おまえ……それは、片想いなんだな?

片想いっつうか……どうなんだろ、なんか、結婚するならあいつがいいなって、それだけ。

これって恋なの?

 唐突な恋愛相談に、俺は目を白黒させる。

 物語の配役で言うと、王子様の恋愛相談を魔法使いが受けている状況って、かなり面白い。

 でも、シンデレラの物語の中では語られていないだけで、裏ではこういうやりとりがあってもおかしくない。


 と、関係ないことを考えて思考を落ち着かせたところで、よし、とは言わないが、気合いを入れ直す。


 なんの話だっけ。恋か、どうかだって?

知らん

 俺の返事に、サイコーだとけらけら笑うロジャー。

自分が一番知ってるんじゃねえの

……結婚しても、あいつが幸せになるかはわかんねえけど、それでも、なあ

 ロジャーはそう言って、力なく笑った。
 将来の英雄は、自分の未来を見据えて――って、あれ。


 ここで俺は、とんでもない矛盾に気がつく。

なあ、おまえ、俺と会ったときの自己紹介で、親父さんの会社を継ぐつもりだって言ってなかったか? 

だからこそ、結婚しろ、所帯を持てって言われてたんだよな? 

でも、ロジャーは戦士になる気だ……戦争が終わったら継ぐつもりか? 

それともまさか、親父さんには、戦士になるっていってないのか?

記憶力いいなあ

 ロジャーは目を丸くさせた。本気で驚いているようだ。

ま、おおむね正解だね。

建前上は、この会社を継ぐ、でも実際は、戦士になるつもり。

初めて会ったときには建前を、でもすぐに本音を、マキトには言えたってことだ

そりゃどうも……でも、どうすんだよ。っていうか……戦士になりたいんだな

俺ほどの能力、使わねえ方がって思うんだよ。客観的に見てさ。

早く戦争を終わらせたいっていうのももちろんある。

親父も、説得するつもりだよ、そのための品評会出席、そのための連続優勝……薄々気がついているからこそ、結婚しろだのやいのやいの、言ってるんだろ。

でもさ、こいつも

 ロジャーは、手に持っている電話機を見つめた。

俺の力を示すのに、一役かってでてくれたしな。俺は戦地に赴くよ

 俺の中を、久々の吐き気が襲う。この前のそれと同じだ。不安で、心配で、苦しくて――

あ?

いや、ちょっとまって

 この世界の知識は、アイリーから受け取ったものだったはずだ。


 もし、ロジャーに対する気持ちも、受け取っていたのだとしたら?


 不安で、心配で、苦しくて、出会うんじゃなかったと思うほどのあの気持ちが、アイリーの気持ちから、来ていたのだとしたら?


 仮説でしかない。そもそも気持ちまで受け取っているかどうかもわからない。

 それでも、もしあの気持ちがアイリーとのシンクロなら……セイさんならやりかねない、とも思うし。

ごめん……なんでも

大丈夫かよ? さっきからむせたりしてるし

それはロジャーのせいだろ! いきなり結婚したい人の話しとかして……

 俺は立ち上がる。

ご飯も食べ終わったし、とりあえずもう一回、アイリーのところにいってみようよ

 魔法使いの裏切り。

 ごめん、と思うがしかし、シンデレラの世界でも、魔法使いは王子様に助言をしていたかもしれない。裏で、いろいろしていたのかもしれない。今の、俺のように。

 思い出す。
 ロジャーに、出会わなければと思うほど、俺はロジャーの死がいやだと感じた。
 あの気持ちの理由が、少しでもアイリーからきたそれだというのなら。


 あのシンデレラ。

 ロジャーに出会いたくなかったと思うほどの気持ちに、嘘をついてどうするんだ!




 ……仮説でしかないけど、でも! ロジャーに友達ができたことを、あんなにも喜んでいた彼女だ。きっとこの気持ちも。

体調が悪いっていうのも、心配だしね

 そして、外に出て驚愕。

2 赤色の君は未来の英雄(17)

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