辺りが暗くなった頃、僕は家に帰って来た。

 引きずり持ち帰った自転車(だった物)を玄関の脇に立てかけたところで、勢いよく扉が開く。

 ケン遅いです!
 お姉ちゃんはお腹がすきました!
 縫姫ちゃんは皆が揃わないとご飯を食べさせてくれない――

 と、姉ちゃんの視線は僕→脇にある鉄塊→僕と、ゆっくり遷移する。

 …………

 …………

ケンスケ

 やぁ姉ちゃん! いつも素敵な笑顔だね!

 
 三回死ねー!
 


 無茶な要求とともに、姉ちゃんは僕の腹へ重たい拳を突き出す!
 

ケンスケ

 おうふ!

 腹の内容物が圧迫され、内臓が変形するのを実感。

 腹に食い込んだ姉ちゃんの拳はすぐに引き抜かれる。

 が、それと同時に、今度は左手を使って同じ場所に拳を打ち込まれる。

ケンスケ

 ぬふぁ!

 二回目の内臓シェイク!

 そしてそれも束の間、引いていた右掌を僕の胸めがけ――三回目の衝撃が打ち放たれる!

ケンスケ


 がはああああああああああ!
 


 これぞ! 三回の攻撃で散らして壊す必殺技!
 
 姉ちゃん怒りの『散壊攻撃(さんかいこうげき)』!
 

ケンスケ

 ……まぁ、僕が勝手に名付けたんだけど。
 そんなことを思いながら、僕の意識は遠くなっていった……

 いや、起きなさい

 電撃が走ったような衝撃が右頬に響き、僕のトビかけた意識は覚醒した。

 どうやら姉ちゃんに引っ叩かれたらしい。

 ケンが寝ちゃったらまたご飯が先延ばしになってしまいます!

 言って、姉ちゃんはまるで荷物のように僕を引きずって家に入る。

縫姫

 やっと帰って来たんか。早く夕飯食べるぞ!

 リビングに入ると、縫姫ちゃんが席について待っていた。

 テーブルの上にはご飯、味噌汁、サラダ、そして山盛りのエビフライとから揚げが並べられている。

ケンスケ

 めっちゃ美味しそう……
 僕はエビフライとから揚げが大好物なのだ

縫姫

 手を合わせましょう

 頂きます

 僕は早速エビフライを口に運ぶ。

ケンスケ

 これは……これはあああ!

ケンスケ

 これ、めっちゃ美味いやんこれぇ!

 
 今朝の朝食といい、なんというか、すごく僕好みの味である。

ケンスケ

 ……って、呑気にエビフライ食べる前に、確認するべきことが山ほどあるはずだ

 と、僕はいったん箸を置き、ずばり聞く。

ケンスケ

 縫姫ちゃん、きみは一体何者なんだい?

縫姫

 え? 妹やけど?

 さらりと答えて、縫姫ちゃんはから揚げを咀嚼する。

ケンスケ

 あぁ、これ、話が成立しないやつだな

 ちらりと姉ちゃんを見ると、姉ちゃんは黙々と物凄いスピードでエビフライを尻尾ごと食べていた。

 姉ちゃんはご飯を食べると、途端に無口になるのである。

 ……うぅむ、姉ちゃんは縫姫ちゃんの正体について興味が無いのだろうか。

ケンスケ

 ……えぇと、じゃあ、縫姫ちゃんは、僕が水晶を蹴っ飛ばしたら出てきたよね。
 あれは、どういうこと?

縫姫

 う~ん……

 もぐもぐと、から揚げを噛みしめてから、縫姫ちゃんは口を開ける。

縫姫

 それがさー、何も覚えてないんやよねー

ケンスケ

 き、記憶喪失だ~!

 あるある。

縫姫

 まぁでも、私は人間じゃあないやろどう考えても

ケンスケ

 ……まあ、人間は水晶から出てこないからね

 ならば何だというのだろう。

 精霊? 神様?

 幸せになる水晶から出てきた彼女……。

 いやいや、あれは親父が騙されて買ったパチモンだろ……?

 否、縫姫ちゃんという存在がある以上、あれはただの偽物水晶などではないのだ。
 

ケンスケ

 ……しかし、縫姫ちゃんの正体が人間じゃないならば、いよいよ彼女と『白い女』の紐付きが強くなってきた気がする

ケンスケ

 縫姫ちゃんさ、今日の夕方ごろ、どこか出かけてた?

 ズバリ聞いてみる。
 玻璃さんと見た白い彼女は、玻璃ちゃんなのか?

縫姫

 んー?
 今日はずっと家におったけど?

 ちらり、と姉ちゃんに視線を向けると、から揚げを詰め込みすぎてリスのような顔になっていた。

 ……縫姫ちゃんの発言に何も反応しないところを見ると、彼女の言っていることは本当なのだろう。

 ならば、あの『白い女』と縫姫ちゃんは別人……か。

ケンスケ

 ……うぅむ、これが関連付けされれば、色々スッキリしそうな感じだったんだけどなぁ……

 水晶。

 幸せになる水晶。

 親父が怪しい業者から購入した、何百万もする水晶。

 そこから出てきた謎の妹、縫姫ちゃん。

 白い女。

 …………。

ケンスケ

 ……白い女の噂が出たのが、五年前くらいとか美香が言っていたな。±一年くらいを見て、四~六年前としよう

ケンスケ

 僕が小四にあがるくらいのときに水晶が来たから……水晶が来たのは今からちょうど六年前だ

ケンスケ

 噂が広まるタイムラグとかを考えると……そこに因果関係が導き出されないだろうか


 僕も姉ちゃんのように超絶楽観主義だったならば、こんなに思考を巡らせなくても済むのだが……。

ケンスケ

 まぁしかし、とりあえずは腹を満たそう。


 と、テーブルに目をやると、エビフライとから揚げが姉ちゃんによって完全に駆逐されていた。
 

ケンスケ

 …………

 ふぅ、お腹いっぱいです


 僕は塩味のするサラダご飯を黙々と食べるのだった。

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