負けて、俺、弱いから、やっぱり親父の会社を継ぐよって……そんなこと、言うわけないことはわかってる、私が勝てないことも、わかってる

……アイリー、やっぱり

 アイリーの自白に、ロジャーは驚きもせず、むしろ知っていたかのように、辛そうにひとつうなずいた。

 知っていたのか、と問いたくなるが、だまっておく。

 すると、ロジャーがこちらを向いて、力なく微笑んだ。

二丁拳銃の戦い方を俺に教えてくれたのは、彼女の親父さんだ

父は、死んだわ

 ああ、そういうことか。
 あとはもう、聞かなくても分かった。アイリーは。

私だって、ばれてたんだね

戦い方が俺そっくりだったんだよ。二丁拳銃は、相当練習しないと使いこなせねえし

……久々に戦った。怖かった

強いじゃん、おまえ。俺もひやひやしたよ

私も一緒に、戦地にいって、戦ってほしい?

まさか

何で?

 静かに、扉が開いた。

 真っ赤に泣きはらした目をしたアイリーが、ロジャーに向かって微笑む。

何で、ロジャー

……何でって

言って

……おまえに死なれちゃ、困る

 アイリーは、その言葉に、顔をくしゃりと歪めた。

私も、同じ気持ちなのに。どうして

……国を守りたいなんて、大層なことじゃないよ。

本当は、おまえを守りたい。

平和な世界で、おまえといたい。だめかよ

死んじゃったらどうするの?

死なねえよ、約束するから

父さんもそう言って……!

二回も同じ目に合わせねえよ、アイリー

信じられない

信じてくれ

……どうしても行くの?

 ロジャーは、こくりとひとつ、頷いた。

行って、帰ってくる

……何で

おまえがいるから

 ロジャーは静かに微笑んだ。いやいやをするように、アイリーは首を横に何度も振る。

なあ、マキト

 突如話の矛先がこちらに向き、えっと驚くと、ロジャーは苦笑して、ほれ、と手を差し出した。

 何を要求されているかぐらいはわかる。

 俺は小さな電話を、ロジャーの手のひらの上に置く。

 ロジャーはそれを、泣きじゃくるアイリーの耳につけた。

おー、すげー、ぴったり。科学の進歩は目覚ましいな

 そして、ロジャーはアイリーの耳元にあった手をそのまま彼女の頭の後ろに回した。

 小さな頭を優しく包み、自分の胸元に押し当てる。

なあ、これで電話しようぜ、俺が戦地に行ってもさ。

毎日話そう、大丈夫だよって、毎日言ってやるから

2 赤色の君は未来の英雄(20)

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