帰り道。
　僕と美香、そして玻璃さんは自転車を走らせる。

　すると突然、何の前触れもなく美香が叫び声をあげて自転車を止めた。

　僕は驚きブレーキをかけた。
　それに続くように玻璃さんも止まる。

　玻璃さんが聞くと、美香は右手前方に見える大きな建物を指差す。

　あれはこの付近で最も大きな規模の書店である。

　言葉が出なかった。

　ありがとね、と言って美香は書店に向かって行った。

　そして取り残される僕と玻璃さん。
　

　僕は基本的に人見知りなのだ。

　何か話題性のあるものは無いかと辺りを見回す。

　左側には多くの建築資材が立てかけられている。
　
　僕には建築の知識が無いのでスルー。

　右側に目をやると公園があるのに気がついた。

　とりあえず公園のベンチにでも座ろうか。

　自転車に跨りっぱなしは辛い。

　僕が提案する前に、玻璃さんはそんな言葉で沈黙を破った。

　唐突すぎて変な声が出てしまった。

　いや、違う……か。

　あの時は……あの時期は、とても、とてつもなく、静かだった。

　否、沈んでいた、と言うべきか。

　言葉に詰まった僕を、玻璃さんは小動物のように首を傾げて不思議そうに見つめる。

　その透き通るような瞳は、まるで全てを見透かすかのようだった。

　ふわり、と吹いた風に、玻璃さんの白い髪がなびく。

　春は、風が強いから……。

　繰り返したくないなぁ。

　と、僕はそう思った。

　中学一年のあの事件を、高校では起こしたくない。

　……それはそうか。
　
　ならば、話そう。

　迷いの感じられない良い返事だった。

　……いや、迷った挙句に

　とかステキ笑顔で言われるよりマシだろう。

　無表情の玻璃さんでも、少しだけ眉が動いた気がした。

　少しだけ気分が悪くなるかもしれないが、しかしそれでも、僕は、話す。