第4話「喜多村まつり、Lv17」
第4話「喜多村まつり、Lv17」
うんしょ、うんしょ
たくさんのアイドルたちと、
ダンスレッスン中のことだった。
がらりとドアが開く。
やってきたのは――。
さーて、きょうは『特訓』するぞー
プロデューサーの言葉に、
わたしたちは身を固くした。
ついに来た。
誰かが餌にされる、その時が来たのだ。
お願いします!
助けてください、お願いします!
そう叫んでいた丘さんの声が、
耳の奥にまだ張り付いている……
じゃ誰にするかなー
そのとき、ふたりのアイドルが、
前に歩み出てきた。
ハッとするような、綺麗な人たちだ。
プロデューサー、
こないだはあたしたちを、
特訓してくれるって言ったじゃない
そうだよそうだよー、
ねーお姉ちゃんー
プロデューサーを恐れず話しかけるこのふたり。
その親愛度も高くて、とっても羨ましい。
初期からいるメンバー。
喜多村姉妹だ。
姉が喜多村まつり
妹が喜多村はなび
姉妹で共通のスキルを持つアイドルだ。
どちらも『レア』の子で、
プロデューサーのお気に入り。
とても仲の良い姉妹らしい。
確か、
まつりさんは一番最初に手に入れたレアの子で、
ずっと持っていたんだったとか。
ということは今回わたしの出番はないのかな。
何事もなく済んだらいいんだけど……。
それと、芦原ー
えっ!?
名前が呼ばれた。
わたしが餌にされる?
サッと顔が青ざめた。
――だが、違ったようだ。
芦原も『特訓』してやるからな、
ありがたく思えよ
俺ってなんて優しいんだろうなー、葦原
は、はい……っ
こんな地味で平凡なわたしの、
なにが気に入ったんだろう。
いや、そういえば矢中さんが言ってたっけ。
プロデューサーは
『新しい子』が好きだから、
きっと芦原さんはまだまだ大丈夫よ
餌にされることはないわ
は、はあ
そのときは気休めだと思っていたけど、
もしかしたら本当なのかもしれない。
ふーん、運が良かったわね、愛子ちゃん?
チッ。おねーちゃんの特訓の邪魔して……
これだからもう、
新しいアイドルなんていらないのよ……
うう、そんなつもりないのに……
喜多村姉妹がこわいよお
当然だ。
彼女たちはわたしのことが疎ましいんだろう。
矢中さんみたいに優しくしてくれる人が稀有なんだ。
と、そんなことを思っていると。
おー、きたなきたな
わたしの元に、連行されてくる五人の少女たち。
目隠しされて、手錠をつけられて。
まるで囚人の護送のようだ。
え、なんですかこれ
どこいくんですかー
丘、アイドルがんばります!
その全員が丘恵美ちゃんだった。
…………
それを連れてきたのは、矢中さんだ。
…………
わたしは思わず目を見張った。
なんだかもう、すごい、すごい光景だ。
他の人は見慣れているのか、動揺していない。
わたしはいったいなにを思えばいいんだろう……。
矢中さんはなるべく考えないように、
って言っていたけど。
つらい。
つらたんです。
でも、うん……
丘さんはみるみるうちにカードと化してゆく。
そのすべてが、わたしの体の中に吸い込まれた。
ぐんぐんと経験値が上昇してゆく。
そのたびに体が軽くなってゆくのがわかる。
なにかとてつもなく、
罪深いことをされているような気がする。
……あんまり考えないことにしよう。
よしよし、レベル13になったな。じゃあ次は喜多村妹ー
はぁーい
再びわらわらと運ばれてくる丘さんたち。
もちろん、他のノーマルの人もいっぱいいる。
…………
矢中さんは無表情だ。
わたしは元の位置に戻って、その様子を眺めていた。
ノーマルの子たちが吸い込まれてゆく姿を。
おっ、すごいな、
特訓大成功じゃないか、喜多村妹
へへーん、当然っしょ☆
偉いぞ、いいぞ
へへっ☆
もうおねーちゃんより、
レベル高くなっちゃったもんねー☆
これならレベルMAXまで少しだな。
ふむ。餌はもう切れちまったんだよな。
……どうすっかなー
プロデューサーの目がわたしたちを見回す。
!?
――
あは
目を逸らす人、
スマイルで受け止めている人、
震える人、
そして――。
よし、姉を餌にするか
プロデューサーが言った。
え?
次の瞬間、姉はカードに変化した。
妹が見ている前で。
……え?
よし、スキルアップしろよー
え?
妹の体に吸い込まれてゆくカード。
その光が妹を包み込んだ直後――。
Skill up の文字が空に踊った。
おお、いいぞいいぞ。
すごいな喜多村妹。素晴らしいぞ
え
妹は目を見開いたまま、
姉のいなくなった空間を見つめ続けていた。
え
いつまでも、いつまでも。
誰もいなくなったレッスン室で、いつまでも……。
喜多村まつり(R)
Lv 17 / 30
親愛度 100 / 100
特技:ハッピーダンシング
効果:全体のダンスパワーを5%up
喜多村姉妹、しっかり者の姉。
甘えん坊の妹をそばで支えている。
宮崎県生まれの、イマドキの女子高生。