ついに旅立った勇者たち一行は、一つの大きな森に差し掛かった。

勇者

でっかい森だなー。

勇者

よーし、ここらでいったん休憩するぞー。
点呼ー、いーち。

魔法使い

にー。

騎士

………。

剣闘士

むにゃむにゃ…。

勇者

相変わらずだな…
こんなんじゃ魔物が出てきたときが不安だな。

なかなか統率のとれない一行に一抹の不安を覚える勇者。だが、一番の不安の種は別にいるのだった。

はあ…はあ…。

勇者

おう姫。遅かったな。

遅かったな

じゃないです!なんで守るべき人を一番後方に置いていくんですか!

そう、このわがままお姫様こそ勇者一行の不安の種なのだ。

また失礼なこと言ってますね!

私はなにも知らない。

勇者

まあ、ここでいったん休憩だ。ゆっくり休めよ。

はあ…。

王女という身分でありながら躊躇なく地べたに座る。
プライドが高くないのはいいことだが、一国をこれから担っていくものとしてどうかと思う行動だった。

椅子がないんです!

私はなにも知らない。

勇者

しかし、この森を抜けるのか。これはちと骨が折れそうだな。

勇者

ここらで今後のことについて少し話し合うか。

今後のこととは?

勇者

オレ達の目的は魔王を倒して世界を平和にすることだ。しかし、魔王を倒そうにも場所がわからないからな。

え?場所知らないんですか?

勇者

当たり前だろ。場所がわかってたらまっすぐ向かってるよ。

じゃあ私たちは何を目指して歩いていたんですか!

勇者

旅に出たからには進むしかないだろ。

もうやだ。お城に帰りたい。

前向きな勇者に弱音しか吐かない姫。
やはり統率がとれない原因は彼女あるようだった。

絶対に違います!

勇者

しっ

勇者の制止の声に皆が静まり返る。
一向に緊張が走るなか、勇者は森の中をにらんだ。

ガサッ

お、狼…。

勇者

なんだ、狼か。

なんでそんな平然としてられるんですか!

勇者

魔物じゃなけりゃ心配いらねえよ。
そうだ、こいつで実戦の訓練をしてみよう。

実戦…ですか?

勇者

ああ、これからもこの調子じゃ困るからな。

勇者

て、ことでいけ姫!

はい!

て、なんで私なんですか!

勇者

姫がどれくらい戦えるのか見ておきたかったからな。

戦えませんよ?

勇者

武器は?

持ってません。

勇者

魔法は?

使えません。

勇者

………。

勇者

なんでついてきたの?

それは私が一番聞きたいです!

ぐるるるるるるる

勇者様、狼がこっちに来てます

勇者

ああもう姫の役立たず!

なんで私がそんなこと言われなくてはいけないんですか!

二人の口論を引き裂くように、何かを薙ぎ払う音が聞こえた。

騎士

………。

そこには剣を携えた騎士と倒れ伏した狼の姿があった。

勇者

おお、騎士!お前やるな!

騎士

……。

騎士

……ありがとう。

勇者

おう、これからも期待してるぜ。

騎士

……。

仲間を素直に褒められる。
この正直さが彼を勇者たらしめんとするゆえんだろう。

勇者

しかしこの狼どうしようか。

剣闘士

食べよう!

勇者

おお、剣闘士。
やっと起きたのか。

剣闘士

肉はやっぱ焼いて食うべし!

勇者

腹も減ってきたし、そうするか。

騎士や剣闘士と意思疎通を図れることがわかり、統率の心配もひとまずどうにかなりそうになった一行。

まだまだ不安はぬぐえないが、着々と団結力を増してきているようだった。

ただ一人を除いて。

聞こえてますよ!

私はなにも聞こえない。

勇者

おーい、姫。お前も食べろ。
ほら、脳みそとっといてやったぞ。

そんなところいりませんわ!

かくして、勇者たちの旅は続いていくのであった。

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