サンザシは、ぷるぷると拒絶するように、首を何度も横に降る。

……それはまだ、言わない約束です

 ゲームマスターとの、ということだろうか。

伏線ありがと

 俺がからかうと、なぜだかサンザシは泣きそうな顔をして、ふん、とそっぽを向くのだった。

 立ち上がり、とてとてとどこかに歩いていく。まあ、部屋を出ることはないだろうから、放置。



 さてと、大会がこの世界のメインイベントなのだろう。

 大会が出てくるような、バトルものの昔話はあっただろうか。

 ……世界に順応するのに必死で、今このときにはじめて、そういえばこの世界も童話が元になっているんだ、ということを思い出した。
 ゲーム参加者がゲーム参加目的を忘れてどうするのだ、という話だ。反省反省。



 それで、バトルバトル。

 しかし、それこそ桃太郎なんて、バトルの塊だ。でも桃太郎は学園もので……っていうことは、バトルは全く関係ない昔話の場合も、ありえる。


 でも、そこで裏を返して、とってもバトルが重要な……話だったら、戦線離脱を安易にするべきではなかったようにも思えて、冷や汗。

 ロジャーを倒すことが条件だったらどうしよう。でもそれ、不可能、無理ゲーってやつだとも思うけれど。


 セイさんの良心を信じ、その説は強制的に頭の中からどこかへ追いやる。

バトル……戦う……ううーんわからん

私は今、話しかけられていますか? それとも崇様の独り言でしょうか?

 部屋の隅にいたサンザシが、くるりとこちらを向く。そういえば、サンザシは先程から部屋をうろうろとしていたようだけれど、いったい何をしているんだろう? 

 問うと、けろりとサンザシはいうのだった。

メッセージが届いてますよ。作戦のマニュアル、だそうです

どんなの?

再生しましょう

 サンザシが、壁にあるボタンかなにかを操作しているようだ。

 ベッドから起き上がると同じタイミングで、部屋が暗くなり、部屋の四隅から光がさした。

 宙に描かれる、オレンジ色の光のメッセージ。科学技術の結晶であるそれは、やはりどこか魔法のようで、俺はおお、と感嘆の声をあげていた。




 メッセージには、光の線で描かれる映像と、アイリーの声が入っていた。

 アイリーの説明に合わせて映像がくるくる動く。当日の予定と、俺がいる位置と彼女がいる位置と、タイムスケジュール、そして、サプライズのタイミング。


 サプライズは、大会終了後。
 もちろんのことロジャーが優勝しトロフィー授与をしているそのとき、会場中の電源が落ち、アナウンスが入る予定だそうだ。

 アナウンスというか、ちょっと待った! 的な。

 乱入のアナウンス、バイ、声を変えたアイリー。

 なんと、先程の電話機に新機能を搭載し、声を変えられるようにしたのだそうだ。かっこいい、かっこよすぎる。



 アイリーが言葉を発したその瞬間に、俺がスイッチをポチ、で俺の役目は終了。

 いやはや、彼女達は大変なのだろうが、俺はずいぶんと楽な仕事だ。いいとこ取りのような気もする。


 簡単な説明がすんだところで、またも彼女のすいません、の後に、結びのメッセージが流れた。

このこと自体、十日ほど前に思い付いて、三日前までなかなか通らなかった案でして、ばたばたと準備を進め、最後の最後にマキト様に頼むという、強行スケジュールとなってしまいました。

しかし、必ず成功させます!

 そして、とんでもない言葉でメッセージを締めるのだった。

明日はどうぞ、よろしくお願い致します!

 ……いやいや、いや、はや。

サンザシさん

はい、崇様

 サンザシが、にやりと笑っている。

 あ、この子は知っていたんだな。
 確認のために、念のために、一応訊いておこう。

品評会って明日なんですね

ええ!

 だあっはあ! 俺は頭を抱えた。

 今日の明日か! もう! そうくるのかい!

2 赤色の君は未来の英雄(9)

facebook twitter
pagetop