怜子が新しい子を連れてきた。

八箇 実夏。

情報だけではわからない部分もあるもんだね。見た目小柄で黒のショートヘアで色白。彼女にハッカーの能力があるとは。

龍川 怜子

はいはい。注目ー。モニターを分担して見るよー。


と怜子が私たちに言う。

阿古川 史華

分担。何の。

龍川 怜子

昨夜から今朝にかけての学校の状態。
監視カメラの映像を調べるよ。

八箇 実夏

うちの学校に監視カメラなんてありましたっけ?

龍川 怜子

私の手持ち。20か所仕掛けていたからね。

阿古川 史華

よく。バレないね。

呆れたように問うと

龍川 怜子

まあ、個人情報には抵触しないでしょ。

コイツ、適当に答えやがった。流石に

八箇 実夏

それはまずいんじゃ……。

実夏もそう思うよな。

龍川 怜子

大丈夫大丈夫。20個全部回収できているから。

目を輝かせたて怜子が答える。本当に呆れた奴だ。

阿古川 史華

それで?

龍川 怜子

今から20個のカメラの画像を分担して確認します。怪しいところがあったら教えてね。

なるほど。

八箇 実夏

1台あたり何時間分ですかー?

そう実夏が聞くと

龍川 怜子

12時間。ある程度は32倍速で見ないと終われないよ。

とあっけらかんといいやがる。

こうして分担作業が始まった。

分担作業から6時間経過。

学校は1時限で中止となったので現在午後4時といったところか。

龍川 怜子

ある程度怪しい人物がいる映像は抜き出せたね。


と怜子が肩をたたきながら言った。

八箇 実夏

でも、このサイズじゃ誰だかわかりませんよ?


と実夏が答えたのに合わせて私も頷く。

龍川 怜子

大丈夫。拡大しても画質下がらないから。


怜子がそう言いながら抜き出した映像を画像ファイルに変換している。

八箇 実夏

あとは不審人物の確認ですね。でも、どうやって?

ロールケーキを頬張りながら実夏が聞く。

龍川 怜子

ふみちゃんの出番。学校中の顔はわかるもんね。

こっちに振ってきた。さすが人使いが荒いな。

阿古川 史華

じゃ、確認。

龍川 怜子

スライドで行くからねー。

1枚ずつ画像を見せられる。






若くて生徒に大人気
教育実習生の岡田さん。

阿古川 史華

生徒は目線すら合わせない
教頭の竹下さん。

阿古川 史華

嫌々、宿直をさせられている
古文の伊藤さん。

八箇 実夏

あ!伊藤先生が宿直なんだー!

阿古川 史華

…次

ん?この人……

龍川 怜子

誰なの?

阿古川 史華

確か。……うん、間違いない。


私はタブレットで当人を探し出し確信した。

龍川 怜子

何々?誰なの?

生徒会副会長
新崎 真(しんさき まこと)

龍川 怜子

時間は?

阿古川 史華

午前2時10分。化学実験室前。

龍川 怜子

気になるわね。

阿古川 史華

不審。不可解。

と、私と怜子が不思議がっていると実夏が

八箇 実夏

生徒会長ですがあまり人と関わらないのを良く聞きますよね~

阿古川 史華

あなたが言う?

龍川 怜子

あなたが言う?

私と怜子が同時に突っ込んだ。すると実夏が

八箇 実夏

なにも綺麗にハモりながら突っ込まなくてもいいでしょに!

と半ベソで言い返した。ふと画像に注視すると何かを見つけた

阿古川 史華

怜子。この人持っているの。学校のカバンじゃない……

龍川 怜子

オーケー。そこだけ拡大して見やすくしてみる。

怜子はそう言うと画像解析作業に取り掛かった。
その間に私は

阿古川 史華

実夏。ウルトラモバイル。持ってたりする?

八箇 実夏

うん!!あ、でも今は自宅にあるよ。取ってこようか?

阿古川 史華

今は。いい。あとで必要だから。

八箇 実夏

じゃあ、いつでも出せるように明日からカバンに入れておくね!

その間に画像解析が終わったようだ。

龍川 怜子

できたー。さて何でしょね?

と怜子は私たちに問いかけた。画像から察するに袋のようだ。

阿古川 史華

小麦粉。

私は見たままの物を呟いた。実夏も

八箇 実夏

そうだねー。でも結構大きい袋だねー。

あっけらかんと言った。天然。

龍川 怜子

恐らく10kgかなー。この大きさなら、うん、間違いない。


と怜子が言った。私と実夏は

阿古川 史華

どうしてわかるの?

八箇 実夏

どうしてわかるの?

それを聞いて怜子は親指で後ろを指した。指した先を見ると

『薄力粉 業務用 10kg』

実夏はポカーンとしている。私は

阿古川 史華

あれ。朝食のパン用?

龍川 怜子

そうなの。うちはホームベーカリーで食パン作るから。

と満面の笑みで答えた。

そういえばこの家はやたらと業務用が多いことは知っていた。

阿古川 史華

相変わらず。買い物はまとめ。買い?

龍川 怜子

うん。2週間に一度。秋葉原で揃わない物は無いのだ!

ドヤ顔をしながら人差し指を立てて答えた。

阿古川 史華

秋葉原を何だと思っているんだろう……

秋葉原を何だと思っているんだろう……

八箇 実夏

それはそうと、小麦粉を何に使ったんだろうね…

実夏が不思議そうに呟いた。

阿古川 史華

これだけじゃ情報が少ない……すこし分散しないと……

そう思った矢先に怜子が

龍川 怜子

仕方ない。手分けして調べましょうか。


と言った。

阿古川 史華

どう。やって?


と私が訪ねると怜子は

龍川 怜子

ふみちゃんは新崎の情報、噂から行動パターンまでを分析。

龍川 怜子

実夏ちゃんはちと危険だけれど管轄の警察のデータベースに進入して今朝に関する情報を引っこ抜いて。

龍川 怜子

私は画像をもう少し調べて情報をかき集めるから。

とテキパキと指示を出す。こういう頭の回転の速さは流石だと思う。

八箇 実夏

いいのー?怜子さんの回線から侵入しても?

遠慮がちに実夏が尋ねると怜子は

龍川 怜子

あなたならできるでしょ?実績あるんだから。そこのPC使っていいから。

と奥のPCを指した。実夏はパタパタと走っていくと

八箇 実夏

おおぅ!モンスタースペックー!!やる気がモリモリ沸いてきたお!

どこかこじらせているモノを感じる。データを修正しておこう。

阿古川 史華

それよりも。目の前の事をやらないと。

私はタブレットにUSBメモリを差込み新崎に関するデータの抽出作業に入る。

阿古川 史華

アプリ起動。

阿古川 史華

パスワードは今の時間だとギリシャ語で入力。

阿古川 史華

起動確認。
検索対象の噂データを3つのテーブルから。
クエリーは。これで設定。

龍川 怜子

さて、久々にこれを使いますか。

怜子は透過式ヘッドマウントディスプレイを装着して9つのモニターを見始めた。

3人それぞれが別々の作業を黙々とこなしている。……一人だけ違ったか。

八箇 実夏

家のPCは電源……入れてなかったか。じゃあ、モバイルPCにアクセスして……で、電源オンっと。

八箇 実夏

こっちのポートと向こうのポートを繋いで……あ、パスワード。えーっと。……よし!

八箇 実夏

で、あれとあれをこっちに引っ張ってきて……ちょっと容量多いなぁ。

阿古川 史華

この娘……五月蝿い。静かに作業できないんだ……

独り言が多い。落ち着いて作業ができない。怜子のほうを振り向くと無言で映像を眺めていた。


(この娘……五月蝿い。静かに作業できないんだ……)

独り言が多いのは実夏だ。落ち着いて作業ができない。怜子のほうを振り向くと無言で映像を眺めていた。

(仕方がない。ここは……)

阿古川 史華

部屋。借りるね。

と怜子に言って寝室に入った。それでも

八箇 実夏

ぬおぉぉ。途中で回線が途切れそう……

八箇 実夏

うひょいっ!半分!あと半分!

八箇 実夏

にゅわぁぁ。

相変わらずの実夏に怜子が

龍川 怜子

みぃくわぁ!口にガムテを貼るよ!!

と言いながら実夏の口にガムテープを貼っていた。

そして個々に黙々と(?)作業を再開した。

阿古川 史華

新崎 真。特に目立った印象は無かったと思う。情報もそんなには多くない。

さらに検索範囲を広げて情報を集めてみることにした。

阿古川 史華

交友関係はあるといえばあるけれど、そこからの情報では拾える部分も多くはない。

行き詰まってしばらく悩んだ私は被害者である浅田光男にフォーカスを変えた。



浅田 光男。科学の教師で科学部の顧問。そして科学実験室の管理責任者。

これと言った黒い噂は多少あるが、爆破して怪我を負うほど恨まれている事が隠れているのだろうか。


阿古川 史華

これは。現状では限界があるかも。


そう思った私は怜子に隠蔽してもらったデータベースにアクセスすることにした。

元はといえば学校の情報を無理矢理アクセスできるように裏でいろいろと動いて得た物である。

過去のデータも見ることができる。これなら現状だけではなく過去の人物まで広げて検索できる。

これに興味を持ったのが怜子だった。すくなくとも怜子はこの情報と私の情報収集と分析能力が勿体無いと思って自分のサーバーに移動したと思われる。

初めて私に興味を持ってくれたのは怜子だ。そして実夏も私に興味をもってくれた。それは私にとって経験したことの無い感情が生まれた瞬間であった。

その期待に応えるべく私は情報を収集する。

浅田 光男の現在ではなく過去の経歴。そのものを紐解いていくことで手がかりを掴めないかと。

しばらくしてあるキーワードにたどり着いた。

龍川 怜子

ふみちゃーん!そっちなんか見つかった?

どうやら怜子も何かを見つけたようで寝室に入ってきた。

阿古川 史華

恐らく。これかと。

と私は答えた。

龍川 怜子

オーケイ!実夏も終わったようだから情報共有しよっか。

と言い、サーバールームに戻る。私もついていく。

龍川 怜子

あ、コーヒーとお茶入れなおすからちょっと待ってて。

そう言いながら怜子は給湯室……台所へ行った。

八箇 実夏

怜子しゃぁん。ガムテはひどいですよぉ。

と口の周りを真っ赤にしながら半ベソで実夏がボヤいていた。おそらく怜子に無理矢理口に貼られたガムテープをはがされたんだろう。

怜子が飲み物を入れなおして来て、情報の共有に入った。

阿古川 史華

先に私。特に事件や事故ではないんだけれど。


といい、二人にタブレットの画面を見せた。

『西都学院科学研究所から派遣』

『元F.Y.I Project研究員』

八箇 実夏

あれ、元々うちの教師じゃなかったんだ。

龍川 怜子

それにF.Y.Iって不審メールにあったやつだよねー。

阿古川 史華

そう。これ。

どうもこのキーワードが引っかかる。

八箇 実夏

じゃあ、次は私っ!

と実夏の番。

八箇 実夏

とりあえず拾えたデータは少なかった。

というよりもまだデータ化されていないみたいなんだよねー。

八箇 実夏

わかったのわぁ。爆発は粉塵爆破によるものだということ。

被害者である先生は命に別状は無いということ。

八箇 実夏

でー。不審メールは送られた人全員の携帯・スマホからメールが消えていますっと。

とあっけらかんと最後を報告した。

慌てて怜子と私は自分のを確認する。

阿古川 史華

本当だ。消えてる。

龍川 怜子

まずいわね。メールの解析を後回しにしたのは失敗だったかな。

と言ったところで実夏が

八箇 実夏

ごしんぱーいなく!バックアップを取ってあるからね!

と満面の笑みで言った瞬間に怜子のチョップが実夏の顔面にヒット。

八箇 実夏

うぉちっ!怜子さーん。酷いです。

龍川 怜子

先に言いなさい!最優先事項でしょっ!

阿古川 史華

大丈夫か……こいつら……

龍川 怜子

じゃあ、最後は私ね。

と怜子の番。

龍川 怜子

とりあえず映像のほうはあれ以上は無し。

それじゃあ、何を調べていたんだ……

龍川 怜子

気になったところは2つ。まずは事故当時に常設していたカメラが1台故障した件。

龍川 怜子

あれは、爆発による衝撃等の破損ではなく、電子的に破損していたということ。

龍川 怜子

それと、事故が起きる直前に学校内で電磁波が検出されたということ。

と言ったところで私が

阿古川 史華

電磁波。粉塵爆破に関係が?

と聞くと怜子は

龍川 怜子

わからない。けれど、憶測では関係あるかなと。

自信無く応えた。

八箇 実夏

ばけがくは苦手なんで解説願います。

と頭を抑えながら実夏が尋ねた。

龍川 怜子

いい?電磁波はそもそも電子機器からも発せられているということ。電子レンジなんかはマイクロウェーブという電磁波で食品を温めるの。

続けて

龍川 怜子

電子レンジにアルミホイルとか入れると火花が飛び散るの。だから、粉塵で充満の部屋に火花が発生すると。

と言ったのに続けて私が

阿古川 史華

ドカン。だね。

そう答えると怜子は

龍川 怜子

そういうこと。

と頷いた。続けて

龍川 怜子

粉塵に使われたのがあの新崎が持っていた小麦粉だとして起爆は何だろう?

と私たちに問いかけてきた。

阿古川 史華

電磁波。でもそんな大規模なの。どうやって?

と私は問い返す。

龍川 怜子

そこなんだよねー。情報が少なくてね。

困り顔で答えてコーヒーを飲んだ。

八箇 実夏

とりあえず警察の情報が集まるのを待つしかないですかね?

実夏もガッカリしながらぼやいた。

阿古川 史華

現状では憶測の域を出ないのは確かだ。

小麦粉による粉塵で部屋を充満し、マイクロウェーブつまり電磁波による火花での発火。

阿古川 史華

しかし、そんな設備は科学実験室にはなかったはず。そうなると犯人はどうやって…

龍川 怜子

とりあえず今日はもう遅いし、解散としましょう。

と怜子が解散の旨を告げる。

八箇 実夏

そうですねー。経過を待ちますか。

実夏も納得したようだ。

阿古川 史華

賛成。報酬。もらう。


私はそう言い、怜子の自宅を出ることにした。

その矢先だった。

阿古川 史華

!!

タブレットにメールが来てる。

その内容は

-------------------
From:F.Y.I
To:
Subject:F.Y.I

【警告】
この件について
触れることを
禁じる。

八箇 実夏
龍川 怜子
阿古川 史華
-------------------

F-6 観察と記録が好き。それだけ。

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