無事に仕事を終え、スオウは家へと帰ってきた
二階建ての一軒家
建ててなかなかの年数が経っていて、見た目はあまりきれいなものではない
けれどしっかりと手入れをしてあるから大丈夫であると先生は言っていた
その通りに中はどこも痛んでいる様子はなく、住みやすくて快適だった
仕事場と兼用であるから、呼び出されない限りはここで仕事を請け負っている
無事に仕事を終え、スオウは家へと帰ってきた
二階建ての一軒家
建ててなかなかの年数が経っていて、見た目はあまりきれいなものではない
けれどしっかりと手入れをしてあるから大丈夫であると先生は言っていた
その通りに中はどこも痛んでいる様子はなく、住みやすくて快適だった
仕事場と兼用であるから、呼び出されない限りはここで仕事を請け負っている
ただいまー
引き戸の玄関から靴を脱ぎ、とんとんと廊下を歩いていく
一仕事のあとだから、彼女はとても爽やかで上機嫌そうな様子だ
しかし……
おかえんなさーい
だらしない格好でぐうたらに畳で寝ているヒガタの姿がそこにあった
……寝てた?
……寝てない
ヒガタはびしっと起き上がって正座し、彼女へと向いた
私が学校に行って仕事してきてるっていうのに……あんたは……っ
いや、オレは学校ないし、そんでもって依頼もなかったし……
それなら営業かけなさいよ!
そうはいかん
そんな時間はねえからな
作品がオレを待っているからだ
ヒガタの後ろにはノートPCとそこから伸びるHDMIケーブルが刺さった42型の液晶テレビがあった
テレビ自体に録画機能があり、それを外付けのHDDに記録できるものでもある。すごく便利で、ヒガタはとても気に入っている
あんたまさか一日中アニメ観てたんじゃないんでしょうね……?
バン●イチャ●ネルで観てたけど、それがどうかしたか?
パッキンッ!
!?
ゴムパッキンッッッ!!
いつ聞いても意味わからん
どちらにせよ罵ってるんだからよ、素直に「ファッ●ン」言えばいいじゃねえか
だめ。それは汚すぎるわ
だからパッキンなのよ。ゴムはもちろん、より強いことを表すの
ああ、くさるほど聞いた……
センスないって言ったら、すんごく怒るんだろうな……てか、他の子に使ってないだろうなこれ
あの最初の頃のやる気はどこに行ったのよ……
すっかり都会の渦に巻き込まれちゃって
それに、主はどうしたのよ?
主?
そんなのいるわけねえよ。ググればすぐにわかるだろ
あそこには可愛いマスコットしかいねえよ
ぐっ、こいつ……
まあ、聞いてくれ
?
確かにアニメな一日だったが……
いつものようにやることはやってある
風呂にするか?
ご飯にするか?
……ご飯で
あーいわかった
今日はかぼちゃの煮っ転がしと焼きサンマだ
スーパーでいいのが売っててなー
やっぱ都会の流通力ってすんごいわ
一応聞いておくけど、洗濯もした?
ああ、そりゃするだろうよ
わ、私の……その……
下着だろ?
大丈夫、しっかりと調べて他のと一緒に洗ってない
痛んだりして使えなくなるのは、可哀想だしな
そういうことじゃないんだけど!
ちょ、ちょっと待て
オレはメーカーの指示通り、完璧にやったぞ!
そして我ながら素晴らしい仕事をしたと思う
もう何度言ったかわからないけど……
私のは洗わなくていいから
おいおい、それじゃあ夜にしか干せなくなるだろう
いいから、それでいいからってもう一年の間で何回言わせるのよ
絶対、もう次から絶対洗っちゃダメだからね!
お、おう
何怒ってんのかまったくわかんねえな……
でもいつもついつい洗っちまうんだよなあ、きっちり全部洗濯したいし
ホントにわかってるんでしょうねえ?
よし、こうなれば
スオウは部屋に置いてあった適当な紙を机に置き、さらにペンをヒガタに握らせた
一筆書いて
な、なにもそこまでやる必要ないだろ!?
いいや、ヒガタはもう信用できない
だからささっと書いて
さもないと、お父さんに言いつけるよ
それは勘弁してくれ……書けばいいんだな、書けば
えっと、「スオウの下着を勝手に洗いません。守江ヒガタ」
こんな感じでいいだろ
ハンコ。拇印でいいから
そこまでやんのかよ……
はいはい、そこに朱肉あるから
ヒガタに言われた通り、いつも仕事で使う朱肉をスオウは持ってきて、押す様子を眺める格好になった
あんまりにもじいっと見られてしまうので、妙に緊張しながらも彼は拇印を署名の横にぐいっと押した
きれいな赤い、親指の跡が出来上がった
んじゃご飯の用意すっか
よっこいしょっと
手伝う
スオウは帰ってきて色々あるだろ
ほら、いつまで制服なんだ
さっさと着替えた着替えた
……うん、ありがと
ヒガタが食卓の準備を終えたのと同時に、スオウは二階の自分の部屋から下りてきた
二人揃い、こうして晩ご飯を食べながら団らんする
山にいた頃から変わらないことだ。ただ先生がいないだけで
今日の仕事はネコ探しだったか
うん
スオウはネコと喋れるからなー
で、見つかったのか?
もちろん。すぐだった……
すぐ見つけはしたんだけど……
けど?
その……帰りたくないって
ああ、そりゃそうだろ
だって家に帰ってないってことは、家出だっておかしくないわけだもんな
で、なんで帰りたくなかったんだ?
その……探してたネコさん、ピクシーさんって言うんだけど……
女の子で、それで……
あー男作ってたんだな
……
それでどうしたんだ?
どうしても離れたくないって言われたから、依頼主さんに相談したの
でも、相手のネコさんは生まれた頃からの野良さんで……
お上品な女の子が、ワイルドな俺様系に心惹かれちゃった
という、マンガとかでよくあるシチュだな
なんでもマンガとかアニメで例えちゃって……オタク丸出しね
いや、オレはまだまだその域じゃない……
それはともかく
依頼主さんはやっぱり一緒に飼いたくないって言って……
でもそれじゃ仕事終わらないから……
「自由に会いに来てもいいから、家には帰ること」って、そういう話をピクシーさんにしたの
妥当なところだな
ピクシーさんは一応納得してくれたけど、でも……やっぱりずっと一緒にいたかったよね……
今の二匹はそうだろうな
じゃあ私、悪いこと……しちゃったんだね
そんなことはねえよ
オレが言ったのは、あくまで今の二匹のことだ
?
いつどこでもそばにいるよりも、ほどほどの距離があった方が結果的にずっと一緒にいれるかもしれない
だからその、なんだ……スオウは悪いことなんてしてない
二匹の幸せはすぐじゃなく、ずっと後に決まるんだと、思う
ヒガタもそんなこと考えたりするんだ……意外
まあ、聞いてくれてありがと
あと下手なフォローもどうも
なんかこっ恥ずかしい話でかゆくなっちまった
酒飲んでもいいか?
しょうがないなあ
いいけど、ほどほどにね
ダイジョブ、ダイジョブ
野球にドラマ、さらに深夜アニメまで観なくちゃならねえからな
べろべろに酔うまで飲まないって
だといいけど
焼酎のボトルを取り出し、冷蔵庫で冷やしたグラスに氷を入れ、そこに上機嫌で注いでいく
二十歳になった途端、ヒガタは待ってましたとばかりに飲むようになった
なったのは良いけれど……
ぐぉぉぉぉぉ……っ
どうしようもなく下戸だった
酒は好きでもひどく弱く、それでも度数の高いものを好むからこうしてすぐに酔いつぶれて寝てしまう
はあ、いつものことよね
だからこうしていつもスオウが世話をしなければならなくなる
ほら、こんなとこで寝ると風邪引くよ
さっさと起きて自分の部屋行きなさい
ぐぉぉぉ……っ
まったく仕方ないわね
筋肉質で体重の重い彼を、スオウは少し気合を入れるだけで抱えてみせた
相手は男性だけれど、いわゆるお姫様抱っこにしたまま彼女は二階に上って彼の部屋へと連れていく
部屋に入ると、ひとまず彼を畳の上に下ろし、畳んであった布団を広げて敷いた
そしてそこで寝るよう誘導すれば、彼は自分でころころ転がって布団の中へと入った
掛け布団を上から掛けてやれば、スオウの仕事はこれにて終わり
これでよし、と
お風呂は明日入るでしょ
おやすみなさい
スオウは部屋から出、居間へと戻っていった
深い眠りに落ちた彼のいびきは、そこからでも少し聞こえた