スポットライトのようなまっすぐな光が、アイリーを照らす。

 彼女の姿が、暗闇の中でひとり、浮かび上がる。わっ、と誰かが感動の声をあげた。きれい、と誰かが叫んでいる。


 そこにいた女性は、とても背の高い、凛とした女性だった。

 薄い水色のスーツに、所々とても目立つ紫色と黒色が配色され、強くたくましい印象を受ける。
 髪飾りのような大きな装飾を頭につけていたが、それはどこか神聖でもだった。

 手には、大きな二丁拳銃が握られている。


 作戦は成功したようなので、俺はスイッチを静かにしまった。しかし、これほどまでとは。彼女が映像をまとっていると気がつく人はいないだろう、と俺は確信した。

 凄いリアリティだ。どこからどうみても、映像の乱れが一切ない。質感も、影も、違和感ひとつない。


 十分に彼女――アイリーを観客の目に焼き付けたところで、会場の電気がぽつぽつと点いた。なんだなんだと騒ぐ観客に向けて、アイリーは叫ぶ。

サプライズだよ、赤い王子様

 わああっと観客がアイリーを後押しするかのように声をあげ、手を叩く。

 そんな観客に向けて、アイリーはにこにこと微笑みながら、手を降り、ウインクを飛ばしている。


 いやあ、仕事のときと、普段のときと、今と、キャラクターが違う。演技派女優もいいところだ。

 素は、普段のときのあの、おとなしいアイリーなのだろうけど。

誰だ、お前

 マイクを向けられていたロジャーは、そのマイクを司会からぶん取り、にやりと笑った。

 王子様は乗り気のようだ。

 ロジャーの一声に、会場はしん、と水をうったように静かになった。

 誰もが、突如現れた女性の返事を心待にしている。

挑戦者だ

 彼女は、美しく微笑する。

君の噂をききつけて、はるばるね。今回こっそり、サプライズゲストとして、優勝者と戦うことになっていたんだ。まあ、君だと思っていた

へえ、強いのかよ

驚くほどにね。でも、あれかな、君は戦い疲れているかな、ロジャー君

 はっ、とロジャーは鼻で笑い、つかつかとアイリーに歩み寄った。

 おいおい、そんなに近くて、おや、映像だ、ってならないよな、と俺が心配するほどに近づき、たっぷり間をおいて――



いいハンデだろ


 と言いはなった。マイクを投げる。それを合図に、静かになっていた観客という観客が、叫び、手をならし、拳を突き上げた。

 雄叫びのような叫び声が、会場を揺らす。
 サンザシも、隣できゃあきゃあ叫び、かっこいい、ロジャー様と叫んでいる。すっかりロジャーのファンのようだ。様って。



 ロジャーは、球体の中に入る前に、俺に歩み寄ってきた。

 なにかと思えば、水ちょうだい、と手を差し出す。

 慌てて俺は、自分の役目を思いだし(そういやロジャーが渋ったときに背中を押す役目もあったが、その予想は杞憂に終わったようだ)、箱の中にいれてあった水を手渡した。

 あの状況で水分補給とは、冷静だ。

あいつ、なんなんだろうな

 ロジャーは水を飲みながら、舞台上で手を降り自分をアピールしまくっている謎の挑戦者に目をやる。

 さあ、と俺は首をかしげる。

本当に強ければいいな

 ロジャーがポツリと言った。え、と俺が聞き返すと、ほい、とロジャーは水を投げる。

そうすれば、俺もなんか、変わるかもしれねえし

 何が、と問う前に、ロジャーはじゃあ、と言ってステージに戻っていく。



 何を、変えたいんだ、ロジャー。

2 赤色の君は未来の英雄(12)

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