~少年と竜~
少年は村の伝説を確かめるため、村の外れにある森へひっそりと出掛けた。
『あの森には竜が住んでいる。神聖な場所だから近づいてはいけない』
それが、村に古くから伝わる伝説。大人達は口を揃えて言うが、竜の影らしきものすら見たこともない。
普通この様な伝説があれば、一つくらいはそれに因んだ『何か』があっても良いのだが、村には竜にまつわる銅像すらなければ、何かをお供えをする等の儀式も何もない。
つまり、信憑性がまったくないのだ。
だが、村の子供達はそこに疑問は持たない。
生まれた時から大人に躾けられた事であり、自分が大人になれば当然の様にそんな事に興味も持たなくなる。
ただ、この少年だけは違った。
少年はこの村の出身ではなかった。
都会から両親の事情で田舎の村に引っ越すことになった少年だったが、何もないこの村に少年は退屈を感じたことはなかった。
自分と年が近い子供も多く、友達もすぐにできた。
そんな日常も唯一退屈を感じたのが『森の竜の伝説』だった。
神聖な場所だと大人は言うが、誰かが手入れをしている分けでもなく、ただ自然に身を任せた状況。
明らかに怪しい状況なのに、周りの大人はもちろん、同年代の友達も誰も疑問に思ってくれない。
これがどうも退屈で仕方なかった。
少年は夜中、村の人が全て寝静まった時間に家を抜け出し、森へ足を踏み入れる。
当然の様に見張りはいない。
やはり、誰も森に入っていないのだろう。道などはなく、少年はあてもなく歩き進む。
途中ガサゴソと木々が揺れ、見たこともない色彩の鳥や小さな動物が動くのを見たが、少年は臆することはなかった。
森の中は完全な闇ではなく、奇妙なほど明るかったのだ。
それは月明かりや星の光それらとは違う光り。
まるで草木自体が輝きを魅せているかのような光り。
少年はその事実を目の当たりにし、一つ確信した。