美香

 ……んじゃまぁ、ケン君が持ってきたパソコン、パスワード解除しちゃおっか

 言って、美香は床に置いていたノートパソコンを持ち上げてテーブルの上に置く。

ケンスケ

 おう、頼むよ

美香

 見るからに古いパソコンだよねー。
 とりあえず電源入れよっか

 電源ケーブルをコンセントに挿し、美香は電源ボタンを押す。

 先ほども見た古臭い起動画面が時間をかけて立ち上がる。

美香

 なるほどねー。
 管理者権限が必要かー。
 やっぱこれ使おうか

 と、美香はどこからともなく一つのディスクを取り出した。

ケンスケ

 なんだそりゃ

美香

 パスワード解析するツール

ケンスケ

 なんか分からんけどすげえもの持ってるな

美香

 突き詰めればプログラムなんて0と1だからねー。
 結構なんでも出来ちゃうよ

 美香はディスクをパソコンに居れてから、いったん電源を落とし、再び電源を入れる。

 すると、見たことのない黒い画面にわけのわからない文字が次々と表示され、パソコンがなんか物凄いうなり声をあげ始めた。

ケンスケ

 おいおい、大丈夫か?
 爆発とかしないだろうな

美香

 するわけないでしょ

美香

 ……と、ほら、ログイン画面クリアしたよ

ケンスケ

 おお、ほんとだ!
 デスクトップまで進んだ

 なんともあっさりと目的は達成された。

ケンスケ

 さすが美香だな。
 ありがとう

美香

 料金はケン君の貯金全額となります

ケンスケ

 お金取るの!?
 い、一応、二千円ぐらいは持ってるけど……

美香

 貯金少な!

 僕の小遣いは毎月姉ちゃんから支給される。

 しかし百円玉しか貰えないのでジュースも買えないのだ。

美香

 ま、出世払いってことでいいや。
 ところで聞きそびれてたんだけど、このパソコンって誰の?
 ケン君のじゃないでしょ?

ケンスケ

 あぁ、これ親父のだよ。
 ちょっと調べものがしたくてな

美香

 お父さんのかー……。
 勝手に使ってよかったの?

ケンスケ

 べつにいいだろ。
 こういう私物を取りに帰ってくるどころか、僕や姉ちゃんに顔すら見せないんだからな

 美香は僕の家庭事情についてほとんど知っている。

 姉ちゃんと二人暮らしということも、親父が失踪したことも、水晶のことも……そして、母さんが死んでしまっていることも。

 唯一知らないのは、縫姫ちゃんの存在くらいだろう。

美香

 ……なんか不正アクセスとかで捕まりそう

ケンスケ

 ……まぁ、仮にも親の物だし、セーフだろ

美香

 そういうときだけ親扱いするってどうなの?

 地味に痛い言葉だった。

ケンスケ

 ……まぁ、とりあえず……

 家に帰るよ。

 と、パソコンの電源を切ろうとしたとき。

 僕の瞳に、一つのアイコンが目に映る。

 パソコンのデスクトップにあるファイル。

 重要なのは、その名前だ。

 僕は咄嗟にそのファイルをクリックして展開する。

 すると、テキストベースの画面が映し出された。

美香

 え……ケン君、そのファイルって……

ケンスケ

 ……あぁ


 そのファイル名は、『水晶購入の契約書』。
 

ケンスケ

 たぶん、親父が買った、幸せになる水晶……

 六年前、親父が購入した高額の水晶。

 その、契約書。

美香

 ケン君、これが調べたかったの?

ケンスケ

 いや、違うんだけどな……。
 たまたま見つけたから、びっくりして開いちゃっただけだ

美香

 ふぅん……。
 ね、私も見ていい?

ケンスケ

 いいけど……興味あるのか?

美香

 少しね。
 どんな間抜けな契約を結んだのか気になるじゃん

ケンスケ

 ……容赦ないなお前

 
 しかし、これは思わぬ収穫だ。

 この契約書のなかに、ひょっとしたら縫姫ちゃんのことについても書かれているかもしれない。

 ……その場合、美香に縫姫ちゃんのことがバレてしまうかもしれないが、まぁべつに問題ないだろう。

 説明が面倒なだけだ。

 優先すべきは、水晶の正体である。

 ごくり、と唾を飲み込んで、僕はページをスクロールさせる。

その6-3 テキストファイル

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