第三章 ヒロの中の戦士な人達

 というわけで、俺はほとんど人の気配がない公園の中に彼らを誘導していき、そこで初めて向き直った。
 周囲を木立が覆っているので、街中とはいえ、一応、ここは人目につかないだろう。
 陰気な顔を並べてノコノコやってきた連中を見て、陽気に手を挙げる。

やあ、元気そうだね

……

……


 二人とも、愛想がなかった。

 というか、そもそも元気でもなかった。上下揃いのジャージみたいなのを着込んでいるが、どうも普通のジャージではないように見える。襟が詰め襟みたいになってて、あまり見かけない。そんな辛気くさい格好をした彼らの右手に、揃いも揃って脇坂がしていたのと同じブレスレットがあった。

 さっき出会った女の子もしてたし、これはもう、高確率で決まりだろう。

もしかして、このブレスレットの機能の一つは、仲間が近付いたら識別することかなー


 フレンドリーに訊いてみたのに、連中は一層凶悪な表情を見せただけだった。
 そのうち、背が高くて目が細い方が陰気な声で訊く。

おまえ、何者だ?

なんだ、ちゃんと話せるんじゃないか

 わざとらしくニコニコ答えた俺だが……内側から強い衝動が膨れ上がり、声にならない声が脳内でした。

俺に任せろ!
(画像は人格想像図)

でもおまえに任せたら、相手を殺すだろ?

殺すなと言うなら殺さない。それでいいだろ

……ホントかな


 脳内相談がまとまらないうちに、短気な一人がいきなり襲いかかってきた。

 こっちがブツブツ言ってるのを、恐怖で独り言でも口走ってると勘違いしたらしい。

 どこから出したのか、手にはちゃんとナイフまで持っていたり。やはり感じていた殺気は本物で、こっちを殺す気満々のようだ。

 この瞬間、俺はやむを得ず、俺の中にいる一人――通称、シンに任せた。気は進まないが、刺されてやる義理もないし。

 そして――交代した瞬間、歓喜の感情が爆発してシンが表面に躍り出た。

あっはっは! 久しぶりだな、おいっ


 哄笑と共に、俺は突き出されたナイフを難なく避け、逆にそいつの手首を素早く背中へとねじ曲げた。

 ……その時、ちょっと加減を誤って鈍い音がして骨が折れたのがわかったが、まあこりゃ不可抗力だ。

 人がせっかくそう思ったのに、腕の中のジャージはサイレンみたいな悲鳴を上げた。

ぎゃあああああっ

ああっ!? この程度でぴーぴー泣くな、やる気あんのか、てめえっ

 むっとした俺は、そのまま相手を軽々と持ち上げ、地面に叩き付ける。

 これまた鈍い音がして、ジャージは白目を剥いてしまった。多分、他もどっか折れたな。ションベンチビってるし。

あ……いろいろ白状させるの忘れた

 少しだけ顔をしかめ、俺は首を振る。
 次の瞬間、もうすかっとと忘れて笑顔になった。

ま、いいか! まだおまえがいるよなぁああ

貴様、何者だっ

 残った一人の全身がいきなり炎に包まれた。
 なんだこれ、発火現象か? 確かそんな超能力があるって、ヒロが前に言ってたな。ま、どうでもいいが。

あ、おまえ、善良な高校生であるところの俺に、そういう力を振るうわけか?

 俺は即座に警告した……声がうきうきしてて、内心がバレバレだが。

そういう態度なら、こっちの抵抗もちょーっとレベルアップするぜぇえ? 相棒みたいに、後からションベンちびるなよな!

 言下に、俺は右手を横に伸ばす。
 その手にずしりとした重みが加わるのを感じ、ニヤッと笑った。

か、刀だと!?

 得物を見た男が、狼狽して叫んだ。

んだよ、ちゃんとしゃべれるんじゃないか!? なら、最初からヒロに返事しとけよ。そしたら俺が出てくることもなかったんだよぉおおっ

 我ながら狂気のような声音で叫ぶと、俺は猛然とダッシュする。

 向こうはあたふたと炎の塊を浴びせてきたが、あいにくその程度じゃ俺の防御結界は破れない。哄笑しながら間合いに飛び込み、腰が引けた野郎の右手首を思いっきり薙いでいた。

ぐわああっ

 派手に鮮血が飛び、血管がぶち切れた腕を押さえ、男がうずくまる。既に炎が引っ込み、すっかり意気地がなくなっていた。

き、貴様ぁああっ

あぁ? 聞こえねーよ、ジャージ野郎っ

 ゲラゲラ笑いながら、俺はそいつを蹴飛ばし胸に足を乗せる。ぎゃーぎゃーうるさいので、ついでに愛用の黒い刀で腕をもう一カ所刺しておいた。

喚くんじゃねえ、雑魚。おめーはな、飛んで火に入るなんとやらだ。ウサギだと思ってた相手が、実は凶暴な狼だった感想はどうだ、ああっ!


 俺……シンは上機嫌でニイッと笑った。

 ああ、血を見ると気分いいぜ! ヒロのヤツ、もっと頻繁に交代してくれりゃいいのになっ。
 

第三章①ヒロの中の戦士な人達

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