では改めて、クリアおめでとう! どうだった、感想は?

……いろんな世界があるんだなって

 セイさんはそう、と微笑み、俺に着席するように促す。

今回崇君は、いいことに途中で気がついていたけど、そのことは覚えているかな

いいこと……?

覚えていないかな。まあいいや、今回はね、君の記憶について、クリアの褒美に言及しよう

 簡単なことだけれどね、とセイさんは微笑みを崩さない。

矛盾があるはずだ、すでにね

矛盾?

そう。そのほころびを見つければ、きっと君のことだ、すぐにロックが外れてしまう

ロック……?

 鍵だね、と笑って、セイさんが指を振る。

君は、君が思っている以上に、素晴らしい力を持っている。

その力は君の内側にあるから、記憶が無いというその状態を、いつまでも保つことを許さない

何を言われているかさっぱりわかりませんが……

伏線にはたくさん種類あってね

 セイさんがふふ、と楽しそうに笑う。からかわれている気分だ。

その中のひとつに、意味不明なことがあとあとわかってくる、っていう種類のものがある。

今回の伏線はまさにそれさ

 立ち上がり、セイさんは伸びをする。

ああ、そういうことだったのか、ってね

俺の記憶が……

でも、そのロックは厳重だ、少しずつ、少しずつだ。まずは覚悟を

覚悟……

覚悟が無い状態は危険だ。不安定だ。

必要なのはまず、覚悟なんだよ

……セイさん、俺、本当に、何を言われているのかさっぱり

それでいい! そのほうが楽しいこともあるさ。

さ、真面目な話はおしまい! 少しシリアスな世界にいたから、まじめになっちゃってるでしょ、崇君! 

きりかえるよ、きりかえるよ

 うお、テンションの高いセイさんだ。そういえば初見はこんなかんじだったっけ。

崇様、気にしない方がいいですよ

 こっそりサンザシに耳打ちされるが、セイさんにも聞こえているようで、セイさんはどうもとサンザシに微笑んだ。

 怖い。

 サンザシはふい、と視線をそらした。こちらも怖い。

 なんなのこの二人の関係は。

さてっと、次の世界はどっこかしらーっと、その前に、そろそろ姿を変えちゃうよ! 

チチンプイプイ、アブラカタブラ、オープンザセサミー!

 最後のはむちゃくちゃだぞ、と思いながら身構えていると、セイさんの指先から光線が出てきて、俺を襲った。

 うお、と目を閉じると、次の瞬間――巨大なセイさんが俺を除き混んでいた。

 怖い怖い! 辺りを見渡すと、どうやら俺が縮んでいることに気がつく。

鏡はこちら

 セイさんが出してくれた鏡を覗きこむと……勇者! 

 頭に青い大きな宝石がついている額当てをつけて、紫色のマフラーをつけている。腰には大きな剣を装備している。

 その勇者が、ミニサイズってどういうことだ。

んじゃ、いってらっさいませ

 セイさんがふうっと俺に息を吹きかけて――俺は吹っ飛ばされた。

 わっ、と目をつむり、すぐに目を開けたけれど、そこは案の定、別の世界だった。

 森の中。すみわたる青空。RPGの世界のようだ。この格好にぴったり。

 ただし巨大サイズ。全部が全部、でかすぎる。

 よく見れば、森の中じゃなくて草の中にいるようだ。

 すぐとなりに、俺の背丈の二倍はある白つめ草が生えている。

サンザシ、ミニサイズと言えば、一寸法師だ、どうだ

根拠はなんでしょう

なんだ、あてずっぽうはだめなのか

自信満々に言ったのが少し恥ずかしい。

もちろんです、今まで二回はしっかり根拠があったはずですし、私もそれを聞いていますよ。

そういうあてずっぽうはだめですからね……

 俺はふむふむとうなずく。

小さな人が出てくる物語は一寸法師だと思ったけど、よく考えたら山ほどあるし、小さな動物という立ち位置なら、幅は広がりまくるよな。

失敬失敬

いえいえ。

さあ、この物語を楽しみましょう!

 にこり、とサンザシが微笑む。

 そういえば、久々に彼女の笑顔を見た気がして、なぜだか少し切なくなった。

 さて。

 辺りを見渡す。白つめ草畑のようだったが、うーん、四方八方見渡しても、同じ景色だ。最初からきびしいなあ、これ。

 どうしようかと考えているところで、がさがさ、と後ろから音がした。

 ぎょっとする。がさがさという音が近づいてきている。

 とりあえず腰にある剣を抜く。重い。使える気がしない。けれど威嚇にはなる。


 がさがさ、がさがさ……音がすぐそこまでやって来て、そして。

あら、こんにちは


 俺たちは、魔法使いに遭遇した。しかもこの魔法使い、俺と同様、ミニサイズ。

 いったいどんな世界なんだ、ここは。

 

2.5 矛盾を残してアブラカタブラ

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