僕はスマートフォンで美香を呼び出す。

ケンスケ

 もしもーし、もしもーし

美香

 やっほー、ケン君。どうかしたー?

ケンスケ

 美香、お前ハッキングとか出来るってマジ?

美香

 ……え、もしかして……私がケン君の家にハッキングかけて個人情報全部抜いたのバレちゃったー?

ケンスケ

 
 お前そんなことしてたの!?
 

美香

 にゃははは。
 冗談に決まってるじゃん。
 ケン君の情報とか1byteでも入ったらHDD腐っちゃうから

ケンスケ


 んなわけねえだろ!
 

美香

 今もこの通話でスマホからキノコ生えつつあるからね。
 要件早くして

ケンスケ

 今すぐ殴りに行きたい……

美香

 んで、ハッキングがどうかした?

ケンスケ

 あぁ……

 パスワードがかかったノートパソコンを使いたい、という旨を美香に伝える。

ケンスケ

 美香ならこのパソコンをウイルスにしてファイアウォールがハッキング的なことに出来ないか?

美香

 ごめん、日本語喋って。
 まぁでも、何となく言いたいことは分かったよ

美香

 ケン君にはパソコンの基礎からじっくりとお話ししてあげたいところだけどー……。
 理解できる人とできない人の区別はついてるから、まぁいいや

ケンスケ

 ……あれ?
 今すげぇ失礼なこと言わなかったか?

美香

 気のせいじゃない?
 んじゃあ、そのパソコン持ってきてよ。
 電話してきたってことは、すぐに使いたいんでしょー?

ケンスケ

 察しが良いな。
 今から大丈夫なのか?

美香

 あーでも、私今から夜ご飯食べるから

ケンスケ

 おいおい、遅い夕食だな

美香

 ゲーム作ってたら遅くなっちゃってさー

 聞くところによると、美香は怪しげなチームを立ち上げてゲーム制作に打ち込んでいるとか。

 その上でパソコン部にも入部しようというのだから、インドア派のくせして妙に行動派である。

ケンスケ

 今から夕食ね……。
 何時ごろ食べ終わるの

美香

 んー、でもまぁ、さっと食べちゃうから、五分後くらいにケン君が家を出ればちょうどかな?

ケンスケ

 オッケー。
 じゃあそんな感じで

美香

 ういういー。
 着いたら電話かけてねー

 通話を切って五分後、僕はノートパソコンを抱えて家を出る。


 美香の家は歩いて五分ほどの場所にある。

 家に到着する少し前に電話を掛けると、ちょうど良いタイミングで裏口の扉が開いた。
 

美香

 やっほーケン君

ケンスケ

 夜遅くにすまんな

美香

 べつに大丈夫だよー。
 あーでも……お父さんとかに見つかると殺されちゃうかもしれないから、静かに入ってねー

ケンスケ

 ……わ、わかった

 冗談かもしれないが半分くらい本当っぽいので、僕はなるべく音を立てないようにして美香の家に足を踏み入れる。

 階段を登ってすぐ右手にあるのが美香の部屋だ。

美香

 さぁ入ってー

 美香は静かな声で僕を部屋に招き入れる。

ケンスケ

 …………

 しかし、年頃の女の子というのは普通、こんな簡単に……しかも夜中に、自分の部屋にあげてくれるものなのだろうか。

 男を自分の部屋に入れる、というのに抵抗がないのだろうか。

 ひょっとすると、美香は僕のことを男としてでなく、ジャガイモくらいの感覚で扱っているのかもしれない。

 もしくはやはり、男に興味のない百合畑の人なのか。

美香

 ケン君、ドクペ飲みなよ、ドクペ

 言って、美香はコップに注がれた謎の液体を僕に差し出した。

ケンスケ

 なんだそれ?
 すっげぇ色だな

美香

 ドクペ知らないの?
 英雄はみんな飲んでいるのだよ

ケンスケ

 絶対アニメとかゲームに影響されてんだろうなぁ……

ケンスケ

 まぁ飲んでみるよ

 なんかカキ氷のシロップに杏仁豆腐のしぼり汁を足して煮詰めたようなとんでもない味がした。

美香

 どう? いける?

ケンスケ

 う、うん……まぁ……いいんじゃないか、なぁ

美香

 ……なるほど、ケン君は選ばれし者じゃあなかったかー

 美香は残念そうに言いつつ、僕からコップを取り上げ、残っていた液体を飲み干す。

ケンスケ

 …………


 うぅむ。

 なんだかんだで純情な僕は、間接キスとか無駄に意識してしまうのだが……。

 美香はそういうところ、あまり考えないタイプなのだろうか。
 

 ……まぁ、ジャガイモとの間接キスなんてどうでも良い、ということなのだろう。

 やはりジャガイモは、食べられるだけなのだ。

その6-2 ジャガイモの取り扱い

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