笹々木修司

 ………………

笹々木修司

ハッ! ここは!?

お母さん

シュウちゃん、どうしたの?

笹々木修司

え? お母さん? なんで? グリフォンは?

お母さん

グリフィン? ハリー・ポッターがどうかしたの?

笹々木修司

それはグリフィンドール! グリフィンじゃなくて、グリフォン。大きな鳥のモンスターだよ!

お母さん

ごめんね。お母さん難しいことはよくわからないの。それよりご飯ができたのよ。冷めないうちに食べてちょうだい。


食卓の上にはご飯とチキンのソテーが置かれていた。

湯気が上がっており、温かかった。

笹々木修司

……なんだか急にお腹が空いてきた。


僕は皿に手をのばした。

だけど料理は何の味もしなかった。

気がつけばお母さんの姿も見えなくなっていた。

笹々木修司

……思い出した。僕はお母さんを追い払って、その直後にグリフォンにやられたんだった。


おそらく自分はもう生きていないのだ。

そう思ったら涙が頬をつたった。

笹々木修司

ああ……お母さん……お母さん……お母さーん

笹々木修司

僕はもうお母さんの手料理を二度と食べられなくなってしまったんだ。

笹々木修司

お母さん、ゴメン。僕がバカだったよ。先立つ不幸をお許しください。

笹々木修司

……いや、不孝だっけ?


ふと、遠くから僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。

笹々木修司

……呼んでる?


僕は目を見開き、現実に戻ってきた。

西野茜

笹々木くん! 気がついた!?

笹々木修司

えっ? 西野さん?

西野茜

良かった。気絶したまま死んでしまったのかと思った。

笹々木修司

気絶?

西野茜

間一髪で笹々木くんの母さんが駆けつけてくれたの。笹々木くんは攻撃は受けなかったけど、ショックで気を失ってしまったのね。

笹々木修司

お母さんが? え? じゃあ、お母さんは今は?

西野茜

お、お母さんは……

笹々木修司

ま、まさか僕の代わりにグリフォンの攻撃を浴びてしまったんじゃ……

西野茜

 戦ってる。

笹々木修司

 は?


西野さんの言葉は嘘ではなかった。

僕らから離れたところでお母さんが

グリフォンと一対一で対峙していた。

お母さん

うちのシュウちゃんに酷いことしようとするなんて絶対に許さない!!! 動物だからって容赦しないわ!!!

笹々木修司

……いや、動物って。


グリフォンは巨大だった。

とうてい人がかなうようなサイズではない。

にも関わらずお母さんは一歩も引かなかった。

自分からアクティブに攻撃を仕掛けていった。

お母さん

後悔をその体に刻みなさい! 怒れる母のリミット・ブレイク! 比丘尼大姉乃拳!!!

西野茜

……す、凄い。何が起こっているのかよくわからないけど、なんか壮絶! 笹々木くんのお母さん、強すぎ。

笹々木修司

……ファ、ファンタスティック。


お母さんの圧勝だった。

グリフォンは音を立てて地面に倒れ伏した。

お母さん

……南無三

笹々木修司

 …………

西野茜

…………

お母さん

シュウちゃん。怪我はない? 膝小僧、擦りむいたりしてない?

笹々木修司

……う、うん。

お母さん

ごめんね。お母さん、先に帰れって言われたのに、途中で悪い予感がしたから引き返してきちゃったの。

笹々木修司

……いや、なんでお母さんが謝るんだよ。僕、助けられたんじゃないか。

お母さん

なーに言ってるのよ。息子のピンチをすくうのは母として当たり前のことじゃないの。当たり前だのクラッカーよ、オホホ。

西野茜

……カッコイイ。

笹々木修司

えっ!?

やがて夜になった。

夕食はお母さんがグリフォンを料理してくれた。

お母さん

おまたせー。グリフィンドールのチキンソテーよ。包丁もオタマもないから苦労したけど、味は悪くはないはずよ。

笹々木修司

……グリフィンドールじゃなくて、グリフォンだから。

お母さん

あら、そうだったかしら。ごめんね、お母さん物覚えが悪くって。

お母さん

 はい。茜ちゃんもどーぞ。

西野茜

あ、ありがとうございますっ!


グリフォンの肉は初めてだったけど、

基本的には鶏肉と同じような食感で食べやすかった。

笹々木修司

……美味しい。お母さんの料理の味だ。

笹々木修司

……僕は一人では何もできなかったくせに、お母さんを邪険にしてしまった。

笹々木修司

好きな女の子と異世界に来れて、舞い上がっていた。浮かれていた。調子に乗っていた。ダメな息子だった。まさに愚息ってやつだ。

笹々木修司

 …………

笹々木修司

 お母さん!

僕は意を決してお母さんに呼びかけた。

お母さん

ん? シュウちゃん、どうしたんだい?

笹々木修司

今日はありがとう。異世界に来てくれて。モンスターから助けてくれて。それに料理も作ってくれて。

笹々木修司

とても美味しかった。あたたかかったよ。

お母さん

あらあら。シュウちゃんったら。改まってそんなことを言うなんて珍しいわね。

笹々木修司

僕は今日、お母さんが僕のお母さんでいてくれてよかったと思ったんだ。だから言葉にして言いたい。ありがとう、って。

お母さん

やあねえ。照れるわねえ。

西野茜

……美しきかな、親子愛。


しかしは物語はこのまま幕を閉じない。

むしろ、これからだった――

お母さん

あ、そうそう! 昼間からずっと聞こうと思っていたんだけど、シュウちゃんは茜ちゃんとは付き合ってるの?

笹々木修司

 はあっ!?

西野茜

 え?

お母さん

茜ちゃんがプリティーキュートなべっぴんさんでよかったわ~。でも最近の子たちはませてるって言うじゃない? だから進展具合はちゃんと確かめておこうと思ってね~。

笹々木修司

いやいやいや。確かめるってなんだよ!? 息子のプライベートにズカズカ土足で踏み込んでくるなよ!

お母さん

いいじゃなーい。お母さんもまたには若い頃に戻ったつもりでガールズトークがしたいのよ。さあさあ、茜ちゃん。うちのシュウちゃんとはどこまで進んでいるの?

西野茜

え? でも笹々木くんとはただのクラスメイトで……

お母さん

ただのクラスメイトでも、一緒に異世界に来ちゃうくらいなんだから、多少は憎からずに思っているんでしょ?

お母さん

それに茜ちゃんはシュウちゃんが部屋に隠している雑誌のグラビアアイドルにそっくり! シュウちゃんの好みド・ストライクなのねー。

笹々木修司

 お母さん!


何を言ってもお母さんは止まらなかった。

僕の堪忍袋の緒はものの数秒で切れた。

笹々木修司

今すぐ家に帰れよ、クソバババ!!!

お母さん

あらー、ついさっきはありがとうなんて言ってたのに、酷い言いようねー。

お母さん

でもお母さん、もう一人で帰ったりはしないわ。シュウちゃんと一緒に帰ることに決めたから。この世界はちょっと危ないもの。

笹々木修司

 うるせーよ! さっさと帰れよ!!!

お母さん

それはできないお願いねー。オホホ。

次回! 『笹々木、覚醒』

お母さんの料理はあたたかかった

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