こみみと別れたスオウは新田家を訪れていた
場所についてはヒガタから聞いていて、道中迷うこともなく

新田家は堰堤屋と比べて大きな家屋で、そして壁もまぶしい白さが輝いていた
大きい窓が複数あり、いわゆるおしゃれな設計をされている
そしてそういう住宅地であるからか、周りの家もそういう風に建てられていた

スオウ

さすが満濃学園に通っているだけあるわね

インターホンを鳴らす
けれど何も応答がなかった。留守にしているらしい

スオウ

別のところにも頼んでいるのかもね
まあ、明日ヒガタと一緒に行こう

ネコ

ふんふふ~ん♪
もうちょっとであの娘も落とせちゃうねえ~♪

ネコ

お、あの娘は
おーい

あの時のネコが、新田家から去ろうとしていたスオウを見つけ、駆け寄ってきた

スオウ

あ、ネコさん。こんにちは

ネコ

こんにちは。ここの家に用事かい?

スオウ

ええ、そうです。でも留守みたいで

スオウ

それに……ごめんなさい
お礼も用意できていなくて……

ネコ

律儀だねえ。気にしてくていいんだが
それは置いておいて、新田さんの家だねえ
ここの娘さんにはたまに可愛がってもらっているよ

スオウ

御存じなんですか?

ネコ

御存じってほどじゃないけどね
とてもきれいな女の子だよ、たしか名前は……こうの、こうのちゃん
脚のスラッとして、ちょっと愁いのあるのがなおいいんだよねえ
ちょっと撫でるのが下手だけど、そこもまた不器用さがあって――

スオウ

…………

ネコ

……こほん
そういやここ数日は見てないね
このくらいに通りかかると、大体会うんだけど

スオウ

実は今、家出したきり行方不明なんです

ネコ

む、そんなことになっていたのか
それは心配だ。ぜひ手伝わせてくれ

スオウ

そんな悪いです……

スオウ

……と言いたいところなんですけど、とても助かります
あんまりにも手がかりがないんです

ネコ

ふふ、君は素直で何より可愛い
オスとしてこれほど気合の入ることはないよ

ネコ

任せてくれ
こう見えても繋がりは多い方なんだ
そこを使えばすぐにでも足取りが掴めるさ
ネコは意外と見ているものだ

スオウ

ありがとうございます

スオウは現在持っている彼女の情報を伝えた
ネコは頷き、しっかりと頭の中に入れているようだった

スオウ

では、ここでまた会いましょう。
その時に何かあれば教えてください

ネコ

いや、それは面倒だろう
私が君の家まで行くよ

スオウ

そんなことまでさすがに……っ

ネコ

人は舗装された道しか来れないが、ネコは違う
ネコは歩けるところがすべて道だ。だから私が行く方が、時間の短縮にもなる

スオウ

お言葉に甘えます
えっと、では一緒に家まで来てくれますか?

ネコ

いや、住所を教えてくれればそれでいい

スオウ

わかるんですか?

ネコ

君の言葉と同じだ
やればできるようになるものだ。便利だしね

スオウはカバンからノートとペンを取出し、堰堤屋の住所を書いた
そしてその部分を破り、ネコの眼前へと近づける

ネコ

ふむ、なんとなくわかる
あの古い家だね。近くの角に安い自販機がある

ネコ

そうか、あそこが君の家だったんだね

スオウ

すごいですね
もし私がいなくても、えっと、ずっとアニメ観てるぐうたらな男がいますから、そこです

ネコ

ほおー
男性と一つ屋根の下なのか。見かけによらず情熱的だ

スオウ

そ、そんなのじゃありません……

ネコ

わかった
何かわかればすぐにでもお邪魔させてもらうよ

ミオ

すごく遅くなってしまったが、協力者になったのだから自己紹介を
私の名前はミオ
君は?

スオウ

灘スオウって言います
これからよろしくお願いします

ミオ

スオウ……喉を鳴らしたくなるお名前だ
こちらこそよろしく

ミオ

ではスオウちゃん
早速調査を始めてみるよ。そうはかからないはずだ。また会おう

そうして新たな協力者、ミオは飛び上がって塀の向こう側へと消えていった

スオウ

私は家で待っておこっと
ヒガタじゃ話せないしね

ミオが堰堤屋へとやって来たのはその日の晩
晩ご飯も大分前に終わり居間で、ヒガタはバラエティ番組を観、スオウは宿題をしていた時だった

堰堤屋の敷地には古くからあったおかげか庭があり、そこにちょこんと現れたのだ
青みがかった黒の毛並に、透き通った瞳が光る

ミオ

お待たせ

ヒガタ

お、君がミオか。協力者の
いらっしゃい

外で話すのは失礼であると、ヒガタが縁側の戸を開けて中に招き入れる
ミオは少したじろいだけれど、二人に促されてとことこと入っていった

ミオ

ニャー

ヒガタ

はは、やっぱ何言ってるかわかんねーや
よろしく、オレは守江ヒガタ

ミオ

ニャー

スオウ

こちらこそよろしくって言ってるわ

ヒガタ

仲良くやっていけそうだ

ミオ

へえ、彼は話せないのか

スオウ

ええ、訓練はしたんですけど、どうもならなくて

ミオ

なるほど
でも、また違う何かを感じるよ

スオウ

ヒガタは特化してるんです

ミオ

ほほう
さて、こうのちゃんの情報だけど……

スオウ

ニャー、ニャー

ミオ

ニャー

ヒガタ

いつ見ても面白い光景だな
いつか話せるようになんのかな、オレ

ミオ

家出したあとを見ていた仔たちを探して、たどっていったんだけど……

ミオ

知人の家にいるようだ
誘拐されたというわけではなさそうだが……

スオウ

ありがとうございます
最悪の状況ではなさそうですね

ミオ

場所は案内するけど、どうする?

スオウ

ヒガタ、見つかったんだって
知り合いの家でお世話になっているみたい

ヒガタ

お、ネコネットワークはさすがだな
ちょっと待て、依頼主にどうするか訊いてみる

ヒガタ

答えは決まったようなもんだけどな

携帯端末を操作し、依頼主である松へと電話を掛ける
コールはすぐに終わり、彼女と繋がった

はい、新田です

ヒガタ

もしもし、堰堤屋の守江ですけど

あの、何かわかりましたか?

ヒガタ

ええ、どうやら知人の家にいるようです
場所もわかっていまして、これからの指示をいただきたいのです

あの……
そちらで帰ってくるように説得していただけませんか?

ヒガタ

構いませんが、別料金をいただくことになりますよ
依頼は、「こうのさんを探して欲しい」ということだったので

はい、問題ありません
よろしくお願いします、では

通話が終了し、ヒガタはぽりぽりと頭をかいた

ヒガタ

案の定だ
オレたちが帰るよう説得してくれってよ

スオウ

そういう姉ってことね
さて、では行ってみますか

ミオ

姉……?

スオウ

ミオさん、お願いします

ミオ

あ、ああ。そう遠くはない
ついてきて

ミオの案内に従い、二人は夜道を歩く
家々の窓からは灯りが漏れていて、そして街灯もあるから、山を知る二人にとっては暗くもなんともない
制服のままでは色々と面倒なことになってしまうと思い、スオウは着替えていた

ミオ

もうそろそろだ

スオウ

近くだそうよ

ヒガタ

そっか
さて、鬼が出るか蛇が出るか……
鬼の方がある意味楽でいいんだけどな

ミオ

ここだ

ミオが脚を止めたのは、マンションの前
十階くらいの高さの、セキュリティもしっかりとしてある建物だった

ミオ

部屋の番号もわかっている
306号

スオウ

306号ですって
まずは鳴らしてみようか。話ができればいいけど

ヒガタ

おう。オレだとより警戒される、頼む

スオウがエントランスの共同インターホンに306と打ち込み、呼び出しボタンを押す
すればコール音が始まった

ミオ

これにて一件落着になれば

ヒガタ

すんなり終わってくれよ……

スオウ

ヒガタ、入れてくれるって

ヒガタ

まずは第一関門突破だな
ミオ、どうする?

ミオ

ニャー

ミオはジャンプし、ヒガタの肩に乗った

ヒガタ

物好きだなあ

二人と一匹は、オートロックが解除されて開いた自動ドアから入っていく
そうして何事もなく306号の扉の前にたどりついたのだった

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