。これだけは、きっと変わらないよ

 ロジャーの胸元で、アイリーは子どものように声をあげて、わんわんと泣いた。

 なんで、なんでと答えがないであろう問いを、それでもロジャーに投げかける。

 恥ずかしいやつと笑うロジャーは、今さらになって、俺の方を向いて自分も恥ずかしそうに頬を染めた。



 そのとき、頭上から電子音が聞こえた。そして、俺の名前が呼ばれる。

崇様、お別れです。行きましょう

 サンザシが言った。そうか、このまま、お別れか。

どうした、マキト

 アイリーの頭を撫でながら、ロジャーが声をおとして聞いてきた。

 さあ、と答えるが、これが、彼との最後の会話になるかもしれない。

ロジャー、死ぬなよ

なんだいきなり、おまえまで

約束しろ

 ロジャーは察したのだろう、こくりと頷き、もちろんだと言った。言ってくれた。

信じるよ。ロジャー、おまえに会えてよかったよ

何言ってるんだ……マキト

 おまえ、と言いかけたロジャーの言葉が聞こえなかったふりをして、俺はじゃあ、と走り出した。



 長い通路を走って、適当に左に曲がると、世界がふわりと白くなり――。

 懐かしの部屋に戻る。


 空中に、ふわふわと浮かぶセイさんが、怪しげな笑みを浮かべて言った。

ふたつめクリア、おめでとう。ロジャー君のその後、知りたいかい

 いいえ、と俺は首を降る。

あいつは約束してくれましたから

 そう、とセイさんは、目をほそめて笑うのだった。
 

2 赤色の君は未来の英雄(21)

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