龍川 怜子

さて、今日からまた学校かぁ。

朝5時には起きてサーバーのデータをチェックしていた。

龍川 怜子

今日は実夏ちゃんが遊びに来る日だからアレを渡しておかないとね。

龍川 怜子

この間見たらガラケーだったもんね。

龍川 怜子

ちとあれじゃあ、これから使ってもらうアプリの不荷が重いな……

龍川 怜子

新しいスマホをプレゼントして使ってもらおう♪

給湯室に行き朝ごはんの支度をする

龍川 怜子

今日は……フレンチトーストにしますか。

食パンと卵、牛乳に砂糖を用意する。

龍川 怜子

ここ、ガスじゃないから火力がイマイチなんだよね~。

手際よく卵と溶いて牛乳と佐藤を混ぜて食パンに浸す。

その間にフライパンにバターを敷いて弱火にする。

龍川 怜子

あ、あとコーヒーかな。

龍川 怜子

昨日は3時間寝たからコーヒー飲んで眠気を吹き飛ばさないと。

バターがちょうどよくジューと音を立てたので食パンをフライパンに入れてフタをする。

龍川 怜子

少し離れてても良いかな~

そう言って洗面所で洗顔をして髪をとかすのがだが、フレンチトーストの焼け具合が頭から離れない。

龍川 怜子

おっと、せっかくのフレンチトーストが焦げちゃたまらないなぁ。

慌てて給湯室に戻り食パンをひっくり返してから、奥の部屋に向かい制服に着替える。

午前6時

使ってないタワーPCをテーブルにして今日はフレンチトーストとコーヒーのみ。

9つのモニターを眺めながらフレンチトーストをフォークで刺して口の中に放り込む。

龍川 怜子

昨日集めたデータでは収穫なしと。そういえば通信マップも見ておかないとね。

手慣れた様子で3次元マウスを動かし、9つのモニターに地図を表示させる。

龍川 怜子

特に変な部分はなさそうだけれど……あ!


通信モニターはインターネット回線や携帯電話回線の使用量を地図という形で表示するアプリである。

一か所だけ赤い色の丸が大きく付いている箇所を見つけた。

龍川 怜子

ここって、私の通う学校じゃないか? 通信量が多かった時間は……午前0時。誰もいないはずだな。

龍川 怜子

何か関係してくるのかな、かな?

学校に行く時間も近づいてきたので、フレンチトーストの残りを口の中に詰め込み、食器を給湯室に置いてから、学校へ行く支度をする。

龍川 怜子

こりゃ、なにかあるかもしれないね。もっていこうか。


そう言い、カバンにスマートフォンを2つ入れて家を出た。








学校に着いて教室で実夏ちゃんを見つけた時に

龍川 怜子

あの、八箇さん。ちょっとお時間よろしいかしら?


とうの実夏ちゃんは

八箇 実夏

え、えっと。大丈夫ですよ。


と答えたので私は周りの只事ではない視線を無視して実夏ちゃんを廊下に連れ出した。

八箇 実夏

怜子さん、どうしたの?

龍川 怜子

実夏ちゃん、これを持っていて欲しいんだけれど。


と言ってスマートフォンを差し出す。

八箇 実夏

え!だってこれ怜子さんのでしょ?簡単に受け取れないよぉ。

龍川 怜子

大丈夫。回線はWifiだからね。一応、学校内と秋葉原エリアとうちの家は無料でつながるようにいじってあるから。

八箇 実夏

無料って……違法じゃ無いの?

龍川 怜子

大丈夫だって!!
学校だって秋葉原は
無線LANでしょ。

うちの家も大丈夫だから。

いや、それはアウトです。
よい子は真似しないでね!

作者より

八箇 実夏

ありがたいけれど、本当にいいの?

龍川 怜子

ぜひ実夏ちゃんに持ってもらいたいの。だって実夏ちゃんガラケーでしょ?

八箇 実夏

まー、流行に後れてるというかこだわりが無いからね。

龍川 怜子

じゃ、持っててね。使い方はあとで。昼休みにねー。

八箇 実夏

ちょ、怜子さんー!

龍川 怜子

よし、これで無理やり持たせることに成功した。

教室に先に戻った私はいつも通りでお嬢様の振りで過ごそうとしたときにスマートフォンのメール着信音が鳴った。

中身を見るとメールのようだ。しかし今までにない違和感を感じるものであった。








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From:FYI
To:
Subject:FYI

化学部の顧問はペテンである。
いずれ幕間に天罰が下る。

------------------------













この内容が何を意味しているのかは分からない。が、おかしな点は周りも同じようである。

なんか、変なメール来たよー。

あ、あたしも、あたしもー。

差出人だけ表示されるってなんだろう。

気味が悪いね。消しちゃおう!!


どうやら生徒たち全員にも同じメールが来ているようだ。

何か嫌な予感がする。私はそう思っていた……

八箇 実夏

龍川さん、龍川さん……

席に戻ってきた実夏ちゃんが私にコソッと声をかけて自分の携帯を指さすジェスチャーをした。

龍川 怜子

わかってるよ。

私も同じジェスチャーをして同じだと答えた。

1時限目の授業は数学だ。そして2限目は化学。

数学は余裕なので授業は聞かなくてもいい。

それよりも重要なことはあのメール。書かれていたことが本当なら何か起きるといっているようなものだ。

かといって、どうすることもできないのが実際の状況である。

教師が入ってきた。すると

おおーい、席につけー。

皆も変なメールが来ていると思うがただのイタズラだろうから消去して気にするんじゃないぞ。

龍川 怜子

いや、気になるもんなんだけれどね。どうしたものか。

化学の教師は……

浅田 光男

独身で生徒とは距離を置く性格で授業している声も小さい。

龍川 怜子

少なくとも女子生徒からはキモがられているタイプであることは間違いないかな。

龍川 怜子

それ以外の情報は……無いな。どうやらふみちゃんの情報網を借りないとな。

おーい、龍川ぁ。この問題を解いてくれ。

思考の邪魔が入った。とりあえず黒板に向かう。

龍川 怜子

数列か。これなら考えるまでも無い。

チョークが止まることなく答えを描いていく。

龍川 怜子

以上ですわ。いかがでしょうか?

さすが龍川だな。正解だ。


足早に戻り、先ほどの思考を再開する。

龍川 怜子

FYI。なぜ差出人と主題に入れているんだろう。

龍川 怜子

たしか意味は”参考までに”だったはず。

龍川 怜子

差出人は何故これを教師や生徒のメールが出せたのか?

龍川 怜子

あの内容は何を意味しているのか?


考えたら考えるだけ無意味な気がしてきた。

授業の終わりのチャイムが鳴り、みんなが片づけをしているところに


と、校舎に大きな破裂音と振動が校舎を襲う。

きゃぁぁぁ!

皆、机の下に入ってじっとしてろ!

何なのよ!

きゃっ!まだ揺れてる!

龍川 怜子

慌てず騒がず。

学校の要所要所に小型のWEBカメラを仕込んでおいているのだ。単4乾電池サイズだから誰にもばれない。

スマートフォンを取り出し、アプリを立ち上げて仕掛けたWEBカメラ20か所を順に確認していく。

龍川 怜子

ここも……ここ……ここも大丈夫。次は……!


1か所だけカメラが動作していない。

その場所は……化学実験室だ。

その後、数学の教師から1時間待機するように言われた。

1時間後、担任の教師が来て報告したことは

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怪我人は教師の浅田光男で重軽傷だと判明。
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2時限以降は危険なため中止。全員帰宅となった。



すぐに実夏ちゃんと合流すると

八箇 実夏

怜子さん、あれってさっきの……

と、彼女はメールの事を気にしているようだ。


無理も無いか。


メールと科学室爆発が繋がっているのだから。


今は余計に不安をさせたくなかったので

龍川 怜子

シーッ。周りの生徒もそう思っているみたいだよ。

と、みんな同じ気持ちだと伝えるとホッとした表情で

八箇 実夏

とりあえず怜子さんのところに行く?

まあ、帰宅命令だからそうなるね。元々、こっちからした約束だし。

でも私としてはこれは実夏ちゃんとあの娘を引き合わすチャンスができたので

龍川 怜子

そうね、あと一人捕まえてからね。

と、実夏ちゃんにとっては予想外の返事をした。

八箇 実夏

え?あと一人って?

龍川 怜子

すぐわかるから


私は教室を出ると真っ先に図書室に向かった。

実夏ちゃんは私の後をついてくる。










化学実験室とは逆の方向にあるから人目に晒すのも少ないだろう。

しばらく歩いてようやく図書室の表札が見つかった。










ノックもせずにガラッと開けてずかずかと入った。

そこには三つ編みで眼鏡をかけた女子生徒がいた。

阿古川 史華

れい。来たの。

龍川 怜子

相変わらずね、ふみちゃん

阿古川 史華

後ろの子。誰?

龍川 怜子

八箇実夏ちゃん。つい最近にお友達になったのよ。

阿古川 史華

そう。

八箇 実夏

あ、あ、八箇実夏です。よ。よろしくお願いします。

阿古川 史華

うん。こちらこそ。阿古川 史華(あこがわ ふみか)。ふみでいい。

八箇 実夏

あ、はい!よろしくお願いします。

龍川 怜子

紹介はそこまで。ふみちゃん、わかっているよね?

阿古川 史華

もち。さっきメールと爆発。これでしょ?

龍川 怜子

そう、浅田の噂を全部欲しんだけれど。

阿古川 史華

報酬。

龍川 怜子

メイドクッキーひと箱でどうよ。

阿古川 史華

いいよ。じゃ、調べてまとめる。待ってて。


彼女は図書委員で時間さえあれば図書室に引き篭もるんだけれど、本当は生徒の噂話を集めてデータベースとして蓄積している。

だから私にとっては貴重な情報源なのだ。

そもそも彼女は実夏ちゃんや私よりも独特な個性なので、未だにちゃんと友達と思っていてくれているのか微妙なところだ。

彼女と友達となったのは……













……1年前




まだ私は誰にも心を許せない性格でいた。

見た目はお嬢様なフリをしているんだけれど。

”機械オタク”なんてばれたらとんでもない。

素の自分を隠すためにずっと演じていた。

あるとき、周りの会話で

ねぇねぇ、変わった子がいるんだけれどさ。

ああ、八箇のこと?付き合い悪いのは有名じゃん。

そうじゃなくてね。図書室の主っているんだってさ。

図書室の主?なにそれ。

時間があれば図書室にいるみたいでクラスの連中も印象が薄いんだってさ。

いるんだね~。そんな変人みたいなやつがね。

ただ、からかいに行くのはよしたほうがいいんだって。

なんで?暇つぶしにはちょうどいいじゃん。

その子にちょっかいだしたことであとでとんでもない秘密をばらされて登校拒否になった子がいるみたいなんだよね。

そうなんだ。


私はふとその子に会いたいと思った。いや、会わなければと思った。

放課後。

図書室の前に立つ自分がいた。ものすごく緊張している。

深呼吸をして、ゆっくりと戸を開けた。

その奥には夕日の逆行を受けて三つ編みで眼鏡をかけた少女が居た。

阿古川 史華

本館はもう。閉館。ですよ。


私は一歩一歩踏み出し、その子の前に立つ。

龍川 怜子

あなたに用事があるの。

阿古川 史華

私。何故?用件は?

龍川 怜子

興味を持ったから。

阿古川 史華

からかいに来たの?

龍川 怜子

とんでもない。興味があるといったでしょ。

阿古川 史華

私に?わからない……

龍川 怜子

単刀直入に言うわよ。あなた、学校のデータベースを使って生徒の噂を集めているでしょ?

阿古川 史華

なんのこと?私はただの図書委員。

龍川 怜子

んじゃ、証拠。これを見なさい。


といってスマホを見せるように突き出す。



-----------------------------------
1年A組 龍川 怜子

印象
お嬢様 100%

成績
文系 A
理系 S
運動 B


性格と立ち振る舞いで近寄る女子無し
ノートを取っているところを見たことが無い
帰りは徒歩であるという証言多数
-----------------------------------

阿古川 史華

龍川 怜子

どう?これが動かぬ証拠。

阿古川 史華

学校のサーバーにアクセスしたの?

龍川 怜子

もちろん。これが私の特技。

阿古川 史華

知らなかった……

龍川 怜子

あなた、学校のサーバーに個人的なデーターベースを作って大丈夫だと思ったの?

いつ学校にばれてもおかしくないわよ。

阿古川 史華

……唯一の特技だから。

それに図書室が一番落ち着く場所。

龍川 怜子

好みの場所はとやかく言わないけれど、その個人情報や根も葉もない噂を集める趣味は程ほどにね。

とは言ってもそのデータには私も興味があるから新しい置き場所は私が作る。それと端末もね。

阿古川 史華

端末?


そう聞かれた私はタブレットを彼女に渡した。

阿古川 史華

これ……

龍川 怜子

いいからいいから。このアプリを開いてみて。

阿古川 史華

うん……!

龍川 怜子

どう?

阿古川 史華

前と同じだ。でもいいの?こんな高いの?

龍川 怜子

どうせうちのお店で引き取ったジャンクを修理したからあなたにあげるの。

あとそれと、データベースを置く場所も変えるわよ。

阿古川 史華

どこ。に?

龍川 怜子

あたしんちのサーバーに。

阿古川 史華

でも…

龍川 怜子

いつまでも学校のサーバー使うわけにはいかないでしょ?
だからあなたが好きなだけ使えるように私のサーバーに移すわ。

その代わり、どあなたには私と友達になってもらう。

阿古川 史華

……え?

龍川 怜子

これで自由に噂のデータベースの更新ができるしょ?でも、友達になりたいのはあなた自身に興味があるからよ。

阿古川 史華

友達。初めて。

龍川 怜子

OKと取っていいのね。

改めてだけれど、私は龍川 怜子。あなたの名前は?

阿古川 史華

阿古川 史華。


こうしてふみちゃんと友達になったというわけだ。

そして今。

学校の情報屋もとい友達となったふみちゃんは手慣れた手つきでタブレットを操作する。

阿古川 史華

……。

龍川 怜子

私たちも戻ったら情報あつめないとね。

八箇 実夏

ほぇ?私も?

龍川 怜子

あなたハッカーでしょ?苗字が八箇だけに。

ちょ、ってハッカーではないんですよ。

龍川 怜子

うちのサーバーに侵入したくせに

八箇 実夏

あう。それは知らないで入っただけで。

龍川 怜子

んじゃ、同じでしょ。

八箇 実夏

はぃ。

実夏ちゃんをからかっている間に

阿古川 史華

じゃ。スマホに。転送。

ふみちゃんは作業を終えたようで自分のタブレットを私のスマホをコツンとぶつけると

と音がした。

スマホのアプリを立ち上げて内容を確認する。

-----------------------------

・浅田光男 42才 男 独身
化学教師および化学部顧問
化学実験室管理責任者

科学部は幽霊部員で構成されている
活動したところを見たことが無い
活動費は文科系で3番目
恋愛に興味が無い
携帯越しで謝っているところを目撃
借金があるのではないか

-----------------------------

龍川 怜子

なるほどね~。

タブレットをしまって

阿古川 史華

一応、噂については6つが有効でした。

ふみちゃんは答えた。内容を見て実夏ちゃんが

ひゃ~。化学部って幽霊部員だったんだね。

と驚いているところで、ふみちゃんが手を出して

阿古川 史華

報酬……

龍川 怜子

うちに来なさい。

と答えて手をひっこめさせた。

八箇 実夏

で、ここから何を調査するんですか?

龍川 怜子

昨日から今朝にかけての学校の状況。

八箇 実夏

???

阿古川 史華

……

龍川 怜子

あーもう面倒だから二人ともうちにすぐ来る!

そう答えてスタスタと歩き出した。

学校を出てしばらく歩くと秋葉原。

さらに歩いて我が家、があるビルに到着。

二人に

龍川 怜子

エレベーター乗ったら後ろ向いててね。


というと素直に後ろを向いてくれた。さて、玄関を開けねば。

(たしか、”開”と”閉”のボタンを同時に押しながら”223145”の順番っと。)

エレベーターの扉が閉まり、上っていく。

5階に着くと扉が開き我が家が見えた。

龍川 怜子

二人とも、いいよ。

そういって二人を招き入れる。

八箇 実夏

お、お邪魔します。

阿古川 史華

あ、久々。

そういいながら二人はエレベーターを出た。

龍川 怜子

今コーヒーを入れるからね。ああ、ふみちゃんはお茶ね。

そう言って台所に入って用意する。

八箇 実夏

あ、阿古川さんは龍川さんちって初めて?

阿古川 史華

ふみでいい。ここは何度かある。

八箇 実夏

そ、そうなんだ。

といかにも進展の無さそうな二人の会話が聞こえる。

龍川 怜子

実夏ちゃんのことはね、ふみちゃんから情報もらって友達になろうと決めたんだよ~!

コーヒーとお茶を運びながら言った。

八箇 実夏

へ?そうなのー?

阿古川 史華

うん。頼まれた。

八箇 実夏

なんて書いてあったの?

と実夏ちゃんが聞くので

龍川 怜子

今朝渡したスマホにある紫色のアプリ立ち上げてみて。

と言うと実夏ちゃんはカバンからスマホを取り出して立ち上げた。

---------------------------
1年C組 八箇 実夏

印象
内向型 50%
引き篭もり 50%

成績
文系 D
理系 S
運動 D


至って周囲と関わらない
授業は割と真面目に受けている
学校以外は自宅に引き篭ってそう
趣味がいまいちわからない
接触した生徒は無事では済まない
---------------------------

八箇 実夏

な、何これ?

と驚く実夏ちゃん

龍川 怜子

だから周りの噂をまとめるとこうなるんだってさ。

とあっけらかんと言うとふみちゃんが

阿古川 史華

周りの。意見の。統計。

と、とどめを刺した。

うっわー、皆にこう思われているんだー。ショックだなー。

と言いながらもまんざらでもない実夏ちゃん。

龍川 怜子

さて、そろそろとりかかりたいんだけれどね。

と私は仕切り直しの意味で言った。

阿古川 史華

報酬……。

またもやふみちゃんは手を出して報酬を求めてきた。

龍川 怜子

はいはい。そこにあるから後で持って帰ってね。

と言いマウスを操作し始めた。

F-5 思うが先に動くが吉

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