翌日、王子様ロジャーは、昨日の朝と同じく、俺を迎えに来てくれた。朝御飯を共に食べるためだ。

 服装は、品評会が終わってもスーツのまま。彼いわく、宣伝のために着たままにしているらしい。

 俺も彼にならい、スーツ姿のままで外に出た。

 近くの食堂で、ロジャーは昨日と変わらず、他愛ない話をしながら朝食をとっていた。

 昨日の今日だ、少しは品評会の話をするかな、とも思ったが、全くと言っていいほどしない。

 それは、不自然すぎるほどでもあった。



 食事中に騒いでいるのは、周りの人たちだった。こそこそと、ほら、あれがロジャーよ、と言う女性の声、にこにこと話しかけてくる年配の男性、サインをねだる青年、遠目から写真をとるゴシップ――ロジャーは微動だにしない。

 気にしているそぶりもないし、俺にたいしてどうこう言うこともない。

 ようするに、慣れているのだろう。そのことにびっくりしながら、周りの視線がいたくてそわそわしている俺に、ロジャーは食後、気がついたようだった。

――ごめん、マキト。俺はこういうの慣れてるけど、お前はそうじゃないよな。

しばらくはこれ、続くぜ。

食事も終わったし、いったん安全な部屋に戻ろうか

 ロジャーの部屋に招かれ、俺はソファに腰を下ろした。どっと、疲れが身体中を包む。

 意識していなかったが、自分が思っていた以上に、視線の嵐に疲弊しきっていたようだ。

わりいわりい。寝ててもいいぜ

 言って、ロジャーから差し出されたジュースは、ロジャーが気に入っている赤いジュースだった。リンゴと、イチゴと……トマト、だっけか。

さっきまで爆睡してたから、寝る必要はないよ。

 少し疲れはしたけど……ロジャーは凄いな。

 あの視線を、全く気にしないんだもん。慣れっこなんだな

 俺の言葉に、どうかな、とロジャーは苦笑した。

いつもだったら、もう少し気になってると思うぜ。

もう少し回りに気を配れているとも思う……お前が疲れてるのも、すぐに気がついてやりたかったんだ、本当にごめん。

でもさ、俺、けっこう上の空だったんだぜ……昨日のこと

 どうきりだそうか迷っていたところに、ロジャー自らその話題を振ってくれた。ラッキー。

昨日のこと?

 とぼける俺。

電話機だよ……これ

 ロジャーは、腕の収納から電話機を取り出した。ああ、と俺はうなずいて、それをのぞきこむ。

昨日、いろいろ考えたんだ。おそらく女だ。これ、すごく小さいし……まあ、耳の小さい男もいるから、一概には言えないけど。

それに、あの戦い方は女だと思うんだよな

戦い方に違いがあるのか?

あんまり女と戦ったことはねえけど、微妙に違うんだよな……綺麗なんだよ。男女差別とかじゃないぜ、もちろん。

そういうのは時代遅れだ……でもやっぱり、戦う中であるんだよ、女性特有の……美しさ

 言って、ロジャーは顔をしかめた。どうしたのかと思ったら、照れ隠しらしい。

 頬を二度かき、なにいってるんだ俺、と一人ごちている。

とにかく、女性だ、間違いない

……正体を、つきとめたいのか?

 俺の質問に、当たり前だとロジャーはうなずいた。

わかんねんだよ、なんであんなことしたのか……外部者じゃなくて、内部者が、正体を隠す意味はなんだ? 

なんであんなに強いやつが、必ず決勝に残れるやつが、直接俺に戦いを挑むんじゃなくて、正体不明の挑戦者として、余興として、参加したんだ?

 すべてを知っている俺は、なるほどねえと頷くだけ。言葉は少なくしておく、漏れると大変だ。

 アイリーは、戦地に赴くであろうロジャーの気を引き締めたかった。戦地でも、油断しないように――。



 しかし、なんであんなにアイリーは強いんだ? そしてそれを隠してこれたんだ? よく考えると、彼女も謎が多い。

 まったく、サンザシもそうだし、どこの世界でも、女性は謎多き生命体なのかもしれない。

 いや、男でも謎に包まれている人はたくさんいるけどさ。

2 赤色の君は未来の英雄(15)

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