僕と美香は『水晶購入の契約書』を目に映す。

ケンスケ

 えぇと、なになに……このたびはハピ☆ハピ幸せハッピー水晶をお買い上げ頂きましてありがとうございます……

美香

 ネーミングセンスが酷すぎる……
 ケン君がつけるヘンテコネーミングより残念だねー

ケンスケ

 これと比べられてもなぁ……

美香

 それよりも、値段見ようよ値段!
 私ずっと気になってたの!

 ステキ笑顔で美香は言う。

 こいつそれが知りたかっただけじゃないのか。

ケンスケ

 って、言われても、この契約書めちゃくちゃ長いんだよ。
 どこに書いてあるのか探すの大変だ

美香

 画像ファイルじゃないから検索かけてみようよ

 言って、美香は片手でカタカタとキーボードを叩いた。

 すると、画面は領収書のようなページに切り替わる。

美香

 わぁ……驚きの価格

ケンスケ

 ……まじか


 二千万円。

 想像以上の金額である。

 数百万とかいうレベルではなかった。

美香

 ケン君の貯金二千円の一万倍じゃん!

ケンスケ

 桁が多すぎて気持ち悪くなってきた……。
 どこにそんな大金があったんだ……

美香

 ケン君のお姉さんみたく、株とかの資産を持ってたのかもねー……んん?

 と、そこで美香は何かに気が付いたようにマウスカーソルを滑らせる。

美香

 これ……

ケンスケ

 なんだ?

 僕が聞くと、美香は画面を指差して口を開く。

美香

 ここ見て。
 ケン君のお父さんが契約を結んだ相手って……グレート製薬なんだね

ケンスケ

 グレート製薬?
 有名な会社か?

美香

 んー、有名だった会社、って言った方が正確かなー

ケンスケ

 ふぅん?
 でも製薬ってことは、薬を売ってるってことだよな?
 そんな会社が怪しい水晶なんて取り扱うのか?

美香

 薬っていうか、怪しいハーブとか売ってたみたいだけどね。
 怪しい繋がりで水晶も売ってたとか?
 どっちにしてもね、グレート製薬って、もう倒産してるんだよ

ケンスケ

 はぁ?
 あぁ、だから有名『だった』会社ってことね

美香

 そゆことー。
 確か六年前くらいだったかな?

 六年前?

ケンスケ

 親父が水晶を買った年……それに、白い女の噂が立ったのも、その辺りの時期……なんだよな

美香

 え、し、白い女?
 あー……そういえば……そうだねー。
 ……それ何か関係あるの?

ケンスケ

 いや分からないけど。
 でも、親父が水晶を買ったのと同じくらいに倒産ってのは、少し気になるな……。
 契約した日付って書いてあるか?

美香

 そりゃ書いてあるでしょ。
 うぅんと、ほらここ。
 えぇと、三月六日だねー

ケンスケ

 グレート製薬が倒産した日付は知ってるか?

美香

 そこまで詳しくは知らないよ。調べてみよっか

 美香は立ち上がり、自分の机に座って、なんだか派手な感じにデコレーションされているピンクのノートパソコンに向かう。

 僕もそれに続いて美香の背後に立った。

美香

 にゃははは。
 なんだか楽しくなってきましたな

 嬉しそうに笑いながら美香はキーボードを叩く。

美香

 んーと、これかな?

 美香が開いたページには、グレート製薬についての解説が書かれていた。

美香

 二月十五日に倒産してるみたいだね。
 んで、従業員とか組織が完全に消滅したのが三月十五日

ケンスケ

 倒産とかの仕組みはよく分からないけど、一か月の猶予期間みたいなのがあんのか?

美香

 そうなのかな。
 その辺りはケン君のお姉ちゃんにでも聞いてよ。
 でも日付的に、ケン君のお父さんは、倒産が決定している会社から、水晶を購入したってことになるよねー

 二月十五日に倒産。
 三月十五日に消滅。

 親父が水晶を買ったのは、その間の三月六日。

ケンスケ

 そうなんだよなー。
 不自然な感じはする

 どこか釈然としない。

 幸せになる水晶とか買っている時点でもう不自然なのに、余計分からなくなってしまった感じだ。

 六年前。

 一体何が……。

その6-4 グレート製薬株式会社

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