銀髪の、学生服を着た、ゲームマスター。

 表情は柔らかく、端正な顔つきをしている。テンションはサンザシがおとなしく見えるほど高い。

名前、何にしたんだっけ?

 手をさしのべられ、手を握り返すと、次の瞬間、体が宙に浮いていた。

 崇様! と叫ぶサンザシの声が、くるりと回る。いや、回っているのは、俺だ。


 投げられた! 地面に直撃する!


 とっさに歯を食い縛ったが、地面に叩きつけられる直前で、体がふわりと何かに包まれた感覚に陥る。
 なんだ、と目を開けたが、特に何かが包んでいるわけでもない。ふわり、と体が地面に着地する。

 きょとんとしていると、頭上であっはっはっはとゲームマスターが豪快に笑った。

いい表情! いい表情だね! 

今のは魔法だよ、便利だろ。重力なんかにも逆らえちゃう! 

魔法はね、いろんなものに逆らうことができるんだよ。意味深だろ、意味深長だろ、この言葉。

覚えておいてねなんていうのは、伏線の臭いがぷんぷんしちゃうかな?

マスター!

 サンザシの叫び声は、悲鳴にも近かった。

 思わず耳を塞ぎたくなるほどの大きさに、俺もゲームマスターとやらも驚いて身をすくませる。

……サンザシちゃん、怒らないでよ、ジョークだよジョーク

 ゲームマスターがかがみこみ、どうぞと俺に手をさしのべる。

 その手をとって立ち上がる際に、自分の手が先程の手と異なることに気がつく。さっきまで学生服だったのに、今纏っている服は――機械?


 ごつごつとした、プラスチックのような物で覆われている。

 よく見れば、体全体がそうだ。機械のスーツ、全身装備。ロボットにでもなった気分だ。
 
 指先まで隠れているのに、自分で見るまで全く気がつかなかったのは、着心地がよすぎるせいだろう。

気がついたみたいだね

 ちなみにこんな姿でーすと全身鏡をどこからともなく取りだし、俺の前にとんと置く。

おお……

 先程までいた学校で、パソコンを見て近代的だなあと思っていたが、今回の近代的さは、非じゃない。

 体感している重さよりもはるかに重そうな機械のスーツを着ている。青と白のスーツは、洗練されていた。

 ふと、頭に目をやる。なるほど髪の色は、先程の世界よりかもおとなしめ、というより俺の知っている色が使われるような、そんな世界にいく予定のようだ。

気に入ってくれたかな

 楽しそうにゲームマスターは微笑み、自分で立てとでもいうように手を引っ込めた。いや、いいけどさ。

 立ち上がると、着ている機械がガシャガシャと鳴った。うーん、さっきよりさらに、未来的。

 立ち上がると、ゲームマスターはどうぞどうぞと俺にすわるように促した。
 どうもとソファに着席すると、自分もゆっくりと着席する。ただし、なにもないところに、ふわりと。

魔法、ですか

 俺が訊ねると、ゲームマスターはそう、と口のはしをあげた。

魔法です。珍しい?

ええ……というか、まだ実感わかなくて

君も魔法が使えるはずだけど

 え、と俺が言うと同時に、サンザシが叫ぶ。

マスター! 大概にしてください!

 ゲームマスターは両手を耳に当て、へらへらと笑っている。

倒置法だよ、倒置法! 君も魔法が使えるはずだけど、そういう世界に行けば。ね? 人の話は最後まで聞こうね、サンザシさん

 サンザシは、表情を曇らせ、長いため息をついた。なんだかやっぱりたいへんそうだ。

たかし、だそうだね、君のゲームの名前は

 こっちに向き直ったゲームマスターは、そう言ってにこりと微笑んだ。

 営業スマイル、優しいのに、それでいて距離感がとてつもなくある。そしてなおかつ、とっても落ち着いている。

 なんなんだ、さっきまでのハイテンションはどこに消えたんだ。

 このゲームに関係している人は、みんなテンションの浮き沈みが激しいのか?

僕はゲームマスター。長いよねえ、名前で呼んでもらって構わないけれど、残念ながら人に名乗れるような名前がないんだよねえ。

どうしよう、サンザシちゃん

知りません

 サンザシさんの冷たさにぎょっとするが、ゲームマスターは意に介さないようすだ。

知らないかあ。

マスター、マス、んー、スタ、スター! 星だね、ホシさんだと名字っぽいね、名前がいいなあ、そっちの方が親しさがあるかんじがするの、僕の感覚ではね。

どうしようかなあ、あ、音読みすればいいのか! セイって呼んでよ

セイ、さん

うん、崇君、よろしくね! あ、ちなみにこの名前も伏線っぽいかなあ?

 伏線。そういえば、さっきからちらほらとこの人が言ってる言葉だ。

マスター

 たしなめるようにサンザシが言う。まあまあ、と微笑むセイさんは、とても楽しそうだ。

あの、さっきおっしゃっていた、伏線、って

1.5 ゲームマスター セイとの対面(1)

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