ある程度でアニメ視聴を止めて、ヒガタは散歩のついでに満濃学園へと向かっていた
着く頃には下校時間になるように

ヒガタ

おー、初めて見たけどでっけーなー

そうして満濃学園の正門前に到着する
成績も家柄も必要とされる学校は、それを示すかのような敷地の広さと大きな校舎を持っていた
そして下校している生徒たちも、ヒガタとは住む世界が違うようだった

ヒガタ

二日酔いもかなりマシになってきたし、びびってどうする。訊いてみるぞ

ヒガタ

あ、あのーすいませーん

!?

声を掛けみるも、早足で逃げていってしまう

ヒガタ

ちょっと話を……

!?

何度か続けてみても、すべて声を掛けるなり逃げられてしまう
あんまりにも拒絶されるので、ヒガタは重いため息を吐く

ヒガタ

スオウを気にして、ちょっとやる気を出したのが失敗だった……
はあ、やっぱりこういうのには向いてねえよオレ

背後に気配を感じ、ヒガタはついに話が聞けそうだと、嬉しそうにそちらへと振り向いた

ヒガタ

ちょっと話を聞きたいんだけ……ど……

スオウ

構わないけど

そこに立っていたのはスオウだった
そして彼女の隣には友達がいて、初めて見るヒガタに頭を下げていた
ヒガタもそんな彼女に少しぎこちなく頭を下げる

スオウ

珍しい。ちゃんとやってるね

ヒガタ

ま、まあな

スオウ

でも上手くいってなかったわね

ヒガタ

み、見てたな……

スオウ

うん。そこの角から覗いてた
いやー逃げられちゃってたね

ヒガタ

それなら早く来てくれよ!

スオウ

面白いものは、ちょっとでも楽しみたいじゃない?

ヒガタ

そういうとこ、先生によく似てるよ
崖から落ちたのに、ずっと上からにやにや上ってくるのを待ってたりしたからな

が、崖……?

スオウ

な、なんでもないなんでもない
例えだよ例え。そういう例え、はは……もう

ヒガタの不用意な言葉に、スオウは彼を睨む
その鋭さに彼は当てられてしまって咄嗟に話を合わせる

ヒガタ

そ、そう。例え話で、そういう感じのことがあったんだ

スオウ

まったく……
あ、そうそう紹介するわ。友達の「岡崎(おかざき)こみみ」ちゃん
クラスも一緒なの

こみみ

はじめまして、岡崎こみみって言います
えっと、お兄さんが守江ヒガタさん?

ヒガタ

あ、ああそうだ
いつもスオウが世話になってます

こみみ

こちらこそいつもお世話になってます
あ、あたしのことは「こみみ」って呼んでもらっていいですからっ

ヒガタ

あ、うん……こみみちゃん、って感じでいい?

こみみ

よいですよいです~

こみみ

今日はスオウちゃんのお手伝いをするために来ました
人を探してるんですよね?

ヒガタ

ま、まあね……

スオウを近くに呼び、小声でどういうことか尋ねる
こみみはにこにこし、これからのことを楽しみにしているようだった

ヒガタ

おい、なんでこんなことに

スオウ

私が気にしてたのに気づいちゃって、それで押されて
まあ、変なことはしないでしょう

ヒガタ

う、うーん
ここまでだからな?

スオウ

当り前よ

スオウ

じゃ、こみみちゃん
一緒に聞き込みに行こっか

二人並んで聞き込みを始めた
その様子をヒガタは少し離れた所から眺める
やはり女の子であるからか(それも可愛い)、彼の場合とは違って、あっさりと話を聞けていた

スオウ

すいません

あ、はい

こみみ

あの、この人知りませんか?

携帯端末に送られていたこうのの写真を見せる
するとそれを見た彼女は、こくりと頷く

新田さん、ですね

こみみ

おおっ、知ってるんですねっ?

ええ、クラスメートだから

スオウ

実は私、こうのお姉ちゃんのいとこで……
それでその、すごく久しぶりに会うので、驚かせようと思ってプレゼントを考えているんです

こみみ

…………

スオウ

だからその参考に、学校でのお姉ちゃんを知りたくって……
何か知りませんか?
昔はよく遊んでくれたんです

新田さんのご両親に尋ねた方がいいんじゃないかな?

スオウ

実は……その、私の両親とあんまり、仲が良くなくって、それで……
昔は良かったんです。でも……
だから知られちゃいけないんです

そう。でもごめんなさい
私はあまり新田さんと話したことはないの

スオウ

ウワサでもいいんです。ちょっとしたことでも、お願いします……

あなたの知っている新田さんとは違っているかもしれないよ

スオウ

いつも一人なの、新田さん
ああ、でもその……いじめられているとかそういうのではなくて、距離があるの。いつも

スオウ

その、お姉ちゃんに恋人とかいう話は聞いたことありませんか?

ううん、わからない
でも新田さん、すごくきれいだから男子からの人気がすごくあるよ
だから私たちが知らないだけで、いてもおかしくないね

スオウ

へえー、さすがお姉ちゃん

それより、こんなことを言いたくないけれど……会えないかもしれないよ
ここ最近新田さん学校を休んでいるから

スオウ

ええっ、お姉ちゃんお休みしてるんですか?
それじゃあ、家に行かないと……

ごめんね。それに私はこれ以上力になれないわ

スオウ

いいえ、時間を取らせてしまってすみませんでした

スオウが深くお辞儀をすると、彼女は申し訳なさそうな顔をし、帰っていった

こみみ

ほえー、スオウちゃんすごいねー

スオウ

ありがと。でも、ちょっと無理があったね

こみみ

いーじゃんいーじゃん
話は聞けたんだからっ

こみみ

こうのさん、いつも一人みたいだね

スオウ

うん。あの様子だと、仲の良い人もいないみたいだね

スオウ

正直、面倒なタイプだよ
情報が手に入りにくくて、はあ……手間かかるわこれ

こみみ

スオウちゃん、顔、顔

スオウ

お、おっとっと

こみみ

やっぱり何かに巻き込まれちゃったのかな……

スオウ

いや、多分大丈夫だよ

こみみ

どうして?

スオウ

依頼主さんの情報によると、よく家出してたみたい
で、数日したら帰ってくるんだって
依頼主さんは心配性で、だから家出される度に私たちみたいな仕事をする人に依頼しているの

スオウ

だから大丈夫。数日すれば帰ってきて、一件落着

こみみ

ほ、ホント?

スオウ

ネコ探しもそうだけど、人探しだって私は定評あるの
大事になったことはないんだから
そして今回もいつもと同じ感覚がある、間違いないよ

スオウ

だからもう今日はここまでで帰ろっ
せっかく一緒なんだから

そうして彼女はこみみをその場で待たせ、少し離れていたヒガタへ報告しに行った
スオウの言葉にこみみは少し安心したのか、表情が和らいでいた

スオウ

ヒガタ

ヒガタ

おう、どうだった?

スオウ

これは面倒な仕事を受けちゃったね

ヒガタ

ああ、そうだな。それでどんな話だった?

スオウ

学校での交友関係はなくて、それに恋人の存在も不確定
とにかく道がないわね

ヒガタ

だけどスオウにはある

スオウ

そういうこと
ここで詰まらないのが、瞬放流の使い手

ヒガタ

さすが次期継承者!
おれたちにできない事を平然とやってのけるッ
そこにシビれる!あこがれるゥ!

スオウ

……恥ずかしいから止めてくれない。てか、何よオレたちって

ヒガタ

これはそれでいいんだよ

スオウ

ま、どうせオタクなネタでしょうけど
とにかく、こみみちゃんには適当言っておいたし、もうこの件には関わらせないようにしておくから

ヒガタ

ああ、それがいい
これから何があってもおかしくねえからな
まったく、人探しの時点でこういう想像できねえもんかな

スオウ

こみみちゃん、好奇心旺盛なところがあるから……
でも常識はあるから、やっているうちに現実感が湧いちゃったんだよ

ヒガタ

ほへー。都会の娘はとにかく能動的なんだな

スオウ

いや、別に都会関係ないと思うけど……

ヒガタ

関係ないことねえぞ
都会は山に比べて安全だからな、考えずに動いたってそんな危険な目には会わねえ

ヒガタ

オレなんて何度死にかけてるか

スオウ

それは修行もあったからね
お父さんの血を引く私はともかく、瞬放流となんの縁もないヒガタが会得するには、あれくらいのことをしなくちゃいけなかったんだから

ヒガタ

感謝してるけど、運が良かったとしか言えねえよな

スオウ

話が逸れちゃったね
私は私の方法であたってみるわ

ヒガタ

オレも依頼主のところに行ってみる
あの娘の部屋に何かしら手がかりが残っているかもしんねえからな

スオウ

というか、訊きこみよりまずそっちをやった方が良かったでしょう

ヒガタ

あ、ああー
そういやそうだ。オレの特性としてはそうするべきだったな

スオウ

もう、しっかりしてよね
まだお酒残ってるんじゃない?

ヒガタ

ああ、なんかまたぶり返してきた
景色がちょっとぐわんぐわんする!

スオウ

飲んだくれの役立たずオタク

ヒガタ

そこまで言わなくてもいいじゃねえかよ……

スオウ

さっさと家に帰って休んでなさい
依頼主さんの家にも行くし、晩ご飯も私がやるから
回復してもらわないと、いざというときに困るんだから

ヒガタ

いやー、わりいなあ

スオウ

ちょっと遅くなるだろうけど、我慢してよね

ヒガタ

あーい

そうして二人は別れ、ヒガタは堰堤屋へと
そしてスオウはこみみと一緒に下校するのだった

二日酔いが戻ってきてしまったヒガタの足取りは微妙に悪く、たまにふらついた
そんな様子を見、スオウはため息を吐くしかなかったのだった

1-4 満濃学園の新田こうの

facebook twitter
pagetop