さっき、さっきと言うと、君とであった直後のことかな? 

あれね、そのままだよ。

だっておかしいだろ? あのピンクの髪の女の子、やれディスクだなんだ、気になる内容のことをぽんぽん放ってたわりに、何も無しのままばいばい、だなんて。

あの物語はイージー、チュートリアルもいいところさ。

学校なんて平和なところ、チュートリアルにはもってこいだろ

 確かに、あのディスクは結局なんだったのか、よくわからずじまいだった。

では、俺はあの世界にもう一度、行くことになる

そうそう、そういう伏線なわけね。

恋愛要素もばりばりだったでしょ? フラグたてるだけたてて放っておくのは、面白くないしね

そういう設定に、あなたがしたんですか?

 俺の質問の意図は、すぐに読まれたのだろう。

 あの世界は誰かが作ったゲームの世界なのか。または、本当にある世界なのか。

 セイさんは、白い歯をわざとらしく見せた。営業スマイル。

そういう世界だったんだよ。

気になっているみたいだから教えてあげよう。

君が救っているのは、実在する世界さ。
だから、心してかかってくれ

 低い声でそう言った後、あっはっは、と楽しそうに手を叩く。

って言わないと真剣にしてくれないだろ? 

きみさあ、ゲームをするときにさ、これはゲームの世界だから、どうなったって構わないや、とか思わないでしょ? 

まあたまに、ラスボス直前でカジノに行って現実逃避したりはあるかもしれないけど、それでも、根本的にはこのゲームをクリアしようって思って、たくさんの問題に時間をかけて取り組むでしょ? 

深く考える必要はなし! 

きっとサンザシちゃんのせいだよね、サンザシちゃん、伏線はってたもんね。きみが世界の有無について訊いたとき!

今はまだ、お答えできません、いずれお話しするときが、って

 言ってた言ってた。ゲームっぽいなあと思ったものだ。

いいよねえ、ゲームっぽくて。ナイスな台詞だったよね、あれ

 俺の心を読んだかのように、セイさんが言う。マスター! と、サンザシが恥ずかしそうに頬を赤らめた。


 しかし、確かに、ゲームに取り組んだ以上、ゲームクリアを最終目標とする以外、ごちゃごちゃ考えないほうがいい気がする。

 ゲーム内の世界、例えばこれが全て映像だったとして、じゃあやめた、だったら、俺が記憶をなくしてまで取り組んだ意味も消えるのかもしれない。

……わかりました。まるで童話みたいな世界、ということですね

いや、童話の世界そのものだよ

 セイさんは、はあ、とため息をつく。

サンザシちゃあん、少し大切な話をするから、お口チャックでよろしくねえ

 セイさんが目をくい、と動かすと、サンザシが押されたように後ろにうっ、とよろめいた。

 口は開かない。んー、んー、と口を押さえながら、サンザシが首を横に降っている。

サンザシ、大丈夫、かっ

 立ち上がろうとして驚愕。俺もいつのまにか魔法にかけられていたらしい。

 ソファから立ち上がろうとすると、見えない何かにひっぱられる!

 サンザシは、数秒間じたばたしたあと、意味がないと思ったのか、しゅんとおとなしくなった。へろへろとしながら、床ぺたりと座り込む。

 魔法をかけた張本人は、はあ、と困ったように天を仰いだ。

童話の世界がねえ、少しだけ壊れちゃったのね。それを直すの。それがこのゲームの目的

少し、ですか……?

 桃太郎が学園ものになるって、相当な改編だぞ?

1.5 ゲームマスター セイとの対面(2)

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