中学一年の憂鬱な思い出。

ケンスケ

 まぁ、僕の顔が気持ち悪いのは自分で分かってるし、美香には昔から言われてることだから、僕は気にしなかったんだ

美香

 ケン君の顔って大根おろし作れそうだよね

 とか

美香

 びっくりしたー、サツマイモのハンコが喋ったのかと思った

 とか

美香

 あれ? 顔の新陳代謝バグってない?

 とか、なんかそういう奇想天外な悪口を今までに何度も吐かれている。

ケンスケ

 だけどまぁ、言ってみれば僕と美香はそういう関係だからね。
 やっぱり僕は気にしないし、周りもそういう認識だったわけ

ケンスケ

 でも、僕に気持ち悪いって言った奴は、僕とはほとんど話したこともないような奴だったんだ

ケンスケ

 さっきも言ったけど、それでも僕は気にしなかったんだよ

玻璃

 …………

 ひょっとしたら美香のおかげで妙な耐性がついていたのかもしれない。

 だから、そこまでは良かった。

 そこで止まっていれば、それだけで終わっていたのだろう。

ケンスケ

 でも、それで終わらなかった。
 むしろそれが始まりだったんだな

「おまえ、それはおかしいだろ」

ケンスケ

 そう怒ったクラスメイトがいた。

玻璃

 ……だれ?

ケンスケ

 全然関係ない人

 いやまぁ、全然、というのは言い過ぎか。

  中学一年の当時、クラスは大きく二つに分かれていた。

 僕や美香が通っていた小学校のグループと、別の小学校グループである。

 

ケンスケ

 僕を気持ち悪いって言ったやつは、別の小学校グループの奴だったんだよ。
 で、それはおかしいって怒ったのが、僕の小学校グループだった

 僕の小学校グループは、全力で相手の小学校グループを叩いた。

 そして彼らも反発した。

ケンスケ

 僕の小さな問題だったのに、どうしてかクラスを巻き込む大きな問題になっちゃったんだよ

 ただし、二つのグループは大きな力の差があった。

 圧倒的に、僕を擁護する派閥の方が数を多く占めていた。

 だから、だんだんと相手のグループは数を減らし、僕のグループへと吸収されていった。

ケンスケ

 最後に残ったのは、僕に気持ち悪いって言った奴だった。
 それを、僕のクラスメイト達は、全力で、これでもかってくらいそいつを叩きまくった

 まぁ、いじめである。

 起点である僕を差し置いて、何かに憑りつかれたように、クラスメイトは彼を攻撃した。

 そしてその攻撃は、彼が自殺するまで続いた。

 そういう話。

玻璃

 ……とめられなかったんだ

ケンスケ

 ……僕にはどうしようも出来なかった。
 ありがた迷惑というか、余計なお世話だったけど、それでもクラスメイトは僕を守るためにやってたんだからね……

 いや、それはたぶん、いじめの理由に使われていただけなのだろう。
 
 言い訳に都合の良い存在だっただけなのだろう。

 しかしそれでも、僕は……何も、言えなかった。

 単純に怖かったのだ。

 僕の目の前で起きている数の暴力が、一斉に僕へ向いたときのことを考えたら、なにも出来なくなったのだ。

玻璃

 美香ちゃんは……どうしてたの?

ケンスケ

 美香も僕と同じで傍観者だったよ。
 いや、美香も傍観者にならざるを得なかった

 なぜなら、もともと、最初に、根本的に僕に対して悪口を言っていたのは、美香だからである。

 だから美香だって、何も言えなかったのだ。

 いつも元気な美香が、その頃はいつも沈んでいた。

ケンスケ

 いつも楽しそうな美香が、そのときは沈み切っていたんだ

 それはたぶん、責任を感じていたからなのだろう。

 自分がその発端になってしまったのだと、重い気持ちを背負い込んでいたのだろう。

 僕にはそれが、たまらなく辛かった。

 むしろ僕が、責任を感じていたくらいである。

 だから、

ケンスケ

 だから、玻璃さん。
 無いとは思うけれど、もしも高校で、今のクラスで、僕や美香が中学で経験したようなことが、また繰り返されそうだったなら、その時は玻璃さんも一緒にとめてほしいんだ

 それはただ、単純に、沈んだ美香を僕が見たくないから。

ケンスケ

 仮に起きてしまったら、その時は美香を元気づけてやって欲しいんだ

 僕の顔が気持ち悪いのはどうしようもない。

 しかし美香の笑顔は、守ってあげたいのだ。

玻璃

 ふふ

 とその時、無表情の玻璃さんが、微笑んだ。

玻璃

 香田君と美香ちゃん、本当に仲が良い。
 美香ちゃんからも、香田君と仲良くしてあげて、みたいに言われたし……

ケンスケ

 そんなこと言ってたのかあいつ……恥ずかしいなぁ

玻璃

 香田君だって、すごい恥ずかしいこと言ったよ……

 ……言われてみるとそうなのかもしれない。

 と、その時である。

玻璃

 …………

 玻璃さんの目線がある方を向いて固まっていた。

 その先は、公園だ。

ケンスケ

 玻璃さん、どうかした?

玻璃

 ……あそこ

 言って、玻璃さんは指をさす。

玻璃

 公園の中。手を振ってる人がいる。
 私たちを呼んでる?

 公園の、奥。

  入口を抜け、茂みに挟まれた道を進み、開かれた平地に立ち並ぶ遊具の、その先。

 そこに、白い女が立っていた。

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