二人が山を降りて一年後

チャイムが鳴り、今日一日の授業がすべて終わった
スオウは手で隠しながらふわっとあくびをし、カバンの中へ教科書やノートをしまっていた

彼女は山を降り、編入試験にもすでに合格していたこの高校へと通い始めた
それまでは山の学校(生徒数がかなり少なく、小学生も中学生も高校生も混じって授業を受けていた)だったので、こうも同年代がたくさんいるのは初めてのことだった

現在彼女は十七歳
高校二年生の秋を迎えていた

スオウちゃん。一緒に帰らない?

スオウ

ごめん。今日はちょっと用事があるの……

あ、お仕事?

スオウ

うん。そうなんだ
ネコを探さなくちゃいけないの

ほほー、迷いネコ探しですかー
さすが何でも屋さん
あれ? 前もしてなかったっけ?

スオウ

うん。これで今月四件目

すごいねー。ネコ探しの専門家さんになってるんだ

スオウ

まあね

スオウ

でも、それのおかげでネコ探しの依頼しか入ってこないの……

依頼があるだけいいじゃーん

スオウ

それは……そうなんだけど……こうも続くと……

じゃあ一緒に帰るついでに探す手伝いするよ!

スオウ

!?

スオウ

い、いやー。大丈夫だよ
それに、大分歩き回ることになるだろうし……

スオウ

お給料だって出せないから!

スオウ

だから、気持ちだけ受け取っておくから……はは……
あ、明日一緒に帰ろっ

そこまで言うなら……
わかった。じゃあ明日またねっ!

スオウ

うん。またねー

スオウ

さて、と。お仕事始めますか
じゃあ、まずは適当なネコさんに……

スオウは依頼主の住む住宅地へとやって来ていて、そこで迷いネコ探しを始めていた
そうして一匹のネコを見つけ、そのそばへと警戒されないように近づく

スオウ

あ、すいません。そこのネコさん

ネコ

スオウ

そうです。あなたです
訛ってますか?
聞き取りづらいですか?

ネコ

いや、驚いただけだ

スオウ

よかった。すいません、ちょっとお伺いしたいことがあるのですが……

ネコ

ふむふむ。何かな?

スオウは制服のポケットから一枚の写真を取出し、ネコに見せた
そこには今回探しているネコの姿が写っていた
毛並の整っている、気品あふれる姿をしていて、飼い主のステータスを示しているかのようだった
実際、依頼料も普段と比べて良いので、スオウは話を聞いた時、心の中で指を鳴らしていた

スオウ

このネコさんを探しているんです
名前はピクシーさん

ネコ

ん、ああ
この仔なら見たことあるね
中央公園だ。散歩の途中で見かけたよ

スオウ

そうですか。ありがとうございますっ

ネコ

いえいえどういたしまして

ネコ

しかし君、私たちの言葉が話せるんだね
そんな人、初めてだ

スオウ

ええ、お父さんから習ったんです
ネコさんだけじゃなく、イヌさんや、イノシシさんにヘビさん、あ、タヌキさんとも話したことありますよ

ネコ

それはすごいもんだ
人もやればできるってことなんだねえ

スオウ

でもお父さんが言うに、元々の素質も大きくかかわってくるみたいですよ
だから誰でもというわけにはいかないって

ネコ

なるほど
まだまだ私の知らないことがたくさんあるのだなあ

スオウ

情報ありがとうございました
お礼は何がいいですか? 後日、ということになってしまいますけれど……

ネコ

気にしないでくれ
人と話せて楽しかった。それだけでいい

スオウ

え、それは悪いです……
缶など、好きなものをどうか

ネコ

君は学生で遊びたい盛りだろう?
そんな娘さんに、私のようなネコでお金など使わせたくはない

スオウ

でも……

ネコ

気にしない気にしない
では私も戻らなければならないのでね
見つかることを祈っているよ

ネコはどこかへと去った
スオウは申し訳ない気持ちを抱きつつ、その消えた方向へと一礼し、情報を元に中央公園へと歩み始めた
日は傾いているけれどまだ沈みそうもない
十分に間に合いそうだった

スオウ
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