03. 紫苑町沖迎撃作戦 参

オダ

――矢張りか

 艦の、艦隊の、想いを代弁する呟きがオダから漏れる。

 四本の光条は、駆除対象へと吸い込まれた。
 まるで定規で曳いたが如き、四本の直線。

アンドウ

本艦、初弾命中


 砲弾を稲妻とすれば、黒煙は雷雲だった。
 其れは砲塔を包んだかと思えば、潮風が直ちに拭い去る。

オダ

“せきえい”が装備している
127ミリ単装砲は、我が海軍最大の火砲だ

 艦艇の「主砲」は今やミサイルであるから、単装砲は言わば「副砲」の扱いである。

オダ

其れでも30キログラム超の砲弾を、
秒速750メートルで撃ち出す破壊力たるや

オダ

生半なものでは無い、はずだ

 晴れた視界の先。
 山吹色の巨体は依然として洋上に在った。

ヨシダ

“ときわ”及び“くちば”、初弾命中

オダ

「生半なものでは無い」程度の砲撃を
浴びせたところで、
こんな怪獣を仕留められる訳が無いのだ

ヨシダ

“せきちく”、初弾命中ならず

キリムラ

タカシマめ、聞こえているな?

キリムラ

後で私の127ミリをブチ込んでやる!
覚悟しておけ!!

 キリムラの珍しい悪口に、艦橋員は自らの耳を疑う。

 が、其れを気にしている間も無い。

アンドウ

第一次艦隊斉射、推定三発命中――
対象は依然健在

 言葉になることで、いや増す絶望。

アンドウ

――なりとても、砲撃の効果を認める

 コンソールのディスプレイから目を離さぬまま、砲術長が言葉を繋ぐ。

オダ

アンドウ

対象が移動を中止しました……!

 ぐるり、と龍が首を廻らす。
 動かぬはずの瞳孔が――其の眼光が、艦隊を射抜く。

 吐くべき息を呑み込んだ艦橋を後目に、

キリムラ

結構

 一人の男が口角を上げる。

キリムラ

05、どうか

カワモト(05)

02のパイロット、二名を確認しましたわ

キリムラ

300秒、預けよう

オダ

5分だと!?

 言葉に出さずキリムラを見る。
 また何か考えがあるのだろう――喰い付きたい気持ちを抑える。

キリムラ

救難コンテスト最優秀チームの君たちだ、
出来るな?

オダ

なるほど、
“ときわ”の救難チームは優秀だ。

02で無く05に救助活動を命じたのも
理に適う――が、

 幾ら最優秀チームとて、5分では一人が精々のはずだ。

カワモト(05)

やれっちゅうなら、やるだけですわ

 妙にフランクな返電が05から入り、

キリムラ

やれ

 キリムラが即答する。

カワモト(05)

了解、了解

キリムラ

あらゆる責任は私が負う――
ゆえに君たちは、あらゆる手を尽くせ

カワモト(05)

300秒、預かりますよ

キリムラ

ああ。釣りは取っておけ

カワモト(05)

御馳走になりますわ

 05から届く声は、どれも軽薄なものだった。
 然し、どれも事を成す自信と決意が底に沈んでいた。

オダ

……良く分からんが、全てを知る必要も無い

 全てを知らねば戦えぬほど、軟弱な者は此処には居ない。

キリムラ

艦長

オダ

 与えられた責務を果たすのだ。

キリムラ

呆けているなよ

オダ

……無論です

 05のように。

キリムラ

第二次艦隊斉射、号令後三連――

キリムラ

てぇ!

 再び四門の砲が火を噴く。

ヨシダ

“せきちく”、全弾命中!

キリムラ

乗って来たな

アンドウ

本艦、全弾命中!

オダ

当然だ

ヨシダ

“ときわ”及び“くちば”、各二発命中!

アンドウ

対象、依然健在……!

キリムラ

怯むな、第三次艦隊斉射用意

アンドウ

……は

アカオ(02)

此方02、命中判定の修正を願います!

キリムラ

……どう言うことだ?

アカオ(02)

第一次、及び第二次艦隊斉射の命中弾13、
全弾命中していません……!

キリムラ

02、此方で目視する限り
対象に着弾している

キリムラ

此れは誤りと言うことか

アカオ(02)

はい!

アカオ(02)

13発は全て、対象の距離200ほどで
消失しています……!

キリムラ

……ほう

オダ

何だと! そんな馬鹿なことが――

 言い掛けたオダは、はたと気付いて口を閉じる。
 既に、そんな馬鹿なことは起きてしまっているのだ。

キリムラ

今更、馬鹿なことの一つや二つ、
何のこともあらん


 “光の壁”と呼ばれる携帯獣の“技”。
 本来は不可視の障壁を身に纏うことで、受ける衝撃を軽減するものだ。

オダ

一体、如何ほどの能力を有しているのだ……

 間違い無く、携帯獣学史を揺るがす大発見である。
 そして、艦隊にとっては、間違い無く大災厄だった。

 其れを身体から隔絶した場所へ展開し、全ての砲弾を受け止めるなど。

オダ

ん……?

 何か引っ掛かるものを感じて、オダは頭上に疑問符を掲げる。

キリムラ

気付いたか

オダ

砲弾を障壁により防いだ、つまり――!

キリムラ

ああ、そうだ

オダ

少なくとも、
直に受け止めたくは無い……!?

キリムラ

上出来である

オダ

――各員!

キリムラ

艦隊

オダ

朗報である!

キリムラ

対象に

オダ

砲撃は有効だ!

キリムラ

決して怯むな

オダ

障壁を押し切る!

キリムラ

第三次艦隊斉射、号令後五連!

オダ

決して外すな!

キリムラ

てぇ!!

 横面を、脇腹を、腕を、尾を殴り付けるはずの20の砲弾。
 其の悉くを見えない網で絡め捕り、山吹色の龍が艦隊に正対する。

オダ

……!

キリムラ

艦隊散開、敵の攻撃に備えろ

カワモト(05)

此方05

キリムラ

180秒か、先ず先ずだな

カワモト(05)

02のパイロット、二名を確保しましたわ!

オダ

二名だと!?

キリムラ

宜しい

オダ

同時に二人を吊り上げるつもりか……!

 危険も危険、極まりない。
 軍では決して認めていない救助方法だ。

オダ

然し、此れなら300秒で助けられr――

 オダの安堵を堰き止めたのは、

アンドウ

対象周囲に熱源現出!

 砲術長の声だった。

アンドウ

数……40!

 「熱源」は、揺らめく炎のようにも見える。
 巨龍の上半身を囲むように、下弦の弧を描く。

キリムラ

各艦、防空戦用意!

 “せきえい”のバリヤードシステムと艦対空ミサイルであれば、何と言うことも無い。
 100以上の目標を捕捉し、脅威度の高いものから10ずつ同時に対処できる。

オダ

更に艦隊とリンクすることで、
システム非搭載艦も同等の能力を得る

 だが、

オダ

05の救助活動が継続中だ

キリムラ

艦対空ミサイルは使わない

 艦隊を囮にするとは、こう言うことである。
 生命リスクと引き換えに、時間を生み出す。

 02と05の為に、艦隊の総員が死と相席するのだ。
 理解していたと、していなかったとに関わらず、である。

キリムラ

近接防御火器システムを起動、
自動照準を限定接続

 近接防御火器システムは、艦の最終防衛線だ。
 20ミリのガトリング砲ゆえ、其の他の艦載火器と比して射程は極めて短い。

 毎分3,000発のレートで弾幕を形成し、艦に接近する全てを叩き落とす。

キリムラ

各艦砲手、
単装砲の手動砲撃による迎撃を許可する

 「敵弾」の正体は不明だが、例えば対艦ミサイルであれば音速を優に超える。
 そんなものを手動で撃ち落とすことが可能とは思えない。

 ――が、

オダ

単装砲を遊ばせておく余裕も無い、な

キリムラ

各艦操舵、互いの距離に注意せよ


 古今、混戦時の事故は数え切れない。
 陸戦ならば同士討ち、海戦となれば加えて僚艦との衝突も珍しくない。

オダ

散開させておいたのは流石の判断だ

キリムラ

さあ、


 ディスプレイ越しに、

キリムラ

来るぞ


 二つの視線が衝突する。

キリムラ

各艦、防空戦始め!

Pocket Monster - DRAGON QUEST

03. 紫苑町沖迎撃作戦 参
―了―

03. 紫苑町沖迎撃作戦 参

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