頑ななお姫様。俺はふう、とため息をついた。
俺、何かしたか?
二年前の品評会の後だ、おまえがおかしくなったの……俺、まったく覚えてないんだ。
なあ、気にさわるようなこと、したかな。
謝らせてくれよ……いや、まず、謝るよ。
向き合うのが怖くて、なにも言えなかったんだ。
何も聞けずに……アイリー、ごめん。
なんでおまえがそんなに遠くにいっちゃったのか、わかんねんだ、教えてくれよ
……わからないのなら、それで結構です
頑ななお姫様。俺はふう、とため息をついた。
アイリー、おまえはよくても、俺がよくない
王子様もまた、頑なだ。
アイリー、俺は何を言った?
もとの関係に戻りたい。おまえがいない生活は、つまんなかったよ……二年間。
おまえはそうじゃないのか?
アイリー……小さな頃から、ずっと仲がよくて、一緒に遊んで……覚えてないのかよ
アイリーからの返事はない。
ロジャーは、諦めない。
アイリー、勝手にだけど、俺はおまえがあの挑戦者を招いてくれたんじゃないかって思ってるんだ。
盛り上がりにかけてきた品評会を盛り上げるために。
だから、おまえは俺の問いかけに答えてくれない。違うか?
電話を前にしたら、うっかりしゃべってしまいそうとか、そういうこと?
いいよ、なんでも、もう。
俺はおまえが俺を避けてるのが悲しい
……悲しい
アイリーが、復唱する。
その言葉に反応したことをいち早く察したロジャーは、そうさ、と扉にしがみつくようにして言う。
叫ぶように、言う。
悲しいよアイリー。
おまえに問い詰めたりしない。
アイリー、この電話機を理由に、俺はおまえと話したかっただけだ、認めるよ。
俺はおまえが話してくれなくて寂しかった、悲しかった!
私の方が悲しい!
アイリーが叫んだ。ロジャーが怪訝な顔をする。黙ったまま、アイリーの次の言葉を待つ。
……私の方が悲しい
アイリーは、扉の向こうで泣いてた。震える声が、駄々をこねる子どものように、何度も何度も同じ言葉を繰り返す。
どういう意味……アイリー、俺、おまえを悲しませるようなこと、言った?
言った……
教えてアイリー、俺は覚えてない
……強くなった、から
アイリーの震える声は、叫んだ。
強くなったから、俺、戦争に行くって……何で……!
……アイリー
だから、離れていったの。
悲しいから、私が、悲しいから……!
それでもロジャーが、こっちに来るなら……
アイリーは、すがるように、ロジャーに言った。
行かないで、ロジャー
ロジャーは大きく息を吸い込んで、ため息をつくように長く息を吐き出し、小さく首を横に降った。
……ロジャー、どうして
俺は、この国を守りたいんだよ、戦争を終わらせたいんだ。
できるかどうかはわからないけれど、何もせずにその時を待つことはできない
そんなこと言わないで、ロジャー
どうして? 俺は英雄になれるかもしれない。
自分で言うのもなんだけれど、今年だって、見たろ、俺、挑戦者にだって負けなかった!
違う、ロジャー、そうじゃない。
俺は思わず、ロジャーの手をつかみそうになった。そうじゃないだろう、ロジャー。
その手が、弱々しい力で握られ、驚きに目を見開く。俺の手を止めたのは、サンザシだった。
……崇様
サンザシは、俺の名前を呼ぶだけで、それ以上のことは言わなかった。
でも、俺はうなずいて、伸ばしかけた手を止めた。
俺の出る幕では、ない。口を挟みたくて仕方がないけれど、傍観者でいなくてはならないときもあるみたいだ。
負けてほしかった
アイリーは言った。消えそうな声で。
Nia様>コメントありがとうございます! そうなのです……アイリーはロジャーのためにいろいろ頑張ったのです……(T_T)