食後、部屋に戻り一人でくつろいでいると(大画面のテレビ鑑賞は最高だった。サンザシもおおはしゃぎ)、ノックの音が部屋の中に響いた。
控えめなノックだ。これだけ近未来でもノックはノックなんだなあと意味不明なことを考えながら扉の前に立つ。
扉が透明になり、誰が向こう側にいるのかが分かった。
こちらからは見えても、向こう側からは見えない優れ物の扉――その向こうにいたのは、俺がこの世界に来た際に、俺を助けてくれた女性だった。
名前はたしか、アイリーだったか。
小柄なアイリーは、その体のなかに目一杯の不安か何かを詰め込んだんじゃないかと言うような、神妙な顔つきをしていた。
眉にきゅっとシワを寄せ、背筋をまっすぐと伸ばし、俺が出るのを待っている。
うーん、ただ事ではないような雰囲気。
扉に手をかざして開けると、アイリーは静かに頭を下げた。どうもと俺も下げ返すと、やめてくださいと慌てられた。
ロジャーに招かれた客である俺は、それなりにVIPらしいのだが、そんなの俺もお断り。
王子様や王様は、ロジャーを見る限り楽しいものではなさそうだし。