「……え、ちょっと。大丈夫ですか?」
いつの間にか意識が混濁していたらしい。誰かに声を掛けられて、シオンははっと正気を取り戻した。
「具合悪いんですか?エシュリス症だったりする?」
シオンに声を掛けた何者かは、焦ったようにあれこれと声を掛けながら小走りに寄って来ると、シオンの目の前にしゃがみ込んだ。
赤い髪の少年。年の頃は自分と同じぐらいだろうかと判断する。
少年はシオンの瞳を覗き込んで、そして息を呑んだ。
「……マナ光?まさか、高濃度マナ症!?」
音にならないよう、シオンは軽く舌打ちした。
瞳は人体の中でもマナの集まりやすく、出入りが容易い所。この路地のようにマナが崩壊現象を起こすほど低濃度な場所では、体内のマナが空気中の引き合う。その症状として、瞳からマナ光が零れ落ちるのだ。
同じくこの路地に立つにも関わらず平気な顔をしている目の前の少年から考えるに、この世界の人間は体内マナの濃度がそれほど高くない。
故に、シオンが高濃度のマナをその身に有している事を知られるのは、都合が悪かったのに。
「……は、なして」
息も絶え絶えにシオンは喘いだ。まともに魔法も使えない今、身を守る術を持たないまま誰かに身を委ねたくなかった。
呆然とシオンを見ていた少年は、ごくりと喉を鳴らして唾を呑む。惑うように揺れ動いていた瞳に、強い意志が灯った。
「今離したら、また倒れちゃうだろ」
少年の腕が、シオンの体を持ち上げる。
一体どこへ連れて行かれるのか。抗う力さえ絞り出す事も出来ず、シオンは体外へ出ようとするマナの痛みに耐えた。