02. 紫苑町沖迎撃作戦 弐


DDG-173 せきえい
艦載機:モルフォJ型 10号

DD-101 ときわ
艦載機:モルフォJ型 05号-06号搭乗員救助活動

DD-103 くちば
艦載機:モルフォJ型 02号-駆除行動の効果観測

DD-107 せきちく
艦載機:モルフォJ型 06号-被撃墜、搭乗員安否不明

DD-107
“せきちく”

キリムラ

各員が義務を果たすことを期待している


 ときわ型汎用護衛艦、七番艦“せきちく”。
 其の艦橋に、艦隊司令の声が響く。

タカシマ

火器管制システム、チェック!


 艦長のタカシマは明らかに苛立っていた。

ミズノ

いや、まあ、気持ちは分からなくもない

ミズノ

と言うか、良く分かる


 撃墜されたモルフォ06は本艦の艦載機だ。
 パイロットを一刻も早く救助してやりたい。

ミズノ

其れをキリムラ司令は後回しにした……


 艦長の想いも当然のことだ。
 然し、司令の指示を艦に達さなくて良い理由にはならない。

 此処は、そう言う場所で、そう言う組織だ。

ミズノ

……艦長

タカシマ

何だ?

ミズノ

……司令指示、
艦内に達さず宜しいのですか

タカシマ

ふん


 タカシマは、キリムラと毛色の違う海の男だった。
 キリムラがインテリの権化たる海の男ならば、

ミズノ

豪快、剛直、
日焼けの似合う、昔ながらの海の男

タカシマ

義務を果たせだと?
艦載機を落とされる以上の義務か!?


 言葉の終わりと同時に肘置きを殴る。
 目を合わすまいとする艦橋員たちの肩が、一度だけ震える。

ミズノ

……御気持ちは分かります。
さりとて、司令の指示とあらば――

ゴトウ

せっ、“せきえい”より変針入電!

タカシマ

変針、だと……?

ゴトウ

“艦隊針路、サン・ヒト・ゴ。第一戦速”。
――以上です


 正面より左に45度方向。
 モルフォ02の墜落座標は、現在位置より一時半の方向。

ミズノ

まさか、艦隊を囮にするつもりか……!


 駆除対象を引き付けて、救助活動を支援するつもりか。

タカシマ

……ふん


 先とは違う、口角の持ち上がった呼気。

タカシマ

針路、サン・ヒト・ゴ! 第一戦速!!

マツバラ

針路、サン・ヒト・ゴ!
第一戦速! 宜候!!


 機関の回転が上がり、靴底に力強い鼓動が響く。

タカシマ

……艦内に繋げ

ゴトウ

はっ、はい!

ゴトウ

――どうぞ!

タカシマ

本艦は此れより、
艦隊指示に従い本艦の家族を救助する!

タカシマ

各員は間違い無く義務を果たせ!!

タカシマ

――以上だ!

キリムラ

各艦、単装砲準備。砲撃戦用意

ヨシダ

各艦、単装砲準備。砲撃戦用意!

オダ

“拙速のキリムラ”も今回ばかりは慎重策か

 巧遅は拙速に如かずとばかり、作戦を始めるや否や圧倒的な火力を投じる。
 其れにより形勢確立を狙うのが、キリムラの戦い方である。

 些か不名誉にも聞こえる二つ名だが、当の本人が気にしている様子は無さそうだ。
 拙速ばかりで無いことは、艦隊司令の席が証明しているのだから。

キリムラ

各艦、単装砲の自動照準を切れ

ヨシダ

か、各艦、単装砲の自動照準を切れ!

オダ

司令!?

 “せきえい”は127ミリ、ときわ型各艦は76ミリの単装砲を装備している。
 口径の差こそあれ、1分間に40発もの速射が可能な優秀なる火砲である。

 対水上戦のみならず対空戦にも対処できる両用砲だが、レーダーとの同期による自動照準が欠かせない。
 キリムラはオダには答えず、直通回線を開く。

キリムラ

幾ら巨大とは言え、相手は生物だ

 携帯獣の体組織構成要素は、携帯獣によって大きく異なる。
 蛋白質が主要素のものも在れば、鉱物に酷似したもの、中にはガス状のものも存在する。

 だが、確実に言えるのは、

キリムラ

対兵器戦では無い

オダ

オダ

もし駆除対象をレーダーがロストしたら?
もしモルフォ06を照準してしまったら……?

 其処まで考えて、身震いを起こす。
 友軍信号も絶対では無い。

 万に一つの可能性を、億に一つまで減らすのが我々の仕事だ。

キリムラ

電子兵装に頼るな。アナログで嗅ぎ分けろ

オダ

聞いたな、砲術長

アンドウ

はっ

 手元のコンソールを叩いて、単装砲を手動に切り替える。

アンドウ

単装砲、自動照準オフ、良し

 単装砲と同軸に設定されたカメラを起動させると、アンドウの手元と艦橋のディスプレイに映像が現れる。

アンドウ

単装砲、映写機、感度良し

 アンドウの左手元には、二つのホイールが縦に並んでいる。
 此れは此のまま照準のX軸とY軸を決定するポインティング・デバイスだ。

 静かに左手がX軸をプラス方向へ動かすと、同軸映像が右から左へ流れ始める。

アンドウ

単装砲、手動照準、感度良し

 右手がコンソールの幾つかを叩くと、映像が何段階か拡大され――ディスプレイ一杯に駆除対象を映し出す。

オダ

……!

 改めて、オダが息を呑む。
 おぞましい、暴力の化身。

アンドウ

……単装砲、距離入力、良し

 映像から距離を割り出し、その距離を入力することで着弾点の調整を行う。
 本来であれば、全て自動で行われることだ。

 厳しい訓練を積んでいるとは言え、九割九分が自動照準ありきのものだ。
 其れでもなお命令を遂行できるのは、残りの一分と、

アンドウ

単装砲、用意良し!
――いつでも撃てます!!

 砲術長自身の研鑽の賜物である。

キリムラ

宜しい

キリムラ

各艦、どうか

ヨシダ

“せきちく”、用意良し

ゴトウ

“くちば”、用意――

ゴトウ

――!

ゴトウ

訂正します!
“ときわ”、“くちば”、共に用意良し!

キリムラ

05、どうなっているか

ヨシダ

06墜落座標まで200秒!

キリムラ

各艦

ヨシダ

は!

ヨシダ

――どうぞ!

キリムラ

現時刻を以て本艦隊は戦闘回線を使用する。
各艦、各員は間違い無く行動せよ

 戦闘回線は、言わば艦隊司令発の緊急回線を、常に開いておくようなものだ。
 司令の指揮を、リアルタイムで艦隊各艦の艦橋へ届かせる。

 極めて前時代的だが、それゆえ間違いの無いシステムだ。
 昔も今も、艦を動かすものは変わらない。

アンドウ

対象、移動します!
目標、02及び06墜落座標の恐れ有り!!

キリムラ

02は後退、05は全速

 キリムラの指示は、其々の母艦が受け取り、其々の艦載機へと指示を飛ばす

キリムラ

此れより砲撃戦を開始する

 ――此処に至り、艦隊の緊張は頂点に達する。

キリムラ

第一艦隊斉射

 今にも切れんと張られた糸は極めて細く、

キリムラ

号令同時、単射

 されど、しなやかだった。

キリムラ

――用意

 喧噪こそ引け、

オダ

――ッ!

 未だ浪高い海に、

キリムラ

てぇ!!

 鉄の稲妻が閃いた。

Pocket Monster - DRAGON QUEST

02. 紫苑町沖迎撃作戦 弐
―了―

02. 紫苑町沖迎撃作戦 弐

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