少しだよお。あんだけですんでよかったって、そんなかんじ

 はあー、とセイさんは腕を伸ばす。

君があの世界を無事、筋道通りにしてくれたから、桃太郎のお話は救われた。俺は見てたよ。

クリアした瞬間に、あの世界から桃太郎の要素を、こう、すっと、救いだした

……救いだした

そう。時間軸をちょきちょきっと

 何を言っているか全く分からない……俺が困惑していると、それを察したのか、セイさんは頭をかいた。

分かりにくいか、ごめんね。

なんだろな、物語の世界が壊れちゃって、桃太郎が学園ものになったのね。

あのままだと桃太郎の物語自体があの学園にとけこんじゃって、みんなの知っている桃太郎も次第になくなってたんだ。

物語ってほら、はじめとおわりがあるでしょ、おわったらもう、そこまででしょ? 

でもね、あの世界は歴史があって、過去があって、未来があって、続いているんだ。

それで、僕の魔法で、あの世界から桃太郎の物語を救いだしたってわけ

 わかる? と首をかしげられた。まあ、さっきよりかはわかる、けど。

世界が壊れて、その物語にあるはずのない時間、物語の過去と未来ができてしまった。

セイさんは、その世界から、もとの物語の――

 言い終わる前に、あっ、とセイさんがひらいめいたように膝を叩き、俺の台詞を横取りする。

もとの物語の時間をきりとって、桃太郎の物語を直す材料とした! それだ。君、頭いいね、分かりやすいよ

 どうも、と頭を下げるが、そうじゃなくて。

物語を直す材料、ですか

そうそう。物語を直すには材料がいる。君にその手伝いをしてもらってるってわけ

……っていう、ゲームなんですね

そう、そゆこと。なかなかよくできた設定だろ?

 うーん、なんというか、すんごく難しい。
 セイさんは、さあてと立ち上がる。

僕が教えてあげられるのは、今回はここまで。

物語をひとつ救うごとに、君はこうやって、いろんな情報をもらう。

それは、また次の出来事の伏線となる

 また、伏線。

僕、思うんだよ

 セイさんは、意地悪く、微笑む。

どんな小さなことでも、伏線だって、そう思わないかい?

それは

 どういうことですか、なんなんですか、そもそも――。
 いろいろ聞きたいことがあった。でも、セイさんはそれを許してくれなかった。

人生は、何もかもが伏線だよ







セイさんの手が、のびて、こちらに手のひらを向けて。




 俺はすごい勢いで、後方に飛んだ。

 世界が暗転する。真っ暗闇に放り込まれた。世界がぐるぐる回る。宙に浮いたまま――宙に浮いたまま?



大丈夫ですかー? どなたですかー?


 機械を通じた声がする。
 気がつくと俺は、別の世界に飛ばされていた。

1.5 ゲームマスター セイとの対面(3)

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