翌日は、夜の品評会までどうすごすものかと思っていたが、朝からずっと、ロジャーがいろいろと面倒を見てくれた。

 王様なのに、なんだか悪い、とは思わないけれど、相変わらずいいやつだ。



 品評会までどんちゃん騒ぎ、ということにはならない。品評会は毎年盛り上がるようだったけれど、それでも、今は戦争中、そして品評会は将来有望な戦士の選別会だ。

 楽しんだ映画館だって、よく考えればガンアクション、つまり楽しめる訓練所だったのかもしれない。


 こんなふうに落ち込んでしまう俺の気持ちを察したのか察してないのか、ロジャーはにこにこと明るいまま、いろんなところに連れていってくれた。



 昼御飯を食べているときに、ロジャーが子どもに話しかけられていたのは印象的だった。

 がんばって、と男の子三人に囲まれ、おうよと笑う彼は、本当に未来を担う王子のようでもあった。

いやあ、子どもはかわいいよな。ああいうことがあると、俺も結婚とかいいなって思っちゃうんだけどさ

 ロジャーの発言に、俺は口にしていた飲み物を吹き出しそうになった。

なんだよ

 ロジャーが照れたような表情を見せる。

いや、そうなんだって、単純に思っただけ。子ども好きなんだな

子どもが好きっていうか、俺が子どもだから子どもとつるむのが好きなんだよ。

飲み物だって、いまだにこんな甘ったるいやつ飲んじまうし

 手にしたコップを持ち、くるくると回すと、中の赤色の液体が勢いよく回る。

イチゴとリンゴとトマトと大量の砂糖。赤色ジュースって、そのままのジュースなんだけどな、これ。俺、大量に部屋に保存してる

 恥ずかしそうに、ロジャーはいってそれを一口飲む。

 聞いてから、その情報は俺の頭のなかにもあったことに気がつき、ずいぶん有名なことなのだろうと思い、小さく笑ってしまった。

 その反応に、笑うなよ、とロジャーが頭をかく。

人には言ったことがないんだ。秘密で頼む。

いや……一人だけ、過去に話したらさ、ひどいんだぜ。

将来有望な俺が、こんな子どもっぽいって、イメージダウンだって言われたんだよ。

でもお前は、そんなこと言わないだろうと思ってさ

 ん? あれ、みんなは知らない情報なのか?


 ふっと、そこでパズルがかちりとはまったような感覚に陥る。


 セイさんは言っていた。この知識は、そこら辺の子から抽出した、と。

 そして、ロジャーのレアな情報を、俺が知っている。

 その情報は、ロジャーに子どもっぽいと言った、その人しか知らない情報。
 その人からの知識を、俺は偶然、か必然か知らないけど、とにかく、頂戴したことになる。


 好奇心がうずく。だれだそれ、気になる!

ずけずけとロジャーにそんなことが言える人もいるんだな

 心の中のわくわくがばれないように、それとなく話題を続かせる。

お前も知ってるやつだよ

 ロジャーはあの女、と呟いて、しかし口調とは裏腹に微笑みながら小さく言った。

アイリー。あいつ、今は俺にああやってかしこまってるけど、幼馴染みなんだ

 なんと! 俺の知識はあの子から頂戴していたのか。


 と、物語に恐らく関係ない謎解きがすぐに終わったところで、ロジャーがはあ、とため息をつく。

 王子のため息、珍しい。というか似合わない。

なあ、俺さ、あいつに嫌われてるみたいなんだよね

 おやおや、と思うが、からかう雰囲気でもなさそうだ。

 ロジャーはもう一度ため息をつき、本当にわからないんだ、と独り言のよううに呟く。

二年前までは仲良しだったんだ、でも、今はああやって、俺を様付けで呼んでさ、敬語も使って、明らかに距離とられてんの。幼馴染みなのに。

まじわけわかんねえ、女って。なんんかしたかな

うーん、勘違いじゃないかなあ

 だって昨日、お前と俺が仲良くなったって聞いて、本当に嬉しそうにしていたし、と言おうとするが、作戦のことを思いだし口ごもる。

 昨日アイリーが部屋に来たのは、内緒にしておいた方がいい気がする。

なんで?

……なんとなく。だってお前、無神経に人を傷つけたりしなさそうだから。なんかした記憶がないんだったら……って

 俺の返事がお気に召したのか、ぎゃはは、とロジャーは大口を開けて笑った。

あてずっぽうかよ、サイコーだな。でも、元気出たわ

 ありがとな、と言うロジャーは、やっぱりいいやつだと、俺は思った。

2 赤色の君は未来の英雄(10)

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