エルフの中には、魔法を使う者がいる。































魔法は完全に生まれ持った素質。


その能力も、使える量も、全てが個体ごとに異なっていた。




"探求を続ける者"であるエルフ達は、何人もが、長い年月をかけてその解明に乗り出した。




血ではなかった。


儀式でもなかった。


まるで神の意思であるかのように、唐突に魔法を使える者が現れ、そしてその力を何に使えばよいのかはっきりとは悟れぬまま、徒に歴史の奥へ姿を埋めていった。





























いや。




使うこともないその力を神の"意思"と呼ぶものか。




力もて、仲間を救う大きな災厄はない。


空は裂けず、大地も枯れず、水も流れを絶やすことは無い。




解明できぬが故の苛立ちもあったのだろうが、一部のエルフは魔法のことをこう揶揄した。










「神のいたずら」である、と。








































あ、エルフ










夕食前の何かと慌ただしい時間。


エルフーー黒井と名乗っていたそのエルフは、たまたま見ていたテレビに向かってそう呟いた。


いや、正確にはテレビではなくチューナーを搭載したノートPCであった。


エルフは元来、それ程持ち物を多く持たないと言われている。


もっともこんな賃貸に住む黒井にその伝承で聞くような定義をあてはめていいものかは怪しいところだが……


ともかく、そのちゃぶ台の上に置いたノートPCでは有識者やコメンテーターが水をテーマに語り合っていた。


その内の有識者の一人が、エルフだった。


何が見た目違うというわけではないが、エルフ同士何となく分かる事がある。







ふーん、打ち水とかあったわねー





だが、直後にそのテレビに出ているエルフはどうでも良くなった。







黒井は窓の方へ歩いていく。


黒井の部屋は二階。


窓を開けると小さな路地が見えた。

























華奢なその白い腕を中空へと突き出す。


夕闇をまとう風を横から感じながら、黒井は目を閉じた。




頭の中にイメージを浮かべる。


イメージは具体的なものではない。


黒井自身も分からない。


ただ、いつも魔法を使う時の、あのイメージを浮かべればそれで良いのだ。


そのイメージを、


目の裏を通し、


肩のあたりで二つに分け、


腕を通し、


カっと目を見開いた。







はっ!






































ばしゃあ。





コップ一杯分くらいの水が、道路に向かってぶちまけられた。


たまたま近くを歩いていた猫が、ありえないほどのスピードで飛びのいて知らない民家へと突っ込んでいく。




黒井はその道路のシミを見て、満足そうに腕を引っ込めた。



黒井は、魔法の使えるエルフであった。

U-chi-WaTer……




なお、英語は使えなかった。





























一度部屋を通り、




























風呂場へ。




バスタブに栓をして、


白い腕を突出し、頭の中にイメージを浮かべる。


イメージは具体的なものではない。


だが、黒井自身は分かっている。


いつも風呂に水を溜める時の、あのイメージを浮かべればそれで良いのだ。


そのイメージを、


目の裏を通し、


肩のあたりで二つに分け、


腕を通し、


カっと目を見開いた。









はっ!












キュッ。








じゃーーーーー







両手で掴み、ひねった蛇口から水があふれ出る。



……

水が……こんなに……









黒井はそれだけ言って、ノートPCの前に戻って行った。














使うこともないその力を神の"意思"と呼ぶものか。




力もて、仲間を救う大きな災厄はない。


空は裂けず、大地も枯れず、水も流れを絶やすことは無い。




そんな時代にいるエルフーー黒井は、魔法のことをこう揶揄した。













「使うと疲れるからあんまりいらない」、と。













光を受けてきらめく、水は生命の母

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