白い雲海の広がる方角の反対側では、すぐ眼下に迫る高く聳える人工物がいくつも煙を立ち上らせていた。腹に響く低音はどうやらそちらから聞こえてくるようだった。何故今までこんな景色を背にしていて気が付かなかったのかと思うほど、背後の澄み切った青空との差が激しい。
シオンはゆっくりとその人工物……どうやら、街であるらしいその上空へと移動した。
煉瓦敷きの道と家が立ち並んでいる。全体的に赤い街並みの中に、所々黒い石造りの巨大な建物が聳えていた。何よりもまず目を引いたのは、建造物に取り囲まれるようにして回る巨大な歯車の数々。
土の匂いも水の匂いもそこには無く、金属と火の香りが強くする。
丘の上よりも更にマナが薄く、シオンは頭の片隅が鈍く痛むのを感じた。酸欠ならぬマナ欠である。すぐに慣れる、と捨て置いた。
赤い煉瓦の道の上ではシオンのよく知った形の人間達が忙しなく行き交っている。
彼らの肌はシオンのそれよりも白っぽく、毛髪は赤や金、明るい茶色等が多いようが、時折青だったり緑だったりと目立つ色も見えた。それ以外は特に変わったところは無い。例えば耳の尖った人間なんかは居ないらしい。
幻想的な世界であれば、耳の長い人類や、獣と混じったような人類が存在しても良いのではないかとも思うが、今の所シオンはそういう人類に出会った事は無い。形に拘らなければ、前回の世界には概念からして異なる者ならば居たのだが。
ともあれシオンは、その街に降りてみる事に決めた。人目を避けて薄暗い路地に降り立つと、少し考えてから悪目立ちのしそうなローブに認識阻害の魔法を掛けてみる。道の端に溜まった砂を掴み、それにマナを込めてからローブに振りかける。