さて今回のミッションではシルヴィアはお留守番です。

魔王ちゃん

だってお姫様ですよ。
怪我されたら誰も責任取れません。

じゃあお前はどうなんだよ?
そう思うかもしれません。
大丈夫です。
男の子は手足がもげでもしなかぎり、若い頃のヤンチャで済まされます。

魔王ちゃん

ぎゃははははは!

草原

街を出て数キロ、やはり怪獣はすぐそこまで迫っていました。
目視で体長20メートル。
重さ20トン以上。

その姿は……巨大なゴリラ。

世界観崩壊のお知らせ。

魔王ちゃん

……いつもあんなのと戦ってたんですか?

あきれ果てた私はゼスさんに言いました。

ゼス

いえ……さすがにアレは……ない……です。

ですよねー。

思った通り人為的です。
なんかムカつくので『突撃ぃッ!』と言いたいところですが、ここはグッと我慢。
ドラゴンもそうですが、相手がなにしてくるかなんてわかりませんからね。

ゼス

アレックス様、どうなされますか?

魔王ちゃん

とりあえず弓を放ってみましょう

遠くからチクチク攻撃。
相手が音をあげるまでチクチクチクチクチク。
動きを止めたら一斉攻撃。
相手になにもさせない。

魔王ちゃん

兵法の基本ですね。

私は手を上げます。
さすが鬼軍曹がトップにいる組織です。
弓兵はすでに配置完了しています。
同時に網を持った部隊も待機します。
網を足に引っかけて機動力を奪う予定です。
素晴らしい。
やはり獣の駆除は馴れてますね。
私は早くも勝ち誇った顔で手を下ろしました。

一斉射撃が始まりです。
矢が飛びゴリラに当ります。
効果がないはずはありません。
実際矢はゴリラに突き刺さっています。

次は槍です。
適当に刺したらダッシュで逃げる。
あとは相手の出血死を狙ってダラダラ逃げながら、休ませないように遠くから攻撃し続ければ終わりです。

魔王ちゃん

卑怯?
るしぇー!!!
勝ちゃいいんですよ!
勝ちゃ!!!

つうわけで、張り切っていきましょう!!!

魔王ちゃん

投網部隊と槍部隊とつげ……

私が拳を振り上げたその時でした。

ゴリイイイイイイッ!!!

適当すぎる泣き声と共にゴリラの目が光りました。
嫌な予感がします。

魔王ちゃん

伏せろおおおおおおぉッ!!!


私が叫ぶのと同時に粉塵が舞いました。
一瞬遅れて衝撃波が襲ってきました。
それはビームでした。
ゴリラが目からビームを撃ってきやがったのです。
ビームで周囲をなぎ払いやがったのです。

魔王ちゃん

んが!

衝撃波で吹き飛ばされる私たち。
おかしいやろが!!!
ゴリラがビーム撃つなんて!!!

だがそれはまだ序の口だったのです。

よろよろと立ち上がる私たち。
耳がキンキンとしていて目眩がしています。
するとゴリラがまたもや雄叫びを上げました。

ゴリイイイイイイッ!!!

その音と共にゴリラの背中が機械音を奏でながら開きました。

背中からなにかがせり上がってきます。
ういーんって。

それはミサイルでした。
羽がついててロケット推進のアレ。
いやいやいやいや!
おかしいやろが!!!
なんで現代兵器がでてくるんよ!!!

魔王ちゃん

ざっけんな!
ここはファンタジー世界だろが!!!

と、私がツッコミを入れた瞬間、ミサイルが発射されました。
轟音を立てながらミサイルは後方へ炎を吐き出しながら私たちへ向かってきます。

魔王ちゃん

メーデー!!! メーデー!!!

適当なことを叫びながら私たちは蜘蛛の子を散らしたように全力で逃げます。
アレがヤバそうなのは見た目でわかりますからねー……

魔王ちゃん

くっそ!
死んでたまるか!!!

私たちの後方でミサイルが着弾しました。
衝撃。
炎。
またもや吹き飛ばされる私たち。

魔王ちゃん

うわーん!!!
これは陰謀だ!
なにもかも勇者《リア充》の陰謀だ!!!
絶対に許さん!!!
砂をかんでも、泥をすすっても生き残って仕返ししてやる!!!

直撃を避けた私たちはゴロゴロと転がります。
普通だったら三回は死んでいることでしょう。

魔王ちゃん

ひ、被害は!!!

ゼス

ありません!!!

ゼスさんが叫びました。
ドラゴン肉すげえなおい。
でもまだ彼らは強化された肉体を持て余してます。
リスクゼロで怪獣を狩るという私の目論見は完全に崩れたのです。
しかたない!
ここは私がやるしかありません。
痛いの嫌いだけど、私の攻撃が一番勝算が大きいに違いありません。

魔王ちゃん

網貸してください!!!
私が怪獣の動きを止めます!
全員援護してください!!!

私はそう言うと、兵士から網を引ったくり突っ込んでいきます。
足に引っかけて動けなくしたついでに宝剣《ドス》を腹に突き刺してズラかるのです。
私に気づいたのかビームを乱射してくるゴリラ。
私はそれを熟練のボクサーのように華麗なステップワークでかわしていきます。

ゴキブリのように舞い、ゴキブリのように飛ぶ。
殺虫剤をかけられてからが勝負なのです!!!

魔王ちゃん

おどりゃあ!!!

私は網をふりかぶり、放りました。
私の放った網はゴリラの足に絡まっていきます。
ゴリラは完全には止まりませんでしたが機動力はそぎました。
おっしゃ!
あとは宝剣を腹に突き刺せばミッション終了です。

魔王ちゃん

おどりゃー!命《タマ》とったらー!!!

私は宝剣《ドス》を構えさらにゴリラへ肉薄していきました。
ところがその時でした。
私の視界の隅になにかが見えました。

完全に忘れてた!!!

それはゴリラの拳でした。
体重20トンが拳を打ち下ろしてきます。
人間などひとたまりもありません。
いくら強化された私でも骨は折れるだろうと思われました。
あ、こりゃ負けたかも……

ゼス

全員、密集隊形《ファランクス》!!!

声が響きました。

兵士たちが盾を持って私のサイドをガードしていました。
大きな物体が壊れる重い音が響き、兵士たちがよろめきました。
盾の破片が破砕され、その破片が飛び散っています。

ゼス

アレックス様!!!

わかってますって!!!

魔王ちゃん

だりゃあああああああッ!!!
魔王剣スクリュードライバー!!!

※今適当に考えました。

私は全身の気を宝剣に集めゴリラの腹にぶち込みました。
私の一撃はゴリラの腹を破り背中まで……

ぼきり。

ん?
なんでしょう今の音。
私は手元を見ました。
剣が……
剣が……ひん曲がってねじ切れてるうううううッ!!!
私の大出力の気に剣が耐えられなかったのです。

魔王ちゃん

やべ!
これ国宝ものだよな……
全力で隠蔽しなきゃあああああああッ!!!

慌てる私。
そして無情なアレがやって来ます。

ゴリラの背中から、にゅうっと再びなにかが出てきました。
ミサイルではありません。
なにかの装置です。
規則正しい電子音が鳴りながら、正面についた黄色いゲージが徐々に減っていきます。

……これってアレじゃね?
爆発するやつ。
っちょ!
おまッ!!!

魔王ちゃん

自爆装置だああああああああああッ!
野郎ども逃げろおおおおおおぉッ!!!

私は叫びました。

魔王ちゃん

絶対に許さねえ!
ざっけんな!
聞いてねえ!!!
これもそれもなんでも全部、勇者の陰謀じゃあああああああッ!!!

私は何度も叫んでいました。
負け犬の遠吠えを。

魔王ちゃん

勇者《リア充》ども滅ぼしてくれる!!!

泣きながら逃げる私たち。
そしてゲージが全てなくなりました。

まずは衝撃派と炎。
遅れて来るのは轟音。
私たちはまたもや吹き飛ばされました。

魔王ちゃん

おのれリア充ども!
たとえ私を倒そうとも第二第三のお一人様が……

そして私は深い闇の中へ意識を手放したのです。

領主の館

シルヴィア

で、ゴリラを倒したら出てきたのがコレか……

シルヴィアが頬杖をつきながら言いました。
シルヴィアの視線の先には、サッカーボール大の巨大なルビーが鎮座してました。
あれから私は守備兵団の皆さんに領主の館に運ばれました。
幸運にも怪我一つしてませんでした。
ええ幸運にも。
もう嫌だ。
私はため息をつきました。

魔王ちゃん

ええ。
もうなにがなんだか……

ルビー。
紅玉ですね。
ものすんごい高級品。
それがサッカーボール大です。
外周70センチ、直径22センチ。
重さは3キロくらい?
明らかに前回のエメラルドより高級品です。
要するに……こないだのドラゴンよりも上だったのです。
あのゴリラは……

シルヴィア

うむ……売るに売れんな。
このサイズでは。

魔王ちゃん

ですねえ。
この石、全然割れませんし。

試しに割ってみようと試したのですが傷一つつきません。
困りました。

魔王ちゃん

もっと安い石の方がいいんですけどねえ……

私はため息をつきました。

シルヴィア

なあに狩り続ければもっといいものが出るだろう。
安くて量がいっぱいとか……

シルヴィアは笑っていました。

魔王ちゃん

そうですかねえ?

シルヴィア

ああたぶんな。

魔王ちゃん

あ、そうそう

シルヴィア

なんだ?

魔王ちゃん

宝剣壊しました。

シルヴィア

はい?

魔王ちゃん

折れたあげくにゴリラの自爆に巻き込まれてお亡くなりに……

シルヴィア

おま!じゃあどうするのだ!!!

魔王ちゃん

手に入れましょう。

シルヴィア

なにを?

魔王ちゃん

装備をです

シルヴィア

どうやって?

私はニヤニヤと笑いながらルビーを指さしました。

pagetop