― 1 ―

河内 優

起きろ! おいっ、起きろってば!

 目を覚ますと、見慣れない部屋の中だった。俺の頬を、河内がぺちぺちと叩いている。

中田 実

ん……ここは?

河内 優

俺の部屋だ。ここまで運ぶの、大変だったんだぞ

 どうやら怪我の手当てもしてくれたようだ。

中田 実

あ、ありがとう。河内……先輩

河内 優

悪いけど、苗字で呼ばれるの好きじゃないんだ。優(まさる)って呼んでくれないか?

中田 実

それじゃ、マサル先輩。いろいろありがとう

河内 優

礼なんていい。それより、聞きたいことがある。お前の持っていた地図を見せてもらった。なぜ俺の家にマークが付いている?


 正直に話すべきなのだろうか? 一瞬、迷った。俺はまだ、コイツが何者なのか知らない。

 ただ、相手のことを聞きたいのなら、まず自分のことをきちんと話すべきだと思い、俺は素直にこう続けた。

中田 実

うちの学校の女の子が二人、自殺した。でも本当は……鬼が原因なんだ

 鬼の話をした途端、河内の表情が険しくなった。

河内 優

そう言えば展望台でお前、鬼に取り憑かれそうになってたな

中田 実

ああ。俺たちはその鬼を操ってるのが、あんただと思って、それでまず会って話し合おうと……

河内 優

鬼を操るか……まず最初に言っておく。俺にそんな能力はない。俺の家系はむしろ、鬼を払う『祈祷師』なんだ

中田 実

祈祷師?

河内 優

説明する前に、まずお前がどこまで知ってるのか、話してくれ

 俺はこれまでに起こった出来事を、全て話した。机の上で初めて見た鬼のこと。……その鬼が鳥海涼子に取り憑き、彼女が自殺したこと。……図書室での戦い。自宅での戦い。そして、犬飼風香の自殺。

河内 優

――なるほどな

 俺が話をしている間、河内は感心したような表情を浮かべていた。

河内 優

何の修行もせずに、鬼の姿を見ることができて、しかも倒せるヤツがいたなんて……お前、たいしたもんだよ。さっき展望台で命を狙われてたのも、わかる気がするな

中田 実

教えてくれ! あの鬼……あれは、いったい何なんだ?

河内 優

鬼について話す前に、まず『気』についての説明をさせてくれ

中田 実

気? 空気とか、元気とかの『気』か?

河内 優

そうだ。ほかにも、気力、気合い、気分みたいに……日本語には、『気』のつく言葉が多いだろ?

 辞書を引くと『生命の原動力となる勢い』とか『心の動き』とか『目には見えないがその場を包む込むもの』みたいに、いろんな意味が出てくるが、まぁ一言で言うとオーラみたいなものだ。

 『気』の動きが活発だと『元気』になって、その逆に調和が乱れると『病気』になる。気は人間にとって最も大切なものなんだ。

中田 実

それと鬼と……どう関係があるんだ?

河内 優

まぁ聞け。人間が持っている『気』は、互いに干渉し合う性質を持っている。『気が合う』とか『気まずい』って言うのは、それぞれの『気』の関係性を言ってるのさ。

 そして、その最悪なものとして……人は『気』に、呪いを込めることができるんだ。

中田 実

呪い?

 俺は屋上で、大神早紀が言った言葉を思い出した。『人を呪わば穴二つ』……この言葉が生まれた時代、呪いは確かに存在したと……

河内 優

ああ。そして呪われた人間は、『気を病む』ことになり、最悪の場合は……『気を違えて』しまう……

中田 実

そ、そんなことが……現実に、できるのか?

河内 優

だってお前、実際に目撃したんだろ? 呪いが込められた『気(き)』……それがつまり、『鬼(き)』――鬼に変化するってことなのさ

中田 実

ちょっと待て! ……ってことは、鬼っていう生き物が実在してるわけじゃないのか?

河内 優

ああ。鬼ってのはつまり、人の心なのさ。だから目に見えないし、普通の人には感じることもできない。

 おまえは鬼を目で見たんじゃなくて、心で感じていた。だから心の動きに応じて、どんどん鬼の姿が変化していったんだ

中田 実

人の心……『気(き)』が『鬼(き)』になるのか……

河内 優

ああ。古今東西、最も恐ろしいのは人の心さ。『源氏物語』とか読んだことあるか? あの本の中には、当たり前のように生き霊が出てくる。人の心が化け物を生み出すいい例だ

 源氏物語は、古典の授業で読まされた記憶がある。確か、主人公である光源氏の愛人・六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)の生き霊が、正妻である葵の上を取り殺してしまうという話だった。

中田 実

それじゃ、どうやってそんな空気みたいなものを倒すんだ?

河内 優

既に鬼を二体も倒したヤツの言葉とは思えないが、まぁ説明を続けよう。

 『気(き)』が悪に染まると『鬼(き)』になる。それに対抗するためには、善の心を込めればいい。それが『祈(き)』だ

中田 実

全部同じ『き』なのが、ややこしいな……

河内 優

もともとは全部同じものだからな。澄んでいても、濁っていても、毒が入っていても……みんな『水』と呼ぶようにね。

 ただし、昔の人たちは、ちゃんと喋り分けてたらしいぞ。今その発音は伝わっていないがな。……それはともかく、『祈祷』って言葉があるだろ?

中田 実

え? 『亀頭』?

河内 優

だから! そっち方面の話をするなって! 祈りを捧げる方の祈祷だ。

 この祈祷によってのみ鬼を倒すことができる。つまり『祈祷』が『鬼倒』につながるんだ。

中田 実

亀頭と亀頭がつながる……

河内 優

まじめに話を聞け! 俺の家は、代々続く祈祷師だ。俺も子供の頃から鬼を倒すための修行を続けてきた。おまえの力になれると思う……いや、協力させてくれ!

 河内の話は、俺を何度も驚かせたが、その極めつけだったのが最後の一言だった。

河内 優

死んだ鳥海涼子は、俺の恋人だったんだ!

― 2 ―

中田 実

いや、ちょっと待ってくれ! 恋人だって!?

 俺の聞いた話では、お前は鳥海に振られて、そのショックで受験にも失敗したって……

河内 優

じゅ……受験に失敗したのは実力だ。……あ、いや、成績が悪かった訳じゃないぞ。志望校が高すぎたんだ。……ま、まぁそんなことはどうでもいい。

 河内は、顔を真っ赤にして激しく反論をしてきた。

河内 優

とにかく! いったい誰からそんなデタラメな話を聞いたんだ?

中田 実

と、鳥海の親友だった大神早紀って子から直接聞いた話だけど……

 その剣幕におされて、ちょっと自信がなくなってくる。

河内 優

彼女なら知っている。ただ、親友ってほど涼子と仲がいいわけじゃなかったはずだが……

中田 実

それじゃ彼女……大神が嘘をついたってことになるのか?

 俺がそう言うと、河内は定期入れから一枚の写真を出してきた。

 そこには俺が見たこと無いくらいの明るい笑顔で、仲良く並んでいる二人の姿があった。

中田 実

まぁ確かに、ストーカーとその被害者って感じじゃないな……

河内 優

ストーカー? 被害者? ……どういう意味だ?

中田 実

振られた後も、ずっとつきまとって、何度も無言電話をして……それで鳥海が悩んで大神に相談していたって聞いてるけど……

 あ! あ、そう言えばうちの妹の佳奈や、死んだ犬飼風香ちゃんにもつきまとってたって話じゃないか? あれはどう説明するんだ?

河内 優

俺は俺なりに、彼女の死因について調べてたんだ。

 河内の表情からは、恋人を失った悲しみとか寂しさ、あるいはいわれのない中傷をされた怒りなどが、ダイレクトに伝わってきた。

 ……うん。確かに、こいつは嘘をついていない。そうすると……つまり……

 このときふと、ひとつの疑問がわいた。

 待てよ! なぜ彼女は、地図を二枚も持っていたんだ?
まるで最初から道に迷って、二手に分かれることを想定してたみたいに。

 ……予言? 彼女お得意の予言なのか?でもその後俺は、タイミング良く不良グループに絡まれた。

 まさか、わざと俺をあの場所に向かわせて、あいつらに襲わせた? 俺は大神に……はめられたのか? だとしたら――

 突然、激しいショックと、焦りと、怒りが、身体の奥底からこみ上げてきた。

 ……だとしたら、佳奈が危ない!!!

 俺は慌てて立ち上がる。もう怪我の痛みなんて消えていた。

中田 実

マサル先輩! 急がないと!

河内 優

ん? どうした?

中田 実

鬼を放った張本人が……ようやくわかったんだ!!

河内 優

な、なんだって!?

中田 実

とにかく急がなくちゃ! 佳奈が危ないんだ!!


 俺は大慌てで佳奈の携帯に電話をする。

中田 実

出てくれ! 出てくれよ!

 祈るような気持ちで待ち続ける。しかし、呼び出し音が延々と続くだけだった。

中田 実

くっ! 駄目か……

 ここにいても仕方がない。しかし、どこに行けばいいんだ?

 ……とりあえず佳奈たちと別れた商店街まで戻って、それから考えることにしよう。

中田 実

マサル先輩! 商店街に行かなくちゃ!!

河内 優

ん? 商店街? 商店街のどのあたりだ?

中田 実

ほら、広東食堂の……

 言いかけた途端、河内の顔色が変わった。

河内 優

だっ! 誰がカントン包茎だって!?

中田 実

……い、いや! 違うって!

 この亀頭、もとい……この祈祷師、本当に大丈夫なのか?

 内心そう思いながら、俺たちは広東食堂へと急いだ。

― 3 ―

中田 実

はぁ、はぁ……つ、着いた!

河内 優

で? どうするつもりだ?

 スポーツか何かで身体を鍛えているのか、河内は息も乱さずに聞いてきた。

 ……くそっ! 包茎のくせに生意気だ。

河内 優

ここで別れたの、もう何時間も前だろ? 戻っても意味なかったんじゃないか?

中田 実

も、目撃者が……いるかも……

 しかし商店街はがらんとしていた。くそっ! 手詰まりか……

中田 実

また電話してみる!

 そう。さっきはたまたま着信音に気付かなかっただけなのだ。

――呼び出し音が鳴る。1回、2回……5回、10回。
きっかり20回目で相手が出た。良かった! 出てくれた!

中田 実

佳奈! 佳奈っ!!

河内 優

いや、すまんが俺だ……

 電話に出たのは、河内だった。5メートルぐらい離れた場所で、携帯を耳に当てている。

中田 実

な、何で先輩が佳奈の電話に出るんだよ!?

河内 優

落ちてたんだよ。この携帯電話

中田 実

まぁ確かに、声かぶってるし……

河内 優

だ、誰が被ってるだって!?

中田 実

いや違うって! 電話の中の声と、リアルに話す声がかぶってるから、このまま通話してても意味がないって言おうと……

河内 優

そっちかよ!

(お前が過剰反応しすぎなんだよ!)という心の言葉を飲み込んで、俺は携帯をOFFにした。

中田 実

問題はそっちじゃなくて、なぜ佳奈の携帯がここに落ちてたかってことだ

河内 優

そ、そんなの……言われなくてもわかってる! 身の危険を感じて、お前と連絡を取ろうとしたかもしれないぞ! ……履歴はどうなんだ?

 調べてみたが、俺の着信履歴以外、残っていなかった。

河内 優

相手ともみ合って落としたとか……あるいは捨てられたとか……

中田 実

いや。もうひとつ可能性があるぞ

河内 優

ん? どういう意味だ?

中田 実

佳奈は携帯を、わざとここに置いたんだ

河内 優

ちょっと待て! もし彼女が危険な目に遭っているなら……普通、携帯電話は手放さないだろ?

中田 実

まぁ……普通はね

中田佳奈

あの……それって、どういう意味ですか?

 

大神早紀

言ったでしょ? 私の隠れ家に案内してあげるの

 

中田佳奈

え? でもさっき、道に迷ったって……

 

大神早紀

あれは嘘。二人っきりになる理由が欲しかっただけよ

 

中田佳奈

ちょ! ちょっと待って下さい! な、何を!!

 

大神早紀

付いてきて! ううん。あなたに拒否はできないわ。

 だって私は、あなたの身体を自由に操れるんだもの

 

中田佳奈

た、助けて……お兄ちゃん!

 

大神早紀

うふふ。彼、今頃どうしてるかしらね? 無事だといいけど……

 

中田佳奈

お、お兄ちゃんに何を……え? えええ? きゃーーー!

中田 実

やっぱりアイツ、大神早紀が全ての黒幕だったんだ! 『隠れ家』だって! ……どうやって探せばいいんだ?

 佳奈が残してくれた唯一の手がかり。しかし、これではあまりにも漠然としすぎていて探しようがない。途方に暮れていると、河内が意外な反応をした。

河内 優

あ。隠れ家か……だいたい見当はつくぞ

中田 実

ちょ、ちょっと待て! でも隠れ家だぞ? なんで知ってるんだ?

河内 優

コンビニで電話帳借りて、住所を調べよう

中田 実

で、電話帳? 載ってるのか? 隠れ家が……


 電話帳で調べると、確かに載っていた。
……喫茶『隠れ家』が。

中田 実

ええええ!?

― 4 ―

 喫茶『隠れ家』は、大通りに面したファミレスのような店だった。

 屋根の上にはネオンサインのついた巨大な看板が掛かっている。……全然、隠れてないぞ。

 こんな店に、本当に佳奈がいるのだろうか? 不審に思っていると、悲鳴が聞こえてきた。

中田佳奈

きゃーーーーーー! やめて! やめてーーーー!!

中田 実

か、佳奈の声だ!!

河内 優

こっちだ! ものすごい『鬼(き)』を感じる!

 猛ダッシュする河内の後を追い、俺は店の裏手にある倉庫のような場所へと向かった。重い扉を開くと、そこには――

 倉庫の床には、小さな鬼が大量にうごめいていた。角砂糖に群がる蟻みたいに大量に……そして、その中心部で制服のまま後ろ手に縛られているのが……佳奈だった。

中田 実

こ、これは……

 絶句してしまった。一匹だけでもあんなに苦戦したのに、こんなに数が多いなんて……

中田佳奈

あっ! お兄ちゃん! 助けてっ! 助けてーーー!

 佳奈の叫び声で我に返る。

中田 実

待ってろ! 佳奈! 今行くぞ!


 これまで俺は、鬼を見ることしかできなかった。

 しかし今、間違いなく強大な『気』の力を感じる。…… 『気押されている』――まさにその言葉通りに圧倒されていた。

河内 優

臨(リン)兵(ビョウ)闘(トウ)者(シャ)皆(カイ)陣(ジン)裂(レツ)
在(ザイ)前(ゼン)!!!

 その時、河内の発する鋭い声が聞こえてきた。見ると、彼の手から青白い光のようなものが発せられ、それと同時に鬼たちが次々と消滅してゆく……これが、鬼倒師の力なのか!

 よし! 俺も負けてはいられない!

中田 実

来い! 鬼斬りの剣!!!

叫ぶと同時に、ずっしりとした、頼もしい手応えを感じる。……あの日編み出した、俺の必殺技だ。

中田 実

佳奈から! 離れろーーーっ!!!!

そう叫びながら、剣を一閃すると、大量の鬼が真っ二つになった。……よし! いける! 戦えるぞ!!

 それからは無我夢中で剣を振り続けた。
消えろ! 消え失せろ!! 気だか鬼だかしらないが! 佳奈に指一本触れるな!

 手首や足首、脇腹などに、時折鋭い痛みを感じる。鬼が噛みついているのだ。しかし剣だけは絶対に手放さずに、必死で剣を振る!
俺は今、鬼の形相をしているかもしれない。そんなふうにも思った。

中田 実

はぁ、はぁ……全部、倒したのか?

河内 優

ああ。さすがに疲れたな

 20分ぐらい経ったろうか? いや、まるで永遠のようにも感じられた。……しかし俺たちはようやく、すべての鬼を倒すことができた。

河内 優

中田! お前、すごいな

中田 実

……はぁ、はぁ……マ、マサル先輩こそ……すごいよ!


 あ! これって漫画とかによくある友情っぽい展開?
などと考えた直後、異変は起こった。

中田佳奈

ぐるる……殺して! 殺してよ!

 縛られたままの佳奈が、恐ろしい形相でこっちを睨んでいるのだ。

中田佳奈

殺してくれないなら! 死んでやる! だからロープほどいてよ!

 そう言いながら、ものすごい勢いでもがき始めた。そのつり上がった目やゆがんだ口元は、自殺直前の鳥海涼子の表情にそっくりだった。

河内 優

いかん! 鬼(き)に当てられたようだ!

 河内が猛ダッシュで佳奈に駆け寄る。

中田 実

ど、どうするつもりだ?

河内 優

彼女を押さえてろ! 今から邪気を払う!

中田 実

できるのか?

河内 優

調伏(ちょうぶく)の能力と言ってな。もともとこっちの方が専門だ!

 そう言うと河内は、なにやら呪文を呟きながら佳奈の身体に手をかざしている。

中田 実

あっ! 胸触った!

河内 優

非常事態だ。ゆるせ!

 最初のうちは激しく抵抗していた佳奈も、やがてその力が弱まってゆき……5分も経たないうちに寝息を立て始めた。

河内 優

うん。これで大丈夫だ

中田 実

邪気は……払えたのか?

河内 優

ああ。彼女のロープをほどいてやろう

 ……良かった。助かった。いつも通りの表情に戻った佳奈の寝顔を見ながら、俺は全身の力が抜けてゆくのを感じた。

― 5 ―

河内 優

それにしても驚いたな、さっきの力……何だ?

 しばらくして河内が俺に聞いてきた。心底感心したような口調だ。

中田 実

ああ、鬼斬りの剣のことか。なんか、思い描いたら実体化したんだ

河内 優

あれは剣じゃない。式神だ

中田 実

式神? なんだそりゃ?

河内 優

陰陽師の、まぁ使い魔みたいなもんだ。その昔、安倍晴明は十二神将と呼ばれる式神を自在に使いこなしたと言われている。

 そしてその十二神将すべてが、お前の剣に宿っていた。これはとんでもないことだぞ! ……なぁ! いったいどうやって、そんな力を身につけたんだ?

中田 実

いや……どうやってって言われても、ほらゲームとかでピンチになると、最強の剣が手に入るから……そんな感じで考えてたら、実体化したというか……

 俺がそう言うと、河内はぷっと吹き出した。

中田 実

な! 何がおかしいんだよ!

河内 優

くくくっ! まったく! たいしたゲーム脳だ。

 ……いや、馬鹿にしてるんじゃないぞ。ほめてるんだ。古文書を読みながら、代々伝わる修行法を地道に反復練習するより、一人の天才の想像力の方が、ずっと上をいっちまうもんなんだな

中田 実

……天才って、俺のことか?

河内 優

ああ。残念ながら認めざるを得ない

中田 実

よくわかんないけど、俺はそんなんじゃないよ

河内 優

ん? 謙遜か?

中田 実

いや。ただ守りたいヤツがいる。それだけのことだ


 そのとき、佳奈が寝返りをうった。

中田佳奈

う、ううん……

中田 実

佳奈! 気が付いたのか?

 俺が声をかけると、ぱっちりと目を開いた。

中田佳奈

お兄ちゃん! 来てくれるって信じてた

中田 実

ああ。怪我とかしてないか?

中田佳奈

うん。大丈夫!

 そう言うと、俺の後ろに立っている河内の存在に気付き……

中田佳奈

あら? あなた……えーっと、包茎の人?

河内 優

ほっ! ほうけっ!

中田 実

ちょっ! ず、ずいぶん直球ストレートな言い方だな

 俺がそう突っ込むと、佳奈は顔を真っ赤にした。

中田佳奈

ご、ごめんなさい。……えーっと、お名前は……かわ……

河内 優

か! 皮で区切るな!

中田佳奈

きゃっ!!

 その激しい剣幕に、圧倒される佳奈。

中田 実

河内先輩だよ! 佳奈! 一応、恩人なんだからさ。もっと敬意を払わないと……

河内 優

だ、誰が、けー! ……あ、別にいいのか……


……ほんとこの鬼倒師、心配だ。

彼岸花 第六章 『喜(き)』

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