ある日の、観想学園・学園長室。
そこには、三つの人影があった。
三人はソファに腰掛けており、ゴスロリ風の女と、黒の衣服に身を包んだ男が、学園の生徒と思しき少女と向き合う形になっている。
ある日の、観想学園・学園長室。
そこには、三つの人影があった。
三人はソファに腰掛けており、ゴスロリ風の女と、黒の衣服に身を包んだ男が、学園の生徒と思しき少女と向き合う形になっている。
急に呼び出して悪かったわね。
は、はぁ。
……それで、急に呼び出して、僕に何か用ですか?
あらあら。学園長相手に、随分な物言いね。
まあ、構わないけれど。
成程。実際に会ったのは初めてだが、こう……何というか……憂いを秘めた顔が可愛らしいな。是非、おつき合いしたいものだ。
うわっ……何なんですか、この人。
学園長、学内に不審者を入れていいんですか?
ああ、ごめんなさい。この人は不審者では無いのだけれど、可愛い女の子に目が無いもので。
後でキツく叱っておくから、今日のところは許してあげて下さらない?
なんでもいいですけど……。
それで?
少しの間、部屋の外の風音(かざおと)が聞こえる程の沈黙が訪れる。
妙な事を聞くかもしれないけれど――。
はい。
あなた、この世を"生き辛い"と思ったことは無い?
……なんでまた、そんな事聞くんですか?
あなたを見ていて、そう思ったものだから。
見ていた? 僕をですか?
ええ、ずっと見てきたわ。接触を試みたのは初めてだけれど。
もしかして学園長、ストーカーか何かですか?
コトによっては警察沙汰にしますよ?
まあまあ、落ち着きなさい。
私の話を聞けば、そんな気は無くなると思うわ。
そうですか。
ええ。
あなた――<因子(ファクター)>を持っているのでしょう?
えっ、な、何だって?
<因子(ファクター)>。
あなたのその、"特異体質"のこと――こう言えば、心当たりがあるわよね?
あはは、何言ってるんだか……。
"あなた、そうやって何時までも、周囲を、そして自身を拒絶していくつもり"?
……仕方ないじゃないですか。
僕はいつだって、<此れ>に迷惑かけられてきたんですから。
ならば、<其れ>を受け入れてしまえばいいのではないかしら?
どの道、あなたはもう既に、社会に居場所が無いと感じているのだから。
分かったような事を……。
だって分かるもの。私も、同じなのだから。
えっ……。学園長も?
ええ。
だから――あなたとは仲良くなれそうね?
僕は――。
そして、現在の生徒会役員会議室では、創が一人、物思いに耽っていた。
……やれやれ。
"最初の彼女"は、あんなに扱いやすかったのだけれど、今回はどうかしらね……。
そろそろ入学式が始まる頃かしら。
さて、今回の彼女――いえ、"彼"は、一体どんな反応をしてくれるのかしら。
これから入学式が執り行われる体育館には、既に多くの新入生が集まっていた。
ええっと、俺の席は……。
θ列の4席目か。
俺が席――三列構成のうちの真ん中だ――につくと、既に両側に居た新入生、恐らくは同じクラスになるであろう奴らが、両方とも、こちらをガン見してきた。
レディ、ディスチェアーはプロバブリィチェアーフォーボーイズだよ。
ユーアーミステイクン! ハハッ!
いや俺、男だから。(なんだコイツ……)
ファッ!? オオゥ、それはソオリィ。まさか、こんなキュートなボーイがイグジストするとはシンクしなかったよ。
ふむwww所謂"男の娘"というヤツですなwwwウヒョォwwwたまりませんぞぉwww
えっ、いや、そういうのでは無いんだが……。
って、言っても無駄か……。
右にはよく分からない言葉で喋るイケメン、左にはオタクのテンプレみたいな話し方をする男。
最初に出会った同級生がこんなヤツらなのは偶然か必然か――いや。
……。
同じ列の少し後方では、校門で俺が乳を揉む羽目になった女子が、特に周囲と奴らと会話することも無く、こちらをじっと見つめていた。
最初に出会ったのはコイツだったな。
何だ? 俺、睨まれるような事なんかしたか?
……したな。思いっきりしたわ。
変な噂にならないといいけど……。
後ろを向いていると、ふと、アイツと目があった。
すると、アイツは、いかにも"ふんっ!"とか何とか言いそうな感じでそっぽを向いて、目を逸らした。うん、可愛い。
非常に可愛いのだが――間違いなく嫌われてるな。
そんな、言葉無きやり取りをしていると、隣からイケメンが話しかけてきた。
何はともわれ、今後もよろしくな。ああ、俺はケビンだ。
ああ、よろしく。俺は九十九彰人。
(ちゃんと日本語話せるんだ……まだ初日なのに、もはやキャラ付けが徹底できてないぞ。)
っていうか、あんた何人だよ? なんだよ"ケビン"って。漢字でどう書くんだ?
よく間違われるけど、純粋な日本人やで。"ケビン"は普通にカタカナやでぇ。
へぇ。そりゃあまた、随分と珍しい。
コポォwww某は田中でござるwwwフォカヌポゥwww
お、おう……。(コイツら、聞いてもいないのに自分から名乗るなんて、わりとコミュ力高いな。)
それにしても、席に座った時から気になっていたが、ケツに何か、違和感がある。
どうやらパイプ椅子の質が悪く、座面がかなり斜めになっている。
クソ、このまま入学式が終わるまで、我慢していないといけないのか。
ところで――
ケビンが何かを話そうとしたのと同時――それは起きた。
ああ、幾ら椅子の質が悪いといっても、ここまでとは予想していなかったな。
椅子が壊れ、俺のケツは、派手に床へと叩きつけられる筈であったが、代わりに感じたのは、全身を強く締められるような感覚。
思わず、雌のような声をあげてしまったじゃないか。
……あれ?
お、おう、大丈夫か?
俺はケビンに抱きしめられていた。
おっ、ホモか?
ウッヒョオオオオオオオオオオアバババッババ!!!
後ろの方から女の雄叫びが聞こえる。
周りを見渡すと、大体7割の新入生が不審の目で、残り3割が好奇の目で俺を見ていた。
まずい。まずいぞ。
大丈夫だから! いいから放せ!
俺に気安く触るんじゃないっ!
ああ、わりぃ。昔からこうなもんで。
全く。お前が多分良い奴だってのは分かったけど、気をつけろよな。
すまん……。
まあ、なんだ。この男、第一印象は最悪だったが、気安いだけで、案外普通なんだろう。
でも、俺は男には興味ないからな。
周りがそわそわしている中、俺の椅子は取り替えられた。
そして、そうこうしている内に、いつの間にか新入生用の席は満席となっていた(それらの新入生の殆どは、こっちをチラチラ見ていた)。
さて、そろそろ入学式が始まる時間だな。
―――続く!