キョトンとしているアイリーに、俺は微笑む。
はい、私にできることでしたら
キョトンとしているアイリーに、俺は微笑む。
俺は戦闘に向いていない人間です。
苦手なんです、戦うのが。
当日俺もエントリーの予定だと思うのですが、ロジャーの補佐に専念させてほしいんです。
あなたの作戦に協力もすることですし、戦いまで気がまわらなくって
ロジャー様の補佐に専念……なんて素敵なことでしょう。
そうですね、その方がいいです、気が回らず、大変失礼いたしました。参加は取り消させていただきますね
ということで、俺は無事、戦いには参加しないこととなった。
めでたしめでたし。
では、作戦の詳細につ……あっ
アイリーは右耳をおさえ、すみません、と頭をさげた。
俺はすぐに、彼女の耳のなかに小型の電話機が埋め込まれていることを察した。
埋め込み型の、しかも外から見えないような電話機は、最新式のはずだ。よくそんなものを持っているなあと感動する。
どうぞ、と俺が言う前に、彼女は右耳を指さした。
すみません。実は私の耳に電話機が入っているんです。
見えませんよね、最新式で……出てもよろしいでしょうか?
知っていることを説明されてしまい、不思議な気持ちになる。
俺は、遠くから来た身、という設定だ。
最先端の技術は知らないと思われたのだろう。
どうぞどうぞ
彼女が電話に出ているあいだ、俺はこの世界のことをいろいろと考えた。
記憶が埋め込まれているというのは妙なもので、知識はあっても、そのことを考えないとその知識は出てこない。
知っている膨大なことを、すべて均等に考えている人がいないように、俺もこの世界のことを考えるという行為によって、その世界の知識を記憶からひっぱりだし、そうだったそうだったという感覚につつまれていた。
しかし、覚えるというプロセスをすっとばし、植え付けられた記憶について考えるとき、そうだった、と思う一方で、そうなんだ、と考える自分もいる。
……要するに、変な気分。
例えば、どうして俺がスーツをあらかじめ着ていたんだ? ということを考え、すぐに、ロジャーが俺のために送ってくれたのだったという記憶を思い出して、なるほどと思う。
変なの。
しかし、ロジャーは本当に気が利くなあと感動していたところで、アイリーは電話を終え、ごめんなさいと頭を下げた。もう、頭を下げられ慣れてしまった。
映写機が故障したみたいで、一応直ったみたいなんですけど、大丈夫かどうかテストをしなければならなくって。
私がいないとどうにも……
そりゃそうだ。
いいですよ、俺との話はいつでも
すみません。
今日は戻ってこられないかもしれませんので、後でメッセージを送りますね
すみませんすみません、と最後まで頭を下げながら、アイリーはどたばたと去っていった。
戦わないんですか、つまんないですねえ
アイリーが出ていったあと、サンザシが本当につまらなさそうに言った。
他人事だと思って、この子は。
俺はベッドに寝転がりながら、スイッチをぽいぽいと上に投げて遊ぶ。
いや、もっと大切に扱わなければならないものなのだけれど、おもちゃみたいなスイッチが面白く、童心に帰ってしまったのだ。
反省し、スイッチを腕の収納に入れる。
でも、面白い企画に参加できた。それでいいだろ。
というか、サンザシは戦いが好きなのか?
いえ、こてんぱんに負ける崇様を見てみたくて。見たことがありませんから
見たことがない、ふむ。その言葉に、違和感を覚えない方がおかしいだろう。
姫様の部屋で言われた、あなたはいつも優しいとかなんとか、そういう言葉も同時に思い出す。
あれも、よく考えれば違和感の塊だ。
学園生活で、どうやってこてんぱんに負けろって言うんだ
嘘のつけないサンザシは、あ、と口を押さえた。
こてんぱんにやられるところを見たことがないのも、いつも優しいのも、学校生活以前の俺を知っているからこそ言える言葉、と考える。
なんでも言え、というロジャーの言葉を思い出す。
そうだ、訊いてみるべきだろう。
サンザシって、記憶があるときの俺のこと、知ってるの?