その数時間後、品評会は華々しくスタートした。

かっこいいですねえ、すごいですねえ!

 サンザシ大興奮のもと、俺はロジャーのセコンドとして、特等席でスーツの品評方法である対戦を見させてもらった。






 まあ、簡単に言うと、俺が出たら数秒も持たなかっただろう、というレベル。

 スーツを着込んだ選手達は、会場の真ん中にある、大きな球体の中に入って戦う。

 俺はその球体がよく見えるど真ん中。あまりに近すぎて、球体の端の方は体をそらさなければ見えないほどだ。


 その空間の中は、俺が体験したような無重力状態になっている。

 まずは予選。そこに五人放り込まれ、額と胸につけられた機械を急所とし、それを壊されれば負け、というルールだ。


 彼らは、剣から銃まで、ありとあらゆる武器を使用して戦った。身体中にたくさんの武器を仕込んでいる人もいれば、こだわりの武器ひとつで戦う人もいた。


 ロジャーは、体のあちこちに銃を仕込んでいた。基本は二丁の拳銃で、次々と相手をなぎ倒していく。

 威力は弱く設定されているようだったが、それでも、当たれば後方に吹き飛ぶぐらいの威力はある。その度に、観客がわあわあと叫んだ。





 赤で染まった選手は他にもいたが、ロジャーの赤はきらきらと輝いて、友人のひいき目無しに、誰が見てもかっこいいと感じるだろうと思えた。

 スーツだけでは、もちろんない。きらきらと光る彼は、脚についているブースターを最大限に利用し、相手に最短距離で近寄り、するすると攻撃を避けて、手にしている銃を一発、確実に当てにいく。

 その姿は、芸術に近いとも思った。


 かっこいいし、すごい。サンザシの言う通りだ。

しかし、圧倒的です。アイリーさんは勝てるのでしょうか

 俺は、静かに肩をすくめて返事をする。

 どうかな、知らないけれど、でも少なくともすぐには負けないという確信はあるのだろう。

 この強さを、実行委員の彼女もどこかで見ているはずだ。きっと、今までに何度も、何度も。それでなお、勝てると思えたのだろうから。



 しかしなあ。
 これ、本当になんの昔話なんだ?





 予選が終了し、王者決定戦が行われた。予選からは、一対一の勝負だ。


 ロジャーも苦戦はしているようで、予選時のように、一発で相手を仕留め、他に銃弾(銃の先から出ていたのは光線だったが)を使わない、ということはなくなった。


 いや、苦戦という言葉は正しくない。それなりに大変なようで、ぐらいだろう。


 時間はかかるものの、それは予選と比べて、という話で、やはりあっという間だった。負けた相手も、悔しそうではあるが、ロジャーの笑顔と握手を求めるその姿勢に、不思議と頬が緩んでしまうようだった。


 ああ、これがスポーツだったら、どんなに素敵なことか。

 試合は、彼の独壇場で幕を閉じた。トロフィー授与の際に、俺はそわそわ。スイッチをそっと手のひらの中に入れ、時を待つ。トロフィーが渡され、勝利の一言を、とロジャーにマイクが向けられた、そのとき。



 ガコン、という大きな音と共に、照明がおちた。会場中が闇に包まれ、きゃあ、と女性の声が響く。

待ちな!

 マイクを通した大きな音がした。

 きたきた、アイリーだ。いつもの声は、鈴をならしたような細くて可愛らしい声だったけれど、この声は少しハスキーで、女性にしては低めの声。

 隣でサンザシさんがきゃーきゃー言っている。楽しそうだなあ。俺も楽しい。



 心の中でせーのと言いながら、スイッチを、押す!

2 赤色の君は未来の英雄(11)

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