あいつは姿を隠してたんだ……どこのだれだか知らねえけど

 正体はばれていないようでほっとする。

おそらく、この中にいるぜ

 ほっとしたのもつかの間、ぎょっとする。

なんで……?

 ロジャーは、ん、と俺に手をつきだした。手のひらの上には、小型の機械が置かれている。

電話機

 小型の! アイリーがつけていたやつだ。

あいつが落としていったやつ、耳につけてたんだ。

これ、親父の会社が作ってるやつで、まだこの建物外に出てないはずなんだよ。

しかもこれ、新機能がついてる、声変えるやつ。

挑戦者の声を隠したってことは、その声を持つ誰かが、内部にいるってことじゃねえの

 名推理、ご名答だ。なるほどねと俺は言う。

電源は遠隔で切られてて、起動させられなかった。でも、挑戦者確定は、きっと簡単だぜ

 ロジャーが笑う。

どうして?

これな、完全に耳にフィットするようになってるんだ。本人の耳の形。

知ってたか? 耳の形って、個人個人で違うんだぜ

 なるほど……って。

あ、分かった

正体がか?

 声に出していた! いやいや、と俺は首をふる。

俺の、住んでいたところにも、そういうのあって

 ごまかすと、はは、とロジャーは笑った。
 本当に分かったことは、別のことだけれど。

 正体探しは明日以降、祝賀会も何もなく、品評会の後は親父たちに任せればいいのだと、ロジャーは早々に部屋に戻った。疲れているのだろう。

 俺も部屋に戻り、そして、すぐにサンザシにむかって言う。

シンデレラ

 ロジャー様かっこよかった、と夢見心地だったサンザシは、俺の急な発言に驚いたようだった。

 目を大きく見開いた後、満面の笑みを浮かべ、満足そうにぱちぱち、と手を叩く。

正解です!

わかりづれえ! ハードモード!

 俺はベッドに飛び込んだ。正解してひと安心だ。

どこで気がつきましたか?

 とてとてと歩いてくるサンザシが、ベッドの端にちょこんと座り、楽しそうに訊いてくる。

電話が耳にフィットする、の時点。

そこでもう、ひらめいた。
電話機が、ガラスの靴なんだろ。

たどっていけば……アイリーがシンデレラで、ロジャーが王子様、俺は……魔法使いか!

 自分で言ってビックリした。俺は、魔法使いの立ち位置だったのだ。

びっくりしたけど……そうか、彼女を変身させたの、俺だったね

 科学だけれど、さながら、魔法のように。スイッチひとつで。

てか、ロジャーが自分で王子様発言していたのに気がつかなかった……てか俺が変身させる時点で気がつきたかったー!

くやしいですか?

少しね。このゲームも二回目だし、もっとこう、スマートに答えを導きだしたいよ

最高難易度ですからねえ

まあね……ところで、クリア条件は? まさか、二人をくっつけるとか、そういう野暮なものじゃないよね

 おそらくロジャーはアイリーのことが、好きとまではいかずとも、気になって仕方がないのだろうな、とは思う。

 しかし、アイリーの気持ちは不明だ。ロジャーに対して、ロジャーが思うほどに嫌悪感は抱いていないと思う。

 むしろ好きなのだろう。

 でも、数年前から態度が変わってしまった理由がわからない限り、彼女の本当の気持ちはよく分からない。

あの二人って両片想いなんですか?

 サンザシが驚きの表情を浮かべる。

いや、でもシンデレラってラブストーリーだろ。配役が決まっている以上、そういう可能性も捨てきれないと言うか

なるほど……びっくりしました。私、どうにもそういうことに関しては鈍いもので

 サンザシが頭をかく。つのが前後に動くのが、小動物を連想させる。可愛らしい。

クリア条件は、あの電話機を本人に返すことです。返すのはもちろん、王子様からシンデレラへ……崇様はそのお手伝いをすることになりますね

……難しそうだな。シンデレラの筋道通りにいくんだと仮定したら、王子様はかなり苦労してた……候補者は山ほど出てくるのに、当の本人は名乗り出る気がなかったしな

 ロジャーはそもそも、正体を突き止めたいと思うのだろうか。思ったとしても、アイリーはその正体を言いたくないような気もする。

……俺がぐだぐだ考えても、どうにもならないね

 その日はゆっくり休むことにした。行動開始は、明日からだ。

2 赤色の君は未来の英雄(14)

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