黄色い悲鳴、人、人、人の海。
 ロジャー様、私が昨日の挑戦者よ! 私よ、私よー!

うわ……すげえ、俺、もてもてじゃんね

 サイコー、とロジャーがこぼす。サイコーなものか。

噂ってほんとすぐに広まるのな……俺、午前中にちょっとうろうろしただけだぜ

ほんとにな……どうする? 一人ずつ違うねって確認してみるか

おう、任せていいか?

ああ……は?

 ロジャーがぽい、と電話機を俺に投げてよこす。

 手からこぼれ落ちそうになり、わあ、と俺が慌てている間に、ロジャーはじゃあなと駆け出してしまった。

俺は先に行ってる。すまんが任せた!

 王子様が遠くからウインクを送ってくださる。

 その王子様を追いかける人はいない。
 ガラスの靴は、俺が持っているからだ。

……魔法、は

 隣にいるサンザシにぼそりと言うと、サンザシさんはいい笑顔で、首を横に振るのだった。

 ですよね。







 人を並ばせて、耳に電話機を当てて、違いましたね、違いましたね、ってそりゃそうだと思いながら、それでも違いましたねを繰り返し、なんと二時間。


 へろへろになりながら、最後の女の子(推定五歳)の耳に電話機を当てて、違いましたね、と言ったところで、回りから拍手喝采。

 どうもどうもと言って、ふらふらと部屋に帰った。

 あのまま行ってしまっては、ロジャーに迷惑がかかるだろうし。


 十分ほど時間をおいて、その間に部屋の中にある地図でアイリーの部屋の場所を確認し、こそこそと移動を開始する。

どうなってますかね

 サンザシがふふ、と静かに笑う。

俺が行ったときに無事、ハッピーエンドになってたら、楽だけどな

 しかし、ハードモードだからか、もちろんそういう状況にはなっていなかった。

 アイリーの部屋につくと、扉の前で困ったように腕を組んだロジャーがいた。

 俺の姿を見つけるなり、よう、と眉毛をハの字にさせ、力なく笑う。珍しい顔。

どうだよ

会いたくないって言われてしまった……俺、本当に何したかわかんね。

なんでこんなに、嫌われちゃったんだろうな

それでも好きなんだから、一途なことだ

 からかったつもりだが、ロジャーはまあな、と微笑むだけだ。うーん、かっこいい。

恋愛ごとにおける第三者の介入って、いいのか悪いのかわかんないけど

 俺も微笑んで、ロジャーがどういうことだと言う前に、アイリーの部屋のインターホンを鳴らして、ドアに向かっていった。

マキトです。そっちから見えてるかもしれないけど。

二人の間に入ってみて、ひとつだけ分かったことがあるんだ。

誤解だらけ、お互い、言葉が少なすぎるよ。

一回、しっかりと話した方がいい。電話機は今、俺が持ってる。

どういう事情か知らないけど、電話機のことは話したくないんだろ。

俺がそれを許さないから、だから、出てこなくちゃはじまらないよ

 適度に嘘も交えていることに、彼女は気がついているはずだ。

 電話機チェックはしない、つまり、正体はばらさないつもりだから、っていうのを信じて出てきてくれればいいのだが。

 最終的には、招待をばらしてもらわないとクリアできないんだけれど、ともかく。

……いやです

 もうこのお姫様は!

なんでかわからないんだよ、アイリー

 ロジャーが悲しそうな声で言う。

なあ、俺……

 ロジャーが唇を噛み締める。こいつ、二時間も粘ってなにも言えていないな。

 俺が背中をどんと叩くと、ロジャーはこくこくとうなずいて、静かに、話始めた。

2 赤色の君は未来の英雄(18)

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