美香は腕を組みつつ椅子を回転させる。

美香

 うぅむ、これは事件ですぞケン氏

ケンスケ

 なんだその口調

美香

 ケン君はノリが悪いなぁ

 僕を馬鹿にするような大袈裟な手振りで美香は溜息を吐いた。

 馬鹿はお前だ。

美香

 それにしても、推理ゲームみたいになってきたねー。
 ケン君のお父さんが水晶を買うに至った経緯とは……

 そして、縫姫ちゃんという存在の謎だ。

 果たしてそもそも、僕の親父は縫姫ちゃんの存在を知っていたのか?

美香

 私さぁ、ケン君から、お父さんが水晶を買ったって話を初めて聞いたとき
 『あぁ、そんな絵に描いたような詐欺に引っかかる人なんて、本当に存在するんだなぁ』
 って思ったんだよねー

ケンスケ

 そりゃあ僕も同意見だな。
 僕だって最初は信じられなかったからな

美香

 そう、信じられないんだよね。
 だから冷静に考えると
 『そんな絵に描いたような詐欺に引っかかる人なんて、存在するわけないでしょ』
 って否定的な気持ちにもなったんだよねー

 ……まぁ、それは確かにそうだ。

ケンスケ

 だけれどやっぱり、実際に親父は買ってるんだよ。
 この契約書で、それはハッキリした

美香

 そこになにか理由があったとしたら?

 理由。

 親父が水晶を購入した、その理由。

美香

 ケン君は買った『結果』を気にしてるけどさー、大事なのは買うに至った『経緯』だよねー。
 倒産した会社……グレート製薬から、水晶を買った……買わざるを得なかった何か理由があった……とか

 
 ごくり、と僕は唾を飲み込む。

 水晶を購入した理由。

 僕の頭ではそれが縫姫ちゃんの存在と、自然に結びつく。

 やはり親父は、縫姫ちゃんの存在を知っていた……?

 だから、水晶……否、縫姫ちゃんを……買った……?

美香

 ま、本当にそんな理由があったのかは分からないけどねー

美香

 でもケン君はこういうの好きでしょ?
 陰謀とか、なんかそういう匂いがしない?

ケンスケ

 あー……まぁそうだけどなぁ。
 でもこの件に関しては、あまりそういう気分にはならないんだよなぁ

美香

 ケン君らしくないなー。
 身内が絡んでるから?
 お父さんがどうとかさ、そんなに肩の力張らなくてもいいんじゃない?

 美香の言うことはもっともであったが、しかしどちらかと言えば、やはり気になるのは縫姫ちゃんのことだろう。

 親父と縫姫ちゃんの関係……ワクワクこそしないが、これはハッキリさせておかなければならない気がした。

美香

 それに、私の知ってるケン君のお父さんは、けっこう優しい人なんだけどなー

ケンスケ

 ……はぁ?

 優しい?

 僕や姉ちゃん、そして母さんを捨てて行ったあの親父が?

ケンスケ

 あいつのどこを取って優しいなんて表現が出てくんだよ

美香

 それは……

 言いかけて、美香は黙ってしまった。

 少し口調が荒くなってしまったからだろうか。

 反省。

ケンスケ

 ごめん……

美香

 はぁ? 木綿?

ケンスケ

 豆腐じゃねえよ!
 ごぉめぇん!

美香

 もぉめぇん?
 私は絹ごし派だから

ケンスケ

 ごぉめぇん!
 僕そんなに発音悪いか!?

美香

 あんまり大きな声出すと家族に聞こえちゃうよ?

 会話が成り立たなかった。

ケンスケ

 ……まぁ、ともかく……グレート製薬が取り扱っていた商品が知りたいな

 僕は話をすり替える。

美香

 んー、調べてみようか

 美香は再びパソコンの画面い身体を向けてキーボードを叩く。

美香

 えーと……そもそもグレート製薬は、主に企業が研究するための薬品を多く取り扱ってたみたいだね。
 でもやっぱり、水晶がどうとかは情報出てこないねー

ケンスケ

 企業向け……ねぇ

美香

 なんか研究所みたいな施設は結構あったって書いてある。
 ……あれ、近所にも一つあったらしいよ

ケンスケ

 ふぅん? どの辺りだ?

美香

 えーと……北にある山のふもとの辺りだね

 僕たちの住んでいる地域には平地が広がっている。

 しかし北側には、まるで人々の行く手を阻むかのように山が連なっているのだ。

 そしてその辺りは昔、鉱山として栄えていたらしい。

ケンスケ

 ……鉱山?

 あれ?

 それって……つまり……?

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